”数多ある星の一つ”『サラの鍵』


 第二次大戦下、ドイツに占領されたフランスにおける物語。


 1942年、パリ。フランス警察によるユダヤ人の一斉検挙が行われた。後に言う「ヴェルディヴ事件」……。幼い弟ミシェルの逮捕を怖れた少女サラは、彼を納戸に隠して鍵をかけ、両親と三人で連行されることとなった。それから60年。ナチスとフランスの戦争犯罪を取材するジャーナリストのジュリアは、自分の家族が新しく買ったアパートが、かつて逮捕されたユダヤ人家族の持ち物であったことを知る……。


 やっぱり冒頭のユダヤ人強制連行をがっつり掘り下げたらしい『黄色い星の子供たち』観とけば良かったなあ。そうすれば今作もより楽しめたであろうことは間違いない! 今作はナチス、そしてファシズム国家となっていたフランスによる暴虐をこれでもかこれでもか、と見せまくる映画ではなく、むしろその後がメイン。現代のジャーナリストのパートと並行して、同胞たるフランス人によって起きたおぞましい事件によってもたらされた痛みを背負って生きることを描く。


 ジャーナリストが、自分の住む予定だったマンションがかつてサラ一家の住居であったことを知る展開と、自分の妊娠を知る展開、そして過去のサラの足跡が、どれも噛み合いそうで噛み合わないままに進行する。浮かび上がる真相はやるせなく、過去を追う行動は家族に支持されず、そこにカタルシスは欠片もない。過去に起きた出来事はもちろん、現在においてそれを掘り起こすこともまた痛みしか呼び起こさないように思える。物語的な派手さや、腑に落ちる感覚はまるでない。
 だが、タイトルの「サラ」という人物の足跡を追うジャーナリストの視点と、ある人物の視点が最後に交差する。彼は長年「サラ」の存在を謎として捉えていたのだが、ジャーナリストの解き明かした過去を通じて、始めてその姿に触れることができた。封印されたままでは決して伝わらないものがあるし、知って意味のないことなどない、ということも思い起こさせてくれる。辛くとも真実には、真実であるということそれ自体の意味がある。それこそがジャーナリスト、マスコミの示すべきことでもある。


 序盤のサラちゃんのパンツの見せっぷりに、これは真面目な風体を装った幼女萌え映画か?と思ってぎょっとしたんだが、中盤以降はちゃんとシリアスな映画になってほっとしました。でも警官への挨拶とか、男装とか、ちょっと不思議ちゃん的にアレンジしてそのまま駿がアニメ化してもいいかも……?


 サラと言う女性が、人種のゆえに家族を奪われ人生をまるごとねじ曲げられ、最後まで幸福を感じられずに生きたことと、主人公が長年産みたいと願っていた子供を授かったことは、直接ではないがやはりつながっているよね。が、まさかの旦那の反対! しかも何とも及び腰。面倒くさくて、育児でしんどい思いをしたくないから懐柔しようと必死。しかし「わたしは絶対に生みたいの!」と言われて「オレは絶対生んでほしくないんだ!」と言い切る旦那というのは、ある意味新しいな。人間、中年になってここまで恥知らずになれるのか……! じゃあ仕込んでるんじゃないよ! この旦那の家族も、何か回りくどかったり、話が通じないわけじゃないがゴニョゴニョと不明瞭で、主人公の竹割ったような性格とは全然合わねえんだろうなあ、ということが何となく伝わるね。


 かつて起きたフランス人によるフランス人への戦争犯罪が、今生きている人間の人生にも直結したものである、ということを大げさではなく地味なエピソードの積み重ねで真摯に語ろうとした作品。だからこそ、過去を、歴史を忘れてはならない。たとえ小さな星の一つでも、皆、そこに繋がっているのだ。

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サラの鍵 (新潮クレスト・ブックス)

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