"倭刀を倒せ!"『刀のアイデンティティ』


 大阪アジアン映画祭2012(http://www.oaff.jp/)で鑑賞、三本目!


 16世紀、明朝の時代。四大道場の牛耳る街に、二人の剣士が現れる。倭冦と同じ刀を持つ二人は、海賊と見なされ一人は捕らえられる。だが、彼らは倭冦の持つ刀、倭刀を破るべく作られた、新たなる刀の使い手であり、恩師から継承されたその武術を広めるためにやってきたのだった。四大道場、剣士、そしてかつて最強と呼ばれた武術家であった老人シウが集結し、戦いが始まる……。


 とりあえずチャンバラものということで、もう行くしかないだろ、これは!と思って行ってきました。当日は関西映画クラスタのりょんりょんさん(http://ryonryon.hatenablog.com/)とも合流。上映前に監督の舞台挨拶があり、作家でもある監督が初めて撮った作品ということで、「これは難解です」「実験作です」と目をキラキラと輝かせながら語るのである。この目の輝き、すごい情熱の現れに違いない! 期待できる!と思ったのだが、今思えば、単に照明の当たり具合でそう見えただけだったのかもなあ。


 近海に出没した倭寇の持つ刀に苦戦した中国の武術家や軍人が、倭刀を破るために二つの方法論を編み出した。一つは五人で盾と槍を持ち、防御を固め遠い間合いから攻める布陣。もう一つは日本の剣術からは失われた棒術の方法論を再度組み込み、倭刀を超える「刀」を生み出すことであった……というのが背景。観ていてここまで理解するのに時間を要したが、説明的な作りなのでどうやら理解できた。なるほど、実験作というのも納得で、一般のチャンチャンバラバラワイヤービューンのアクションものとは「違うんですよ〜」ということを強調すべく、今作ならではのルールを噛んで含めるように説明してくれる。疑問を呈する役として外国人の踊り子たちが登場し、コミカルな味付けを加えながら、ゆっくりと理解度を深めて行く感じ。


 アクションシーンも基本的にリアリズム重視で、一対一の場合は長い武器も正確に当てるために短く持ち、互いに小さく動いてフェイントをかけながら、一撃必殺を狙い合う、というスタイル。武器を打ち合わせたりしないし、見栄えのいい大きな攻撃も振りが大きく隙も多いために一切使わないのだね。例えるなら現代のボクシングやMMAのように、フットワークを使って的を絞らせず、小さなジャブをアウトから突いて隙をうかがうような格好になっているのだ。うわ〜っ、リアルすぎる! そこに踊り子が「つまんな〜い!」と声をかける! 馬鹿者! そこは「しょっぱい」だ!
 それでも、クライマックスの対決は多少の迫力と説得力は感じたし、途中の「ああするとこうなる」の繰り返しもまずまず面白かったね(これをやるとランタイムが長くなるんだが……)。


 しかしまあ、全体通して観るとだいたいやりたいことはわかったように思うのだが、どうもたどたどしい印象が否めない。ロマンスやコミカルな部分や、ライバル的なキャラとなる道場主や老人など、いい味を出している部分もあるし、伏線の回収においてなるほどと思わせる部分も多い。にも関わらずちぐはぐとしているのだが、おそらく作家である監督の脳内では小説の形で完璧な作品が存在しているのだが、それを映画というフォーマットに乗せた時の処理に色々とエラーをきたしてしまったのであろう。


 正直、面白くはなかったんだけど、なんとなく嫌いにはなれない作品でもあった。映画祭ではスペシャル・メンションに選ばれていたので(http://www.oaff.jp/competition/winners/index.html)、また次回作は頑張って下さい。