"龍が泳ぐ時、全ては終わる"『ドラゴン・タトゥーの女』


 世界的ベストセラー『ミレニアム』第一作のリメイク!


 雑誌『ミレニアム』の記者であり経営者であるミカエル・ブルムクヴィストは、名誉毀損で訴えられ廃刊危機に。その窮地に陥った彼を、名家ヴァンゲル家の元当主ヘンリックが雇い入れる。その目的は、40年前に失踪した孫娘ハリエットを殺した人物を探し出すこと。捜査を開始したミカエルは、雇われるにあたって彼自身を調査した人物に目をつける。リスベット・サランデル……ドラゴンのタトゥーを持つ女。調査員にして凄腕のハッカーである。


 参考までに、関連作の感想。これから観る、読む人は避けてね。


 スウェーデン版シリーズ。上から1、2、3。
http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20100210/1265815121
http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20100913/1284392346
http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20101004/1286196924


 原作。
http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20100423/1272024246
http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20101009/1286623806
http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20101011/1286787911


 思ったよりかグロいところはなし。R-18をR-15にって、ほぼセックスシーンのことかよ! それにしてもあのモザイクはないわ〜。


 原作レベルから刈り込んで、かなり整理している。今、自分で書いたスウェーデン版のあらすじ読んだら、それだけでもほぼ丸ごと変わってるからびっくり。格段に話がわかりやすくなったし、終盤の真相をより印象づけるためのカットも増えている。その反面、ニュアンスさえも大きく変わっているところがあり、ここはオリジナルにあった深みがなくなったのでは、というところもあり。続編につながらないようにわざと切ったか?
 整理されてさらに、「わかってみれば単純な話だった」ことがより明白に。孤島に住む旧家の富豪一家、ということで、横溝正史的な雰囲気があるんだが、金田一さんに依頼して来るのが一家の一番偉い人なので、色々なことがスムーズに進むのだよね。横溝だったら進歩的な息子か孫なんかが依頼してきて、金田一さんは妨害や圧力に苦慮するようなイメージがあるんだが。改変された部分によって、偉い人の目が色々と節穴だったところや、作品全体を貫いた希薄もしくは強迫的の両極端に分かれた家族関係も強調された感あり。このあたり、ハリウッド映画におけるリライトの精緻さを強く感じたところ。


 ノオミ・ラパスよりもう一つ小柄で細っこいルーニー・マーラのルックスが痛々しく、かなりのはまりよう。彼女の演ずるリスベットは、ツンツンとして見えるが実は真面目な性格で仕事熱心だし、几帳面で自己管理にも余念がない。ふと見える柔らかな表情が、内面の情緒の深さを感じさせる。『ソーシャル・ネットワーク』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20101030/1288442495)のザッカーバーグより、よほど真っ当な人間ですよ。思わず「……君の心は豊かだ」とマカヴォイ=プロフェッサーXのように語りかけたくなったぜ。これは萌えだね〜。逆に萌え過ぎるとの見方もありかもしれない。「なんかよ〜わからん人」「外見からして怖い人」「危険人物」という印象こそが、彼女に対して世間が抱いているイメージそのものであり、それをしばし観客やミカエルも共有するからこそ、「外見で人を判断してはいけません!」というテーゼが生きるんだがなあ。そして「悪だけが唯一悪を……」とか何とかいう宣伝の浅薄さときたら!
 『ミュンヘン』以来の、似非マッチョじゃないダニエル・クレイグ。あまりモテモテ要素は感じなかったし、ジャーナリストとしてのポリシーを匂わせるシーンも少なく、「ミカエル」というキャラクターの表現としてはちょっと薄味だな。過激に走るリスベットのブレーキ役になるはずのキャラクター性が見えなかったのは惜しい。あと、あの娘とか必要? 実刑喰らったという設定も消えてたし、「前科者」というマイナスイメージを消して「お父さん」的イメージを追加することで、ハリウッド的なテンプレートに近づいてしまった。
 出会いのきっかけなんかも微妙に変わっている。スウェーデン版ではリスベットの方がミカエルに興味を持って接触するのだよね。共同で捜査するシーンはテンポ良く演出するためかほぼ別行動になっており、二人の結びつきが強化される過程の描写は薄くなっている。代わりに、事件が解決した後で二人で行動するところの親密さを増した雰囲気は、その対比としてかなりぐっとくるんだよね。シーン、カットごとのインパクトや完成度を重視するフィンチャーならではと言えるかもしれない。だからしてセックスシーンも濃厚になってる……んだけど……なんじゃあ、あのモザイクわあああああああ! 見せろおおおおおおおお!


 主人公側のキャラクターたちと、ヴァンゲル家のキャラクター、どちらも総じてドライになっている印象で、ちょっと原作・オリジナルとズレた感はあるが、まあ解釈の違い、ハリウッド映画とデヴィッド・フィンチャーの気風ゆえであろう。
 そんなこんなで色々と比べながら観てしまったが、面白かったのは間違いないです。オープニングは必見! しかしあのオープニングに出て来る「相手」は男性性の象徴であると同時に、当然、続編に出て来るあの人のことでもあるはずだから、やっぱり続きもやってほしいね〜。


 さ〜て次回のミレニアムは、迫る復讐の魔の手、襲い来る謎の巨人……ドラゴン・タトゥーの女リスベットに降り掛かる絶体絶命の危機! 追われる身となった彼女の無実を信じるミカエルは、それを証明できるのか? 明かされるリスベットの過去、出生の秘密とは……!? それでは皆さん、第二作『火と戯れる女』でお会いしましょう、さようなら〜!(ということになればいいなあ、頼むよフィンチャー!)

ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女 (上) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女 (上) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女 (下) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女 (下) (ハヤカワ・ミステリ文庫)