"くどく暑苦しいまでの顔芸"『レ・ミゼラブル』


 2012年鑑賞のしめくくり。ミュージカルの映画化!


 一欠片のパンを盗んだ罪で強制労働につかされ、脱走の罪を加えられ19年も自由を奪われたジャン・バルジャン。仮釈放後も、苛烈な監視と迫害にあう。しかし、助けられた教会から銀の食器を盗み出したが、司祭に許されたことで彼は人生をやり直す決意をする……。8年後、彼は違う街で工場主になり、市長にまで昇りつめていた。だが、かつて彼を監視し続けた役人、ジャベールが赴任して来て……。


 昨年が『リアル・スティール』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20111211/1323615379)で今年はこれだから、年末男と化しているヒュー・ジャックマン。今回はジャン・バルジャン役ということで、三つの年代を演じ分け。もともと舞台経験も豊富な人だし、このミュージカル映画も適役だわね。しかし今作、ちょっと老年期パートが弱かったかな……。冒頭の力持ちっぷりと、その後の「俺は生まれ変わるぞ」宣言の野生的迫力とダイナミズムに対し、ラストシーンは特殊メイクで無理やり老いぼれた顔をしてるようにしか見えないのだよね。もともと話が端折られてるので、死因らしい死因も見えないし。やっぱりまだまだ脂ぎったパワーとボンクラ臭を濃厚に漂わせてる人なので、少々無理があったな。


 ミュージカルということだが、やっぱあれは遠目で舞台を眺めて音楽聴いて、ダンスなどのアクションを見るもの、という認識。だからして、歌詞による説明や演技もオーバー気味になるわけだが、その説明的な台詞と情感たっぷりの音楽に加えてどアップで顔芸まで見せられるわけだから、さすがにくどいわ。
 そんなわけで、途中から字幕を読むのを半分ほど放棄してみたのである。原作は有名だから筋はだいたい知ってるわけだし、くどいと感じる、説明的ということは、他で十分に表現が出来ているということである。「俺は悲しい!」ということは顔と音楽を見てればわかるので、字幕なしでもいいわけだ。で、顔芸と音楽に浸って見ればなかなか気持ちよく没入できた。これはいいんじゃないか……と、思っていたのだけど……寝ちゃったわ。いやねえ、さすがに頭を働かせなくて済みすぎてしまったか、気持ちよくウトウトしてしまったね。


 そんな中でもアン・ハサウェイの歌うシーンがハイライト。歌も良かったし凄い熱演だったね。こここそ字幕読まなくていい。それに対してお綺麗なポジションに留まるアマンダはちょっとキャラが弱かったし、同じ遺伝子の持ち主に全く見えなかったが、まあ幸福の象徴的な存在だからな。


 お話的には、ジャン・バルジャンが不当な量刑によって苛烈過ぎる懲罰を受けたこと、ファンテーヌが娼婦に身を落とす結果となったこと、後半の学生や子供たちの革命は、王制への批判や自由の侵害というテーマで一本の線につながっているはずなんだが、そこがバラバラのエピソードの羅列のように見えたこともマイナスかな。事実上、敵役を一人で担ってるジャベールが象徴的存在になれず、いかにも命令に従うだけの小役人で魅力がないのも響いた。
 これでは、マリウスとコゼットが結ばれバルジャンが召されるシーンが、全員が革命の歌を歌うラストショットにすんなり繋がらないよなあ。単にミュージカルだから、最後は全員集合して歌うんですよ〜という付け足しのようではないか。


 というわけで、2012年最後に観たけれど、まったく上位を揺るがすことはなくほどほどの位置に収まったのでした。やっぱりラストではラッセル・クロウなんかも再登場して、みんなで踊り狂っても良かったんじゃないかなあ。サシャ・バロン・コーエンヘレナ・ボナム・カーターもほぼ「ギャグ・パート」と化してて浮いてたが、最後は彼らも含めて全員が集まれば逆にカオス感が出て面白かったかもしれない。

レ・ミゼラブル~サウンドトラック

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