”ガラスには正しく顔面から突っ込みましょう”『ウォンテッド』

 BDで鑑賞。


 平凡な会社員のウェスリーは、ある日、超人的な殺し屋同士の戦いに巻き込まれる。彼を迎えにきた美女フォックスは、こう告げる。ウェスリーの父は偉大なる暗殺者であり、裏切り者によって殺された、と……。太古から暗躍する暗殺者組織「フラタニティ」のアジトに連れて行かれたウェスリーは、自らの暗殺者としての才能を覚醒させ、父の仇である男を追うのだが……。


 宣伝はアンジェリーナ・ジョリー一色で、すっかり勘違いしてましたが、主演はあくまでジェームズ・マカヴォイです。 
 ベクマンベトフの映画って、『ナイトウォッチ』とかが知り合いからはろくな評判聞かなかったので、今まで避けてたんだよね。で、確か公開当時、モニターで観た同僚にネタバレされたんだった。でも、もうその中身も完全に忘れていた。


 映像はまあ、すたいりっしゅ、とか何とか言ってもいいだろう。が、そんな映像美も、ガラスをわざわざ顔でぶち破る意味とか考え出した途端、不意にしらけてしまう。その絵面を撮りたいだけで、他に意味がないんだよね。何回も何回も繰り返すあたり、こだわっているのが感じられるのだが、こちらにはそうして偏食するほどの旨味がない。
 かっこいいアクションも、作中における意味づけが希薄では面白みに欠ける。典型的なのは銃弾を曲げるアクションだが、銃を振る動きこそかっこいいものの、そのせいで念力で曲げてるのか遠心力で曲げてるのか不明瞭になってしまう。細かいことに突っ込まれないようにするには、もう一つ上の力技が必要だと思うんだが、映像だけではもう誰も驚かない。
 すでに『マトリックス』があり『リべリオン』があり、あれらとて既存の作品のエッセンスを抽出し、新たに様式化した作品だ。それを超える可能性は同じくディティールの積み重ねと世界観の構築と思うが、そこまで志の高い作品でもなかったか。


 ストーリーも貴種流離譚の亜流で、どっかで見たようなどんでん返しになだれ込む。それでもジェームズ"タムナス"マカヴォイは、神経質そうなフェイスに似合いの好演で、いかにも寝取られ男な前半から凄腕に生まれ変わる後半まで、近年のパターンながら成長するヒーロー像をうまく構築している。
 ……が、いよいよ大アクションが始まったぜ、というところで、美味しいところをジョリ姐が全部持ってっちゃうんだよなあ。いや、これこそがアンジェリーナの矜持です、というのはわかるんだけど、それだったら最初からそっちが主役でいいじゃん。まあそれだと『アンダーワールド』と同じ話になりますが……。
 ジョリ姐がラストでかかる行動を取る、というのは、作中の伏線を見ても一応自然ではある……のだが、その筋を通すキャラクター性というのは、作中での演技や演出によってではなく、むしろ彼女自身の存在感に寄りかかっているように感じられる。「フォックス」という作中のキャラではなく、ジョリ姐ならこうして当然、という……。なるほど「ガジェットの人」という評を思い起こす。


 いずれにせよ『キックアス』の後で見てしまったのも悪かったかなあ。すかしっ屁のような内容だった……。

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