"早過ぎた来訪者"『ロボット 完全版』


 待望の3時間版公開!


 10年の歳月を投じて完成した超高性能ロボット「チッティ」。製作者のバシーガラン博士は、愛国心からチッティを軍に提供しようとするが、かつての恩師で彼の才能をねたむボーラ博士の妨害を受けて、認可の道を断たれてしまう。バシーガランはチッティをさらに進化させ、ついに感情を生み出すことに成功するのだが、チッティはバシーガランの婚約者であるサナに恋をしてしまい……。


 カットされたという版をわざわざ見る気も起こらず、完全版やらないかな〜と思っていたのだが、予想を超えるヒットということでまさかの公開。最初からこうしとけば良かったのに。どこの宣伝も必死なのはわかるが、質を落とすつまらない小細工ばかりやっているね。
 そんな文句を言いたくなるのも、内容が素晴らし過ぎたから。事前にyoutubeなどでクライマックスの大量ロボの数珠つなぎアクションは話題になっていて、かく言う僕も何度か観てしまったのだが、そんな映像のユニークさとド迫力も霞むぐらい、中身の詰まった良い映画でした。


 冒頭のロボット制作シーンから、その丁寧さに妙にわくわくし、少しずつ性能を発揮していくシーンでハッキリと興奮を覚える。これは、すごいことになるんじゃあないか!? 果たして、数々の機能を持ったロボットは、顔こそ作者である博士と同じラジニカーントなのだが、人間をぶっちぎった超絶的なパワーの持ち主。しかしながら融通が効かない側面も。ぎょっとしたのは警官の手に切りつけるシーンで、後から「軍事利用のため、アシモフロボット三原則が適用されていない」ということが明らかになる。
 すっげえ、ラジニカーント博士、倫理観の欠片もないんじゃないの? と思いきや、そのかつての恩師はロボットを使ったテロを企んでいることがわかり、どいつもろくなことを考えていないことがわかってしまう。助手の二人もどうしようもない奴だし……。
 ヒロインのために暴漢を蹴散らしたり、火災現場で救助を行ったり、妊婦の手術したり、一歩間違えると死者の出る状況で活躍を積み重ねるロボット。痛快娯楽作品のように演出されながら、その裏に制御のできない危うさを孕んでいることを常に示唆し続ける前半にうなった。風呂場から救った少女のエピソードがそれを端的に示していて、「欠点」を指摘されたラジニカーント博士は、ついに禁断の領域へと手を染めることになる。


 暴走する二人の科学者を通して、我々はロボットの在り方、人がそれを作る意味と、許される領域について考えることとなる。映画の後半その問いは、当然のことながらロボットとは何か、に留まらず、人間とは何かという命題へと展開していく。正直、ここまで深く踏み込んでいるなどとは想像もしてなかったので、度肝を抜かれましたよ。人としての尊厳をついに得ることの出来なかった彼が、殺戮の果てに「ロボット」としての尊厳を見出すあたりは、『ロボコップ』が一周回ってたどりついたような境地ではないか。そういったロボットの成長の果てに、作り手である博士や助手たち、人間の成長や進歩もある。それは二歩進んで三歩下がるような失敗の繰り返しで、人の営みなんてそんなものなのかもしれないし、分不相応な進歩にはしっぺ返しが待っている。だが、それを繰り返して今があり、また未来がある。ラストは泣けた!


 昔『ムトゥ』や『ラジュー』を観てから幾星霜、同じインド映画でも随分と洗練されたなあ、という印象で、CGの精度もアクションの組み立ても昔と全然違うではないか。ラブシーン代わりに投入されるミュージカルシーンの歌も踊りも最高で、尺を短くするためにこれをカットするなど、にわかには信じ難い。博士とヒロイン、ロボットとヒロインということで、基本は同じ組み合わせだから最後はちょっと飽きたけど……(笑)。でも、ちゃんとシーンごとの二人の関係性の表現になってるんだよ!


 3時間、隅から隅まで堪能した。まったく素晴らしき傑作だ。完全版観られて良かったなあ。

Robot

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