”貴様に人魚姫を語る資格はない”『ラビットホラー3D』(ネタバレ)


 『戦慄迷宮3D』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20091022/1256223981)に続く、清水崇監督作品。


 絵本作家の父と暮らしているキリコは、幼い頃に声を失い、成人してからもしゃべれないままでいた。学校の図書館で働く彼女と、側にいる弟に「ウサギ殺し」との罵倒が浴びせられる。かつて、弟の大吾には、怪我をしたウサギを殺した過去があった。ある日、超大ヒット人気ホラー映画『戦慄迷宮3D』を観に行った二人の前に、スクリーンの中からウサギのぬいぐるみが飛び出して来る……。


 当の『戦慄迷宮3D』が実にクソだったので、もう今作には何にも期待してませんでした。が、この主演の子の映画、まだ観たことないんだよね。さて、ボンクラどもが熱を上げる満島ひかりというのが、果たしていかなる者なのか、ちょっと見てやろうじゃねえか……(ちなみに『愛のむき出し』も『悪人』も観てません。『モスラ2』と『デスノート』は観たけどね)。
 しかし、口がきけない、ということで、噂の演技力が如何なく発揮される役柄……かと思ったらいきなり自分の声でナレーションするからずっこけた。おいおい、そりゃあないよ。さらにその語る内容も予告編の不穏さを裏切り、「え? なに、その綺麗ごと? ウサギ殺しが優しさゆえの安楽死ってなに?」という噴飯物のもの。こりゃだめだ〜!と思いかけたが、中盤以降、それがすべてミスディレクションであったことが明らかに。
 シャマラン監督の某映画でもそうだったのだが、障害を持っている=優しい人間というステレオタイプな設定を逆手に取り、序盤までのイメージをじわじわと覆して、この主人公がいかに鼻持ちならない自己中心的な性格かを明らかにしていく。


 ブログやSNSの日記で自分語りをする場合、往々にして自分のした行為や立場をより良いものとして書いてしまったりすることが、程度の大小こそあれ誰でもあるだろう。あとで読んで恥ずかしくなったり、書いている途中で消してしまったり……。本当にあったことや自分を押し隠して、都合のいい「物語」を描いてしまう。
 今作冒頭のナレーションもそういった自己隠蔽の力学にあたる。本当はうさぎが嫌いでトラウマだからぶち殺したかっただけなのに、凡人らしい罪の意識に囚われて、それを何かいい思い出のごとくすり替えてしまう欺瞞。冒頭の「優しさゆえの行為」は偽物であり、存在しない「弟」もその産物であり、己の犯した犯罪的行為を消し去るために作られた存在に過ぎない。


 『輪廻』のいびつさを彷彿とさせる設定で、監督の性格の悪さをひしひしと感じさせる。ほぼ性悪説に立ち、幼さ故に罪を犯した少女が、「まったく成長していない」姿をそのままに描く。「人魚姫」の寓話を物語の基調としながら、その物語にまったく添えず、最後も華々しく期待を裏切る女を主人公に据えてしまうそのどぎつさ。わざわざ名作童話を持ち出しながら、人魚姫=心優しい、という設定を裏切り続け、全然相応しくないもっとも縁遠いキャラだったことを明らかにして締めてしまう。で、そのキャラクターを満島ひかりという『悪人』に演じさせるあたり、嫌な話だわあ。


 が、惜しむらくはここらへんの心理描写がメインの話ではまったくないんだよね。ちーとも怖くない恐怖描写や、浮いてる3D演出に力点が置かれ過ぎていて、最大のサプライズであるはずの「主人公がダメ」という設定が主眼になれていない。ミスディレクションであるとはいえ、やっぱりナレーション頼みであることは否めないし、満島ひかりの熱演も中途半端。もっともっと鼻持ちならない性格を最後に発露させた方が面白かったのになあ。


 殺されてしまう緒川たまき演ずる継母が、実に寒いのだよね。ケーキ、お弁当、遊園地、ぬいぐるみと、「女の子が喜びそう」な小道具を出すしか能のない滑ってる感覚が激しくイライラを催させる。それでも身体を張った着ぐるみ作戦は強烈で、これはトラウマを負わせるに相応しい熱意だ。挙句にぶち殺されるわけだが、君の行為は確実に少女の心に爪痕を残した! おめでとう!
 娘と同じ「弟」という妄想を抱いてしまう香川照之パパの弱々しさもまずまずの演技で、このいや〜な話を下支えする。この「弟」は最後の最後まで「幻覚」だった、という解釈も出来るし、家族間の妄想の伝播という設定も面白い。本当にダメな人間しかでてこない。
 まだ前半ミスディレクション真っ盛りの弟のキャラクターも、妙にシスコン臭く姉になついていて嘘くさく、綺麗ごとチックなナレーション含めて「お涙頂戴のしょーもない邦画らしいねw」と思わせる。後から思えば、いかにも妄想的な「都合のいい弟」像なわけで。この辺りをサプライズとして練り込めばさらに迫真感を増しただろうに、と残念に思った次第。


 怖いシーンだけをずらずら並べた『呪怨』シリーズの路線にはさすがに行き詰まりを感じていたか、オーソドックスに心理描写に力点を置くことを考え始めたらしい監督だが、『輪廻』と同じく発想こそ面白い部分もあるものの、まだまだ整理し切れていない部分を露呈した印象。商業的にわかりやすい恐怖描写を求められる部分もあるのだろうが、もう少しポイントを絞って作り込めばもっと良かったと思うのだがなあ。
 ところで、まったく話題にもならなかった『戦慄迷宮3D』につなげるのも、寒いのでやめておいた方が良かったように思う。作中の劇場が入ってるとも入ってないとも言い難い微妙な客入りだったあたりはリアリティがあった……と言いたいところだが、オレが行った時はもっとガラガラだったよ!

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