"糞の海を泳ぎ切れ"『ディヴァイド』


 終末映画!


 突如、ニューヨークを襲った爆撃。ビル群は爆炎に飲み込まれ、次々と倒壊して行く。婚約者と共に地下のシェルターに逃げ込んだエヴァ。シェルターの持ち主であるミッキーは9.11後、ムスリムが襲って来ると言う妄想に取り憑かれ、水や食料、自家発電機を運び込んでいた。逃げ込んだ9人の明日をもしれない生活が始まる。外は放射能が充満していると主張するミッキーは、頑なに扉を開けようとしない。次第に対立が起こり……。


 まさに核戦争まっただ中でシェルターにこもった9人の男女。設定から展開、キャラクターからアクションまでベタで、どっかで観たような展開の集積。序盤の核戦争から、シェルター内の道具立て、マイケル・ビーン演ずる9.11で家族を失い中東に対して偏見を抱いている男、防護服やらビニールシートやら、「はいはい、またこれね」と言わんばかりのガジェットばかりで、登場人物の演技も通り一遍。狭いコミュニティの中でお約束通りに暴走して行く男たちと、それに反発する者……。


 なのだが、不思議に見せてくれるのは、死体解体や、娘を失って自己を喪失し性奴隷になる女など、嫌なものを正面切って描いてくれてるからかな。ウンコやら豆料理やら女装やら、描写は濃い目、そこに至る前振りはあっさり気味、なんでそうなったのか、と言うとよくわからんが、そういうこともある。それは冒頭の核戦争から作品内で通底されていて、主人公の女性の視点を通して、一人の人間が世界とつながれないこと、わずか数人のシェルターという小さな世界さえ変えられないこと、生きて行くことさえ困難な状況を描く。全てはままならぬ、理解することさえできぬ世界そのもので、不信と裏切りの対象だ。善きものは食らい尽くされ、尊厳は顧みられない。
 ある日、なんの前触れもなく世界はガラリとその様相を変えてしまい、僕たちもそこへ放り出される。愛も正義も倫理もなくなり……いや、最初からそんなものはきっとどこにもなかったのだ、そんなことを思い知らされる。されど、そこで如何に生きるか……。極限の中で何を選び取るか。


 ダメな婚約者、いい奴だけど草食系、ゲス、サイコ、男キャラはろくなのが登場しないので、なかなか感情移入しづらい。女性の方が面白く観られるかもね。主演のローレン・ジャーマンと言う女優さんは美人。ラストの便所ダイブは、ぜひとも防護服無しでやって欲しかったなあ。その先に待ち受けているのは絶望的なハッピーエンドだ。ベタベタだけど、こういうジャンルが好きなら楽しめる佳作。

ホステル2 [DVD]

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