"神の名の下に魔女を吊るせ"『デビルクエスト』


 ニコケイ主演ファンタジー!


 キリストの名の下に戦い続けて来た二人の騎士ベイメンとフェルソンだが、ある日、殺戮の日々に嫌気がさし、軍を離れることに。脱走兵の汚名を着せられた彼らがたどりついた街は、ペストに冒され滅亡の危機にあえいでいた。権力者に囚われた二人だが、ペストの元凶と言われる魔女を修道院に届け魔女裁判を受けさせれば、罪を許されることに……。


 ニコラス・ケイジと相棒のロン・パールマンは教会の軍でもう十年ぐらい戦って来たが、ある時民間人の虐殺に加担させられてとうとう我慢の限界。一応、この二人、歴戦の英雄みたいに言われてた、ということが後に語られるんですが、この十年の戦いぶりの描き方がものすごく大ざっぱなので、たんに何となく従軍してて十年経ってやっと気づいたボンクラな人たちのようにしか見えないんですね。いや、それならそれで、戦闘マシンだった人たちがやっと信仰とか戦いの意味とかを真面目に考える様になりました、という話にしとけばいいのに、変に彼らに憧れる従者役なんかを登場させるから、キャラ立ちが非常に中途半端。せっかくビッグダディヘルボーイが並んでるんだから、神経症と荒くれ野郎で徹底すれば良かったのに。
 魔女も含めて、全員何かキャラクターが薄くて、なんとなく役割分担はされてるものの、そこからはみ出さない。主役二人はそれでも何かオーラがあるわけで、辛うじてそれで持ちこたえているかな。


 非常に緩いテンションで、難所のはずの森もなんとなく超えてしまったり、盛り上がりに欠けるんだが、魔女のやることなすこと含めた曖昧さが、逆にリズムを保ってる印象あり。何かあると見せかけて大してない、の連続なんだが、その思わせぶりさだけでスペクタクルの薄さを感じさせない。イベントをガンガン起こす作劇とは対照的ですな。その分、クライマックスは一気に盛り上げ……盛り上げ……うーん。


 修道院のシーンにロン・パールマンがいると、なんとなく『薔薇の名前』を思い出すな。完全にタイトルや予告編でネタバレしてるんですけど、悪魔が実際に出て来るんですね〜。原題と序盤の展開は、魔女狩りが題材のように描いてるのですが、それはミスディレクションで、後半は価値観の逆転が起こる。構成はそれぞれ違うけれど、近年では某イナゴの映画とか、某ビル・パクストンお父さんの映画を連想。冒頭の虐殺否定は昨年の『ロビン・フッド』と被るんだが、このお話はそれとはまったく逆の方向に行くんだよね。まさかの魔女狩り肯定! なんとなくごまかしてるが、こないだの『パイレーツ・オブ・カリビアン 生命の泉』といい『デビル』といい、鼻持ちならねえのが続くなあ。
 ただ結局、超自然的な現象が出て来る映画は、当然キリスト教の教義に絡めて作られ、多かれ少なかれそれを肯定する内容になるし、逆に出て来ない映画では少なくとも教会や修道士など人間レベルには批判的になる。中世が舞台ともなるとなおさら。もちろん作ってるのは現代人なのだから、その意図は問われるわけだが。
 しかし、魔女狩りや宗教戦争で教会のおぞましさをぶち上げといて、その後で「悪魔は実在したしペストもそのせいだったんだから、一理ありました」と転換するのに、何か啓蒙の意味があるとは思えない。大して何も考えてないのかな。で、このラストもニコラス・ケイジが何かを為し得たことになるのか? 罪滅ぼしできたのか? というと、うーん……。


 駄目でもないが、薄ぼんやりした映画でしたなあ。今、こうしていてもどんどん記憶から薄れていく……。

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