"天高く仏燃ゆる日"『王朝の陰謀 判事ディーと人体発火怪奇事件』


 ツイ・ハーク監督作!


 唐の時代、史上初の女帝とならんとしていた則天武后は、自らの権威の象徴として巨大な大仏を建造させていた。だが、視察に来た外国の使節の前で、突如、謎の焼死事件が起きる。突然、発火する人体……。託宣を受け、武后はかつて己の意に逆らったために幽閉した切れ者の判事ディーを出獄させるのだが……。


 どどどんと大仏が登場し、ひさびさに大作らしい大作が来たな、という印象の作品。虚実ない交ぜになったハッタリ感溢れる一大時代絵巻ということだが、出だしからナレーションでざっくり則天武后の時代の背景を説明しちゃうあたりも、語りきれない中国史の壮大さを想起させる装置と化しているね。


 人体が発火するという不可思議な怪事件が起こり、背景も複雑で真相の見当もつかない状態に、幽閉されていた名探偵が牢獄から開放される、というミステリの序盤としての定番パターンから幕開け。観終わってから振り返ってみると、則天武后側の立場から捜査に当たるものの信頼関係はなく利用されていることを疑うディーの立場を描くことで、事件の様相を複雑怪奇に見せていることがわかる。味方のはずの人間も情報を隠し、真の思惑を見せようとしない。その結果、意外に単純だった真相になかなかたどりつけなかった、という構図になっている。


 そんなこんなで騙し合いが続くから謎解きものとしては少々歯がゆく、逆に宮廷史劇らしい味わいは濃く出ている。ただそうして多彩な要素がぶち込まれているせいか散漫な感があるのは否めず、お色気シーンやワイヤーアクションもどれもボリューム不足で、総じて風格や大作感はあるものの、軸がなく冗漫な感が漂う。いや、ツイ・ハークの映画って多かれ少なかれそんな感じがあって、中心になるテーマやキャラクターがちゃんとないと、いささかまとまらない感じになってしまうのだよなあ。


 おそらく則天武后とディーの関係を主軸にしたかったのだと思うのだが、ミステリ要素のせいで信じ難い人物として描かれるため、なかなかそちらにも乗り切れない。歴史上、暴虐だったはずの為政者がカリスマある人物として良く描かれているあたり、『HERO』や近作『三国志英傑伝 関羽』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20120119/1326956879)にも通じるところ。盲信的な忠義者がアイデンティティの喪失に揺らぎ、アウトローだったはずの人物が真の忠義に目覚める部分はそれら作品にもあったパターンなんで、そういうことをやりたかったんだと思うが、過去の歴史に対する妙に肯定的な視点には、やっぱり付き合いきれないものも覚えるねえ。


 ツンデレキャラなリー・ビンビンは良かったですよ。しかし、犯人がじきに見当がついてしまうのはご愛嬌。ちょっと怪しい感じのオーラが出ちゃっていたな、あの人は……。

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