"子供がいたから大人になれた"『人生ブラボー!』


 カナダ映画!


 家族経営の精肉店で働くダヴィッドは42歳。しかし借金を背負い、恋人の妊娠を前にしてついに愛想をつかされそうになっている。さらに、かつて行った精子提供によって生まれた140人の子供が、彼の身元の開示を目指して裁判を起こしていると言う。友人の弁護士に相談し、身元を隠し通すための訴訟の準備を始めたダヴィッド。だが、うっかり訴訟した子供の一人のプロフィールを見てしまい……。



 また特徴のない邦題。実話が元になっている、ということだそうなのだが、いやあ、実にあり得る話である。精子なんていくらでも湧いてくるし、そんなものを売り飛ばしてお金になるのなら、オレだって金欠ならやりかねない。ただまあ、不妊治療の一環で精子を提出する時などもそうだが、実際に病院でポルノ雑誌あてがわれてオナニーやると、非常に微妙な、なんとも言えないうら寂しい心持ちになるのではないかなあ。その雑誌もいったいいつのものなのか、誰が買ってきたのか、とか考えてたら、もしかしたら立つものも立たなくなるのかもしれないね。


 主人公は果たしてそんな気持ちになったのかならなかったのか慣れたのか、600回を超える精子提供を行い、500人以上の遺伝学上の父親となることに。その内、140人から実名開示の訴訟を起こされ、さあ大変。折悪く借金はピークに達し、ついでに彼女の妊娠も判明。
 しかしまあ、いい加減追い詰められて、もう歳も歳だしということで、ついに真人間になることを決意。訴訟からも最初は目をそらしていたが、訴訟人リストの試しに見てみた一人目がプロサッカー選手だったことに、俄然気を良くしてしまう。このあたり、調子が良くて憎めない性格が出ているなあ。これ以上状況が悪ければ、簡単にくじけそうだし……。
 すっかりその気になってしまい、数々の「子供」のところを、正体を隠して順番に行脚してまわる。みんながみんなまるで違った人間だけど、みんなちがってみんないい、だいじょぶ、だいじょうぶ!(by『だいじょうぶ三組』) さりげなく人助けして顔を覚えられて、訴訟の説明会で「あっ、あの人だ!」と何人もに見つかるわけだが、この時点で相当不自然だわね。障害を持った子の代理ということで潜り込み、キャンプにまで参加。すっかり仲良くなって感化されてしまう。


 借金さえなければ、その後の逆訴訟云々のエピソードも別に必要なかったのになあ、というぐらいに丸く収まり、めでたしめでたしという話。借金取りぐらいしか悪役は出てこないのだが、『TED』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20130123/1358909991 )もそうなんだけど、周りがいい人ばかりの方がより主人公のダメさは際立つし、そういう状況だからこそ、なぜ誰でもできることができないのか、が問われる。「悪い人」が出てくると、話が変わってしまうからなあ。


 大人になる、子どものために頑張ることを決意し、その時に着ているアベンジャーズTシャツがヒーローの隠喩……なんだろうけど、いい歳してこのTシャツはいいのか!?というボンクラっぷりとして強調されてしまうね。
 そして、妊娠した彼女はまさかの警察官! なんでこんなのと付き合ってるのだろう、と思ったが、やっぱり「世の中を良くしよう」という志を持った人は、ダメな男を立ち直らせよう、というモチベーションで恋愛に臨んでしまうのだろうか。そういう男こそ中で出したがるというのに! その一方で、彼は子供の一人につきまとったせいで「警官か?」と疑われていたりするあたりが、何か皮肉だ……。
 そんな感じで最初はうざいおっさんに見えた主人公なんだが、だんだんとバカだけどかわいい奴に思えてきてしまうあたりが、まさに映画のマジックですな。このキャラを立てる丁寧さは買い。重厚なテーマの作品としてより、ボンクラの成長物語として観よう。子供がいるからこそ、大人は大人になれるのだ。