"秒速何センチメートルかな……?"『喜劇王』

喜劇王(廉価版) [DVD]

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 チャウ・シンチー主演作!


 役者志望のワンは、理論ばかりが先行して認められず、いつもエキストラ。住み込みで公民館で働く傍ら、近所の撮影所に通うが、ギャラはおろか弁当さえもらえない。ある時、キャバクラ「女子高生の初恋」で働くキャバ嬢たちが演技を習いに来る。キャバ嬢の一人、美人だががさつなピュウピュウは、彼をエキストラとバカにしていたのだが……。


 僕がチャウ・シンチーを初めて観た作品。十年も前に、扇町ミュージアムスクエアで、腹を抱えて笑ったんだよな。で、ものすごい感動したんだ。『少林サッカー』以降からチャウ・シンチーに入った人にも、『0061』『食神』と合わせてぜひ観て欲しい映画。
 ソフトも日本語字幕付きの香港版DVD持ってて、もう十回は観ている。不意に聞かれたらオールタイムベスト10に入れてしまうかもしれない。昔、自分に自信が持てなくなった時とかに、よく観たんだ。


 そんな感じなんで、見直してももう冷静な感想は書けない(笑)。シンチーとリウ・リクチーの共同監督だが、ちょっぴり切ないラブストーリーの風味を効かせつつ、ヒロインが酷い目にあう描写や変顔の人たち、ブルーカラーの悲哀、シンチー自身の売れなかった時代への回顧と、夢を追えというメッセージ性といった、シンチー映画にはすっかりおなじみになった要素がぎっしり詰まっている。
 けれども、これだけ回数見てしまうと、そういうことよりも役者の表情や、ちょっとした手つき、歩き方など細部に目が行くようになる。カメラアングルや移動の速度など、隅々まで気を使って作られているのがよくわかる。家路につこうとしてシンチーに呼び止められたセシリア・チャンの背中にカメラが迫って行くカットなど、何度見ても涙が出て来る。あのカメラの速度が、その時主人公の発した言葉がヒロインの心に届き染み込んでいく速さそのものなのだ。
 で、好きすぎて困るこのシーン。かかってる音楽が日向大介なんで、雰囲気がほぼ『ロンバケ』(笑)だったりする。とうとうサントラも買ってしまったよ。


 セシリア・チャンのデビュー作でもある。声ガラガラでガサツなキャバ嬢(演し物は女子高生の初恋)という設定が面白過ぎる。新人ですよ!? 序盤からずーっと濃いメイクなんだが、朝を迎えて初めて素顔を見せた時の鮮烈さが凄い。後の『PROMISE』でも同じ演出が為されていたのを見て、チャウ・シンチーの女優の魅力を引き出す技巧に感服した次第……。エディソン事件以来、まだまともな出演作はないけど、消えてしまうのにはもったいない女優ですよ。

 
 たぶん、これからもまた何回も観るんだろうな。『食神』DVDも高騰してるし、二本まとめて安く復刻しないかねえ。パラマウントさんには期待したいのだが……。オレはもう持ってるからいいけど、まだまだ多くの人に観てもらいたい作品。

食神 [DVD]

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PROMISE (無極) 特別版 [DVD]

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