"僕はいらない子なんかじゃない"『ヒューゴの不思議な発明』


 スコセッシが3D映画に挑戦!


 家族を失い、引き取ってくれた叔父も行方不明になってしまった少年ヒューゴは、叔父の仕事である駅の時計整備を受け継いで、ひとりぼっちで暮らしていた。そんな彼の目標は、父の唯一の遺品である機械人形を修理する事。だが、部品を盗んでいたおもちゃ屋で店主の老人に見つかってしまい、父の残した図面の書かれた手帳を奪われてしまう。だが、店主とその機械人形の間には、ある秘密があった……。


 予告を観た時点で、これは号泣の予感……と思っていた。果たして非常に夢のあるものすごくいい話……だったのだけど、もう少し題材にふさわしくこじんまりとまとまった感覚で観たかったかな。冒頭の駅の映像からして、素晴らしいスケール感なのだけど、展開されるのは子供と人形と歯車一個一個についてなので、大ビスタサイズの画面に展開される3DバリバリのCGに対して、どうも食い合わせが悪く感じてしまう。
 さらに、明らかに子供向けを意識したと思しき、噛んで含めるがごとき説明と演出。中盤に人形が動き出すまでが壮絶にかったるく、あわや熟睡寸前まで追い込まれてしまった。その人形が動き出してからは、物語は急激に方向転換し、本当の姿をあらわにしていく。人形の正体を知るうらぶれたおもちゃ屋の過去、そして彼が人生を賭けた映画というものに託した夢……。このあたり、予備知識なしで見たら「えっ!? こんなお話だったの!?」と思う事受け合いの唐突さ。
 主人公の少年の「失った家族、父との思い出」を人形の再生に託す物語は、先の『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20120116/1326690625)を思い起こさせ、さらにその人形の再生が直接は自分の心の癒しにつながらず、他の家族、人間の再生を促すものであった……というところまで似てるんだが、物語がそこに焦点を合わせていないので、単に前半と後半で違う話になってるように感じられてしまった。あのトム・ハンクス父の偉大さに対して、ジュード・ロウお父さんの後半には存在を消されたような空気っぷりはいったい……。


 後半、ジョルジュ・メリエスと「映画」に焦点が合わさってからは俄然面白くなり、彼のために奮闘する少年の活躍にも推進力が出て来る。映画ファンとしては、次々と出て来る映画の歴史と変遷は思い入れできるし、ここからはビジュアルも驚きの連続。ベン・キングズレーの熱演も相俟って、ラストに舞台上で決める「マジック」には、思わず拍手喝采を送りたくなったよ。


 しかし、その後半が良かっただけに、そこにたどり着くまでの整理されてなさがもったいないなあ。多くの人に夢を与える普遍的な存在である「映画」と、個人的な思い出の記録である「人形」が象徴的につながってないため、後半は人形がキーアイテムでもなんでもなくなってしまう。そもそも、最初からメリエスさんに見せてたら良かったんじゃない、と思うし、そこを互いの人間不信故にクリアできなかった話だとしたら、途中のおもちゃ屋勤めするところが余計かなあ。最後にリスペクトされるリアルさを重視しないメリエスさんの映画と、途中で少年とクロエたんが潜入する実際にビルにぶら下がってる映画とでは、方向性が違うようにも思えるし、メリエスさんの映画を通じて人々がつながる、という話を担うには、少年の立ち位置がズレ過ぎてるし、彼はもう脇役か、あるいは機械人形の精のような存在で良かったのではないかなあ。で、メリエス研究してる人が主役になるか。あるいは研究を少年とクロエたんあたりがやってしまうようにするか、いずれにせよメインキャストの役割は一本化しちゃった方が、まとまりのいい話になったように思うのだが。
 サシャ・バロン・コーエンも彼個人としては良かったのだが、アクションと臨場感、自己肯定の物語の補強的立ち位置での存在ということで、恋愛話含めて何か浮いてる感じであった。大して登場人物多くないのに、駅を通じた群像劇みたいなことになってるよなあ。少年と老人の交流で完結してもおかしくない小さな話なのに大作感を狙い過ぎなような……。ただ、これがかつてメリエスが目指した夢のある見せ物としての「映画」に対する、スコセッシが作りたかったものなのだろうね。
 観ながらなぜか『ネバーランド』を思い出してたのだが、今作もジョニデが製作に加わっている。バートン作品よりは、かの映画の方がイメージ近い印象。少年、駅員、メリエスさんの自己肯定に至るまでの物語としては良かったと思う。いらない子なんていないし、いらない物なんてないのだ。


 さて、ラストで取ってつけたかのようにクロエたんが締めに入るので、何か重要な役柄だったかのように錯覚してしまいがちだが、実際はストーリー上、全然存在意義がないことに、ふと気づいてしまった。いやいや帽子も笑顔もかわいいじゃないか!と主張しながらも、暗雲のごとく湧きあがるクロエ・モレッツ不要説! そ、そんな……あの『モールス』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20110809/1312805776)でもセンスのなさを一人でカバーしてみせたクロエたんが……クロエたんがいらない子だなどと……


  


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