"完全なる別人"『ローグアサシン』

 『マッスルヒート』の話が出たところで、旧サイトで公開したテキストを再録。公開当時の試写感想です。


 相変わらず主演企画が二転三転するジェット先生、今回は「謎」な映画に挑戦です。伝説の殺し屋ローグ、彼はいったい何者なのか?
 しかしジェット・リーファンとしては、「まあとりあえずアクションが見られたら、謎なんてどうでもいいや。ジェイソン・ステイサムも出てるしな」……というはなはだ緩いテンション。気になったのは「悪役」とはどこにも「明記」してなかったところでしょうか。ははあ、これは要は、最後は主人公ジェイソン・ステイサムが殺し屋ジェットと手を組んでさらなる巨悪と戦う、という『バリスティック』とほぼ同じ話になるんだろう……と予想しながら試写会に向かったのであります。


 殺し屋ローグを負傷させながらも、闇討ちによって相棒を殺されたステイサム刑事。なぜか3年に渡って行方をくらましていたローグが、顔を整形してジェット・リーの顔になって舞い戻ってきます。殺し屋ジェット=ローグは、日本のヤクザを拳銃で皆殺しに! 『ザ・ワン』の項でも書きましたが、こいつに拳銃持たせたら強すぎるんだって! 普通のアクションなら、「相手撃つ→自分隠れて避ける→自分撃つ」という三動作、ロボコップならば「相手撃つ→(カキーン)自分撃つ」という二動作必要なところを、「(相手撃つ前に)自分撃つ」という一動作で済ませてしまう超反応


 それを追うステイサムは、ヤクザの生き残りを拷問します。


「オレノシュミヲシッテルカ。オレノシュミハオイシャサンゴッコダ。コレハホネダ、ゴメン」


 ……………………………。
 この時点で、今作の持つ「国辱映画」としての側面が浮かび上がってくるのですよ。女体盛り、事務所に鳥居、変な掛け軸……ああ懐かしき『ライジングサン』『リトルトーキョー殺人課』……。


 さてヤクザと対立する中華マフィアと結託した殺し屋ジェット、指令どおりヤクザを葬り去って行きます。この最中にヤクザとチャイニーズの抗争も描かれるのですが……うーん、どっちも半端に近代化してお互いスーツ姿で英語で喋ってるので、どっちがどっちの陣営かさっぱりわかりません! 黒人と対立してた『ロミオ・マスト・ダイ』は映像的には正しかったのか……。
 このあたりから、ローグに関して疑惑が生まれてきます。ステイサム刑事の相棒を家族もろとも皆殺しにした過去があるはずなのに、なぜかマフィアのボスであるジョン・ローンの娘を見る目が妙に和んでいる。冷酷非情の殺し屋じゃないの? この三年でいかなる変化があったのか? 整形手術を担当した医者の発言からは、顔の傷付いたローグにジェット顔への整形を行ったことは間違いないことが明らかになるのですが……。しかしゴルゴ13のごとく、マフィアのボスに女をあてがわれたりなんかしちゃって、直接ナニするシーンもないながらも拒むようなこともない、ストイックイメージを拒絶する役者ジェット・リーの一面も垣間見えるのでありました。


 ローグの正体を追うステイサム刑事を横目に見ながら、ヤクザの現地指揮を執るデヴォン青木を手玉に取るジェット(これも夢の対決でしたね)、ま、所詮はチャン・ツィイーレベルの相手でしたね。日本からその父親である石橋凌を引っ張り出すことに成功。これはヤクザ壊滅も近いか……と思ったところ、突如チャイニーズ・マフィアにも牙を剥きます。ジョン・ローンは長年雇っていたローグに絶大な信頼を寄せていましたが、突然裏切られ驚愕の表情。そしてその妻子には手を出さずに逃がすジェット……。
 裏切ってヤクザ側についたと見えたローグでしたが、妻子を逃がしたところを映像に収められており、石橋凌に裏切りを問いつめられます。ですが、そうローグの狙いは最初からこれだったのです……。


 事務所を爆破し、ヤクザにも襲いかかるローグ。ここらへんでステイサムの存在は完全に忘れ去られており、こちらは行動目的不明なローグの行動を、なかば唖然としながら見守ることに。ここで、石橋凌の一の部下であるケイン・コスギが、殺し屋ジェットの前に立ちはだかります。「笑っていいとも」でも尊敬する人→ジェット・リーと言っていたケイン・コスギが、ついにあこがれの人とのサシの対決を迎えた、ということで、全米公開では誰も反応しなかったであろうこのシーンも、我々日本人にとっては「夢の対決」として昇華されます。しかし怪作『マッスルヒート』ではあれだけ当たっていた、いまいちリーチ短い感じのケインの回し蹴りは、あっさりとジェット先生に見切られます! 結果として一分ほどで粉砕されたケインですが、きっと本人は本望だったことでしょう。


 さらに石橋凌に襲いかかるジェット、石橋も得意の日本刀で対抗しますが、彼も前半でケインに一本とられかねないレベル、よくて互角よりやや上ぐらいだということが明らかになってます。石橋を追いつめるローグ、ここで彼の真の目的とその正体が明らかに……! 「仇」であった石橋を目前にし、激昂したローグは刀さばきが大振りになり、逆に追い詰められます! いや〜ここらへんは無敵の殺し屋から突如立ち上った人間性、という感じでなかなか良かったですね。負傷しながら石橋を仕留めたローグ。しかし、もう一人、殺さなければならない相手が残っていました……。


 続きは映画を御覧いただくとして、なんとなく『SPIRIT』路線以外のジェット先生の集大成的なイメージはあり、ジェット・リーのファンとしては面白みに欠けるが、だからこそ押さえておかねばならない作品でしょうか。だってジェット先生のファンの人以外には、ただの変な国辱映画だからな。華麗なアクションを求めて劇場に来たら、衝撃のどんでん返しを見せられた、ということで、まあどんでん返し部分はそれなりに頑張っていたものの、なんか釈然としない気分で会場を出たのでした。例えて言うならば「次の競技会で好成績を収めると期待していた体育会系の生徒が、突然やや難解な因数分解の問題を解いてきたのを見せてもらった先生」のような感じでしょうか……。


 ところで同時期に『パーフェクトストレンジャー』というハル・ベリーブルース・ウィリス主演のサスペンス映画が公開されていましたね。あれは実に中途半端で落ちが読める内容だったのですが、最大のポイントは「完全な別人」というタイトルの意味を内容が裏切っていること。つまり『パーフェクトストレンジャー』は『パーフェクトストレンジャー』じゃない、しかし『ローグアサシン』は『パーフェクトストレンジャー』である……という驚きの事実が……。

マッスルヒート [DVD]

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