"その腕ひしぎ逆十字はキスより甘い"『エージェント・マロリー』


 ジーナ・カラーノ初主演!


 ジャーナリスト奪還計画を終え、元恋人ケネスのスパイ企業から退社し、フリーのエージェントとなったマロリー。ケネスからの依頼によって、MI-6と協力した作戦に参加するため、ダブリンへと飛ぶ。だが、そこで見たのは、奪還したはずのジャーナリストの死体と、突如裏切って彼女を襲う同業者だった。事件の真相をつかむため、姿をくらまそうとするマロリーだが……。


 ジーナ・カラーノと言えば、格闘技オタ的に少々斜めからみると、エリートXCのトップ選手という肩書きこそあるが、いかにもルックス先行で、計量に失敗しながらも試合が組まれたりと興行的にプロテクトされている感もある選手であった。興行の顔としてアメリカの女子MMAの黎明期に活躍したが、その活躍は競技的に未成熟で選手も出揃っていない黎明期だからこそのもの。サイボーグ戦の完敗を経て後は試合をしていないことも踏まえると、もう格闘技における競技的実力面でトップどころにはついていけない。要は一昔前のスターだな、という感覚であった。


 そういう人が、その格闘技での人気と知名度を踏み台に映画にチャレンジする、という構図も、まあとやかく言おうとは思いませんがねえ、うん、というところ。しかしそういう存在である彼女を使って、その売りであるアスリートとルックスを最大限に生かすことに特化した格闘技アクション映画を作ろうというのは、企画としては真摯なものも感じますな。
 果たしてカットを割らない中での組み状態から関節技への流れるような移行っぷりと、ムエタイベースのコンパクトながら見栄えのする打撃のフォームに加え、その動作を連続で行う身体能力の高さには驚かされたね。ただの映画俳優ではなかなかこうはいかない。しかしながら『君への誓い』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20120603/1338698187)でもレイチェル・マクアダムズを「壊されそう……」と怯えさせたチャニング・"マッチョボディ"・テイタムとの初戦でいきなり体格差に押されるなど、リアルな要素もあり。フロントチョークの脚のホールドや、三角締めのセッティングなど技術も光ったし、そこで苦しそうな演技をしてみせるファスベンダー! 普通のバーやホテルの部屋みたいなとこでの喧嘩に、総合格闘技の技術が代入されるとこうなる、という思考実験的な見方もできる。相手をリフトして、ケージならテイクダウンだが、部屋の中なら棚に叩き付けた方が効果的、とか、壁や椅子を利用しての打撃とか……。しかしそうして周囲の状況をも殺陣に取り込み、役者が「出来るから」という理由でカットを長くすると、自然と「ジャッキー・チェンのアクション」に近づいて行くのが不思議……ではなく必然なのだろうな。


 ソダーバーグらしいちょいトリッキーなシナリオと画面作りは、わかりにくいと言うほどわかりにくくもなく、むしろ随所にどつき合いを挟むことを要求された単純なシナリオをにもう少し箔をつけるためにだけ、時系列の前後を取り入れてるぐらいに見える。ただまあ、実は単純なストーリーと、それを錯綜させるための演出が、映画全体の面白さに結びついているかというとそうではなかったりする。「お、今、良い動きしてたぞ!」とか「ソダーバーグさんがまたやってるぞw」という個々の要素こそまずまず楽しめるものの……。まあ順番にぼこられる豪華キャストっていうコンセプトがそもそも「点」でしかないんだから、当然かな。
 ユアン・マクレガーの設立したスパイ企業が、赤字続きで後始末も覚束なくなってる、という設定はちょっと面白い。マイケル・ダグラスがそれに対して「国家を背負ってないから責任も取らない。投げっぱなし」と吐き捨てるところも、行政(笑)と民間の対比になっている。自社の利益しか考えていないし、傾いても倒産してもそれによって低下したサービスは下がったまま。で、当のユアンたちがやたらと行政側を詐称するあたりも何か皮肉だ。「違うじゃん!」と突っ込まれてへどもどするあたりも笑った。


 面白かったのはあくまで部分部分で、全体として観るとオススメはしないかなあ。ジーナ・カラーノさん、動けるし美しいけど、やっぱり少々強面な感ありなので、主演よりもライバルキャラとしての方が映えるような気がする。実際の格闘技ではクリス・サイボーグにボコボコにやられたわけだが、映画では逆にサイボーグの立ち位置に立って、軟弱な主役を追いつめて滅多打ちにするような存在になると光ると思うなあ。とりあえず、スカヨハとかアン・ハサウェイとかをパウンド落としていじめたらいいと思いますよ!(リョナオチ)

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