『モップの精と二匹のアルマジロ』近藤史恵

 読むと掃除の素晴らしさがわかる、そんなシリーズの初長編!


 偶然から、同じビルで働くようになった大介とキリコ。ある日、キリコはそのビルで働く男の妻という女性から、夫の浮気について調べて欲しいと頼まれる。だが、浮気らしき挙動をつかみかけたその日、夫が事故に遭い三年分の記憶を喪失してしまう。結婚して二年経たない妻の記憶も消えてしまい、夫の愛を疑っていた妻は思わぬ苦しみにさらされることに。巻き込まれた大介とキリコは、不可思議な二人の関係を解きほぐすために奔走するのだが……。


 ちきしょう! 大介! もげろ!


 ふ〜、ルサンチマンはこれぐらいにして、今回は初の長編。記憶喪失による夫婦の危機、という地味な出だしだったので、当然短編だとばかり思っていた。が、一見単純に見えた事件は、中盤以降、徐々に複雑な様相を呈していく。
 粗筋だけ見たら、ワイドショーみたいな生臭い話かとも思えるが、当然、近藤史恵の作家性は、世間の「常識」そのものをミスディレクションとしてより難解な心理へと我々を誘う。
 相変わらず読みやすい内容だが、読み込めばかっちりした作りが見えてくる。主人公である大介とキリコの、結婚しているからこその距離感があってのプロット。つうか、これ以上書けん! ネタバレになる! ただ、かつての作品でもあった「ヤマアラシ」と似て非なる動物のタイトルに、すべての真相は提示されているとのみ言っておこう。


 シリーズのファンは安心して読める一本。

天使はモップを持って (文春文庫)

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モップの精は深夜に現れる (ジョイ・ノベルス)

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