"旅立った先は?"『ベルセルク 黄金時代篇3 降臨』


 三部作完結!


 ガッツが去り、グリフィスが地位を奪われて捕らえられてから一年。逃亡した鷹の団をまとめるキャスカは、密かにグリフィス救出の計画を練っていた。暗殺集団に狙われていた鷹の団だったが、舞い戻ったガッツの助けを得てこれを撃退。ようやく心を通じ合わせたガッツとキャスカは、共にグリフィス奪還に臨む。だが、全てはもはや手の届かないところまで進みつつあった……!


 さて、三部作と言いつつも、原作漫画では序章にあたる部分に過ぎないのですな。ただ、あまりに壮大かつショッキングな前触れで、後の展開が霞むほど強烈な存在感を放っていることは間違いなく、映像化するならばまずこれであろう、というエピソードなのは間違いない。
 前二作(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20120625/1340596618)は、まあ正直なところダイジェスト版っぽく微妙な出来であったが、不思議と今思い返してもそれほどどこが悪いとか思わないのは、たぶん原作の記憶と合わせて補完しているのであろうな……。


 今作、オープニングからいきなりゲンナリしちゃったのである。なんで「拷問後」のグリフィスをいきなり溜めもなく見せるかなあ……。散々苦労してやっとあの地下の竪穴の奥底まで辿り着いて、その「結果」があの姿、という感情のうねりがまるで無視されてしまっているのだよね。あのビフォーアフターこそがショッキングなところであるのに。オープニングはあえて一年前の拷問初期「綺麗なグリフィス」にしておけば、落差が際立ったと思うが……。
 ガッツにして見ればあてもなく放浪していた一年、キャスカにしてみれば居場所もわからず計画もまとまらず焦燥ばかりが先立った一年であり、結局のところ自分たちが手をこまねいていたせいで手遅れとなって取り返しのつかない結末につながった、その自責の念。あの美しかった男が、自ら動くことも口をきくこともできなくなり、すべての夢は断たれてしまったという絶望感。それはグリフィス自身にとっても助け出されて初めて実感することだった。
この何もかも終わった、というどん底があるからこそ、蝕の瞬間が輝くのになあ。


 さて、シラットは出てきたね。漫画読み直したら『ザ・レイド』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20121102/1351834330)と同じアクションしてたので感動したわ。しかし何しに出てきたのかはよくわからず。さらに暗殺者集団とエンジョイ&エキサイティングもカットで、大幅にアクションシーンは減っておる。逆に尺が余るんじゃないかと危惧したぐらいだったが、蝕のシーンは長かった! いや、原作漫画にかなり忠実にやってる……のだけれども、印象的なカットとカットの間の中割りを丁寧にやっているのが裏目に出ていて、単になぞっただけに見えてしまうのだな。絵はぬらぬらと動き、原作のカットも再現されていて、何が不満なんだという話なんだが、そもそも漫画と大スクリーンのアニメでは演出も違うべきだし、逆にテンポを落としてしまったな。
 あ〜、懐かしい、漫画のあのページをめくるのさえもどかしい、だけど続きを読みたくないようなあの感覚。ちょうど、初期の白かった絵から急激に密度を増した時期にあたっていたこともあり、想像を超えたものを読まされた感じで衝撃的であった。こないだ再読したら、さすがにその衝撃は薄れていたので、今回の劇場版も過度な期待はしていなかったものの「ああ、やっぱり……」。
 もう少し映画独自の演出も入れて、テンポも上げて良かったんではないかな。特に惨殺シーン以降の、ぬらぬらと絵が動くゆえの軽さが物足りなかったところ。


 R-18版を観たのだが、まあ乳首はがっちり描いてあったね。ただ、角度的には見えてなきゃおかしいはずのガッツさんのギンギンのガッツ・ジュニアさんはなかったが! あれを描くとR-20になるのか? しかしエロいと言えばエロいけど、キャスカってもっとムキムキと筋肉あって、色気がなさそうでやっぱりあるようなアンバランスさが持ち味で、特にそれがガッツにとっては好もしい、ということのはずなんだな。それが目の前で陵辱される、というところが肝なんだが、その個性を欠いたあたりも惜しい。
 我らが川畑要さんのエンディングテーマがバッサリとカットされておったのは良かったが、エンディングの話の処理もあれっ!?と思ってしまったわ。原作読んでれば、かくも過酷な宿命の果てにそれでも復讐を胸にガッツは旅立つ、という結末なのがわかるが、あれじゃ最後、どこへ行くかわからんではないか。キャスカをほっぽってまた旅に出ちゃったようにも見えてしまう。「子供」の話までズバッとカットされていたのもびっくりですな。刻印が有る限り、二度と平穏な生活はないという前提を示した上で、修羅の道に身を投ずる決意と旅立ちを描かないと、この序章は完結しないだろう。義手と巨大な剣もただ出てきただけという……。


 原作読んでの脳内補完前提のところと、妙に忠実になぞったところが結果としてすれ違い、作品自体の魅力を殺してしまったな、という印象。オチも腰砕けになったし、もうこんな形骸だけになるなら続きはもういいんじゃないですかね。いつ終わるのかもわからん話なんだし……。

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