"ドニー・イェンVS全員"『エンプレス 運命の戦い』

エンプレス ~運命の戦い~ [DVD]

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 これ、劇場行くつもりが見逃したんだよね。DVDで鑑賞。


 趙の侵略を受けた燕の国。戦場で負傷した燕王は、世継ぎとして実娘の飛児や甥の胡覇ではなく、将軍の雪虎を指名する。野心家の胡覇は王を暗殺し、自らの王位継承を主張。内乱を恐れた雪虎は自ら身を引き、王位を飛児に譲り渡す。
 自らの力不足を感じた飛児は、強い王となるために修行に励むのだが、その最中、胡覇の放った暗殺者によって重傷を負う。毒に侵され、山中で意識を失った飛児を助けたのは、かつて最強と称された戦士団の生き残りでありながら、戦に飽いて隠遁する蘭泉だった。


 最近、むやみに希少価値が高まっているドニー・イェン出演作の劇場公開。『SPL』『かちこみ!』とまじめに行き続けていたのが、これで頓挫し痛恨……。
 まあしかし、タイトルどおり主役はケリー・チャンなんですね。本来ならば王になるはずがなかったのが、その地位につけられてしまい、まったくの偶然から別の生き方を知ってしまい葛藤する……という話。王という役目が、単に力で戦に勝つという意味でしか捉えられてなかった序盤から、主人公が戦から離れた平和な生活を知ったことで、戦を超えた価値観と役割に変化していく。
 ……が、まあ薄い。いわゆる民衆が出てくるわけじゃない話なんで、戦士と元戦士の生き方の対比だけでここらへんが描写されてしまう。
 隠棲する元戦士レオン・ライと出会い、恋に落ちる王女……ということで、それなりに恋愛ものっぽくもなっているんだけど、三角関係になっていいはずのドニーが、「兄」的ポジションということで、そこまで踏み込まない。もうちょっと色んな要素を入れて重層的なプロットにすれば、大作感が出たと思うんだが、九十分ちょいの小品的内容に収まってしまった。まあ気軽な武侠片の、女性が主人公の亜流というところですか……。


 しかし合戦シーンの生の迫力は、小品と斬って捨てるには惜しい。戦車が横転し、人間に乗り上げるシーンもみんな本物がやってますから……。メイキング見たら監督が、「ちゃんと準備して練習したから、大丈夫だよ、たぶん……」とか言っていて愕然……とはしないか。まあ香港じゃいつものことです。他にも、ケリー・チャンがドニーに川に突き落とされ、もうカットなのに「もっと強くなれ」と引き上げてもらえなかった、というサディスティックな(笑)エピソードもあり。


 合戦シーンでは、やはり馬上で武器を持ってるということもあり、それほど目立たないドニーさん。今回はピンの主役じゃないし、まあこんなもんかな……と思ってたら、見せ場は後半に用意されてました。
 敵の姦計にはまり、多くの兵士を失ってしまったドニー。残った兵士たちを拒絶し、たった一人で大軍勢に挑む! えええええええ、そりゃあ無茶だよ、協力しようよ……と思うんだが、剣を地面にぶっ刺して「かかってこい!」と吼え、とりあえず襲ってきた数人を得意の空中二段蹴りで瞬殺! たまらず敵も全員で襲いかかってくる! 髪を振り乱し、肌脱ぎになって単身立ち向かうドニー! これこれ、やっぱりこの大暴れがなければドニーではないですな。


 恋愛部分とか、ヒロインの価値観を変えるところとか、美味しいところは全体にレオン・ライが持っていってしまっている。ドニーはどっちかというと闘い一辺倒の不器用な男役で、忠義に篤いストイックなキャラクターなんですが、それゆえに滅びるべき時代の役割も背負わされてしまっていて、ちょっと気の毒。リアリティでいうと、この時代に共存共栄、平和の価値観とかねえだろ、という感じなんで、そこらへんもちょっと外してしまってる。


 まあキャストが好きなら、それなりに見られる作品。ドニーファンにはちょいと物足りないかな……。