『サヴァイヴ』近藤史恵

サヴァイヴ

サヴァイヴ

 自転車レース小説、第三弾!

 『サクリファイス』『エデン』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20100401/1270117054)に続くシリーズの外伝。おなじみ白石君が主人公で二本、石尾がエースだった時代を描いた三本、そして伊庭が主役に昇格した(笑)一本を収録。
 短編ということで、ミステリ色は薄めになったが、その分、長編の前半のようにレースに至るまでの心理や、その後の駆け引きを十全に楽しめるようになっている。


 三作目で、こうして主人公を複数立たせてみることで、より世界観に奥行きも見えてくるし、選手寿命の短いアスリートにとっての年月の重みもうかがえる。
 「オレは日本最速の男」とうそぶく伊庭さんのカッコよさが素晴らしい! クライマーとはまた違うスプリンターならではの勝負どころと、世界を狙える位置につけた彼ならではの勝負哲学が見える。
 『サクリファイス』では、まだ謎の多い人物だった石尾さんだが、赤城さん視点の今回を経てもやっぱり謎は謎のままであった(笑)。だけど、それが良いね。
 スポーツの世界「ならでは」の男の腐ったような政治や詐術を描きながら、それでもなおそこで走り続ける。いかにして? しれっと人死にも出てしまうし(えっ、あの人が……?)、過酷な世界である。ドーピングの問題なんかは格闘技にも通じるしなあ。


 安定のクオリティで、このシリーズも完全に軌道に乗ったな。まだまだ続けて欲しい。現実のレースでも、日本人選手がさらなる飛躍を遂げるかもしらんしなあ。

サクリファイス (新潮文庫)

サクリファイス (新潮文庫)

エデン

エデン

三つの名を持つ犬

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