"何もしてないよ! 僕の玉を取らないで!"『ハードキャンディ』
- 出版社/メーカー: ジェネオン エンタテインメント
- 発売日: 2007/02/23
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ヘイリーと言う14歳の少女と、ネットの出会い系で知り合った、32歳のカメラマン・ジェフ。誘いのままに彼女を自宅へと連れ込む。だが、彼女の作ったスクリュードライバーを飲み干した直後、意識を失って昏倒。目覚めた時は、自室の椅子に縛り付けられていた。彼をペドフィリアと罵り、家中を荒らす少女。彼女の目的とは?
メインキャストはほぼこの二名のみ、というシチュエーション・スリラー。観ててとりあえず思い出したのはポランスキーの『死と処女』だった。ん? ポランスキー?と思ってたら、作中ででも台詞で出てきたから、笑ってしまった。リビドー丸出しで女を家に連れ込んだら、まさかの怪物。拷問にかけられ、秘密や性癖を次々と暴露され、助けは来ないし、来ても後の人生が地獄。最初は「ペド野郎はこれぐらいやられて当然だよね」と、へらへら笑いながら観ていたが、さすがににわか去勢手術のシーンでは、うそ寒い気分になってきたのでした……。
顔アップ多用で囚われの男の閉塞感を煽る演出は、ちゃかちゃかとカットの切り替えがうるさくていまいちだなあ、と思ってたのだが、この手術シーンでは、局部も手元も映さないことがかえって効果を上げている。肝心なところを映さない、ぼかす、という演出手法は、最後まで徹底されている。
設定面も同じ。パトリック・ウィルソン演じるこのジェフという男の少女趣味は、まあ確定されているのだが、ヘイリーが作中で糾弾する殺人に関しては、なかなかはっきりと明らかにならない。それと同じく、このヘイリーと名乗る少女の正体も謎に包まれ、観客は終始、曖昧模糊とした感覚を抱えることになる。ジェフは本当に殺人を犯し、去勢されるのが相応しいような性犯罪者なのか? ヘイリーは復讐者なのか、それとも狂人なのか?
この曖昧さは完全に狙った設定。ジェフを完全に「犯罪者」と位置づけることは、男性観客に「ああ、こいつは俺たちとは違うね」と切断処理させ、安心を呼び起こしてしまう。要は性犯罪など犯していない(よね?笑)男性観客にも、「冤罪」でこのような目に遭わされるかも、という恐怖を感じさせるために、わざとこういうどっちつかずの立ち位置を取っている。犯罪と呼べる行為はしていなくても、だいたいの男性はAVやポルノ画像で女性を商品として消費しており、それは女性からすれば糾弾の対象になり得る。「何も悪い事はしていない!」とわめいても、こうして椅子に縛り付けられたらおしまいなのだ。
かくして男性からしたら怖いシチュエーションが出来上がるのだが、女性からしたらどうなんだろう? 我々は冷や汗かきながら「そこまでしなくても……」と思うところだが、殺人が確定しなくても「たぶんやってるだろうし、取りあえず引っこ抜いとけばいいよ」ということになるんじゃないかな……。まこと男性というのは罪深い。
作中年齢14歳、撮影当時は実年齢17歳か? この頃から完成されてる、エレン・ペイジの演技。くるくる変わる表情も、機関銃のようなトークも、すべて後の作品に受け継がれている。やはり天才だ!
しかし、なぜ単独主演作は今作、『JUNO』http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20100928/1285651707、『ローラーガールズ・ダイアリー』http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20100626/1277479237と、女性のジェンダーに関わるものばかりなのだろう? 主演デビューがこれで、『JUNO』も結果的に絶賛されたがかなりの冒険だったはず。確固たるポリシーがあってのチョイスだとしたら、今後の主演作もそれと無縁にはならないはずだ。そろそろティーン役も卒業となるであろう彼女だが、いかなる歩みをたどるのか……。これからも追い続けて行きたい。
- 出版社/メーカー: アルバトロス
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