ガンダムのはずが『地獄のデビルトラック』だったよ『劇場版 機動戦士ガンダム00 A wakening of the Trailblazer』(ネタバレ)


 ついに劇場版公開! 完全にネタバレしておりますので、あらすじ以降はご了承の上、ご覧下さい。


 あの戦いから二年……融和政策へと切り替えた地球連邦政府の下、人類は束の間の平和の中にあった。だが、無人のはずの木星探査船の謎の帰還により、その平和にも亀裂が走る。
 強い脳量子波を持つ人間を襲う、謎の金属生命体「エルス」。地球に落着したその破片の暴走と時を同じくして、木星軌道上にも巨大な「エルス」が出現する。あらゆる金属を取り込み、その特性を模倣する「エルス」は、ミサイル、戦艦、モビルスーツまでもコピーし、その大軍団をもって地球に迫る。連邦軍、そして密かに活動を続けていたソレスタルビーイングは、決死の防衛線を敷く。果たして、「エルス」の目的とは?


 まず、一応、映画っぽく全体の流れはまとまっていた、ということは言っておこう。宇宙生命の襲来からファーストコンタクト、その生態や行動目的の解明、主人公の危機、そして復活、決着……テーマ的部分の着地……。テレビシリーズの際は、脚本家の資質を疑っていたが、二時間で起承転結をまとめる力は持っていたようだ。
 しかしな……それはいいとして……出来上がったものは、こりゃなんなの?


 事前情報から、宇宙生物の襲来という話は知っていたんだが……う〜ん……マクロスで良くない? 『フロンティア』終わって、ヴァジュラの次は金属生命体とわかり合えるか否か……っていう話にしてさ……。マクロスの例を挙げずとも、宇宙人が襲来するが戦いの中で分かり合う……っていうテーマは、ロボットものにしてもSFにしても、非常にありふれてるよね。


 ……なんで、人と人とのわかりあえなさ、を描いて来たガンダムで、これをやる必要があるの? 


 熾烈な争いを経て、通い合う心もある。けれども分かり合えない、すれ違う思いもある。そんなジレンマを常に抱えて、それと対峙して来たのがガンダムシリーズで、『00』も当初はそれを踏まえて、その困難さを描こうとしていた。第二期のラストでも、サーシェスとリボンズという二人とは、結局殺し合うことしかできなかった。でも刹那とマリナのように、すれ違いながらもつながっている関係もある。終盤のぼろぼろな展開の中でも、それを描いた最終話は悪くないと思ったし、そこを踏まえて劇場版は「新たなる対話」をどう描くのか?には興味もあった。


 で、金属生命体がやってきまして、脳量子波を持っている人間と融合しようとしています……。


「あ〜、はいはい! じゃあ脳量子波を通じて、わかりあえるよね!」


 そう、設定だけ見れば、その時点でそれがわかってしまう。いやいや、人間だって言葉で話が通じるはずが、やっぱりわかりあえなかったりするわけだから、宇宙生物とも、コンタクトの方法があるからと言ってわかりあえるとは限らないよね……。


 でもわかりあえちゃいました! てへ!


 完!!


 ……いや、ほんとにテーマ的にはこれだけの話だったので、びっくりした。刹那がダブルオークアンタで金属生命の内部に突入し、システムを起動してコンタクトを取った瞬間、全てが解決するのである。
 これは、とりあえず電話がつながったら、人は金属生命体ともわかりあえます、ということを言いたいのだろうか……?
 「来るべき対話」への準備って、そういう科学技術だけ(しかも一人のおっさんの思いついた)の話だったの? ツールさえあったらいいの? いやいやいや、人類の進化種イノベイターの存在が必要……いや、なんかそれって粒子浴びてればそのうち発生するようなもんなんでしょ? やっぱりツールさえあればいいのよね?
 で、それとは別に電話が通じた時のために、リボンズやサーシェスみたいな話する気ない奴は始末しとかなきゃならなかった……とまあ、そういうことなんでしょうか!?


 なるほどなるほど、実に整合性が取れて……ってそんな簡単じゃねえだろ! 宇宙人がリボンズやサーシェスみたいな奴だったらどうするつもりだったんだよ! 電話が通じるまでにあんだけドンパチやって人死にも出てるのに、お花に変わったらみんながみんな許せるの? 半身浸食された女の子とかはどうなったの? 死んだ兵士の家族とかはそれでいいの? 宇宙生物側も、あれだけ抵抗されてイラッとしてなかったの?


「彼の愛は大き過ぎて……」


 うん、そうだね! だからちっちゃいとこは放っておくしかないよね!
 対話が成立し、戦いが終わる……という流れは別にいいと思うんだが、実際の戦争もそうだけど、そこからの問題も山積みのはずなんだよね。それがお花が咲いたというイメージだけで片付けちゃうのは、あまりに乱暴だろう。
 テレビ版の時も書いた事と関連するのだが、まったく細部に神経が行き届いてないよね……。

http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20090329/1238330810


 オリジナルの一本の映画でこの話をやるのは、まったくダメとも思わない。そんな程度のものだと思えばいいので、別にあり。でも『ガンダム』という文脈の中でこれをやってしまう無神経さには、正直ぞっとするものがある。


 この劇場版でオレの『00』の評価は、「ノリで見るネタアニメ」ということで完全に落ち着いた。あとは落ち穂拾い的に行こう。


 タイトルにしたけど、『地獄のデビルトラック』には本当に引いたな……。「誰も乗ってない! ひえ〜!」……B級SF映画のホラー演出を、こんなとこに持ち込まなくていいよ! スパイスとして入れたいなら、それ自体独立して面白いものにしてほしいのだが、単に色んな車やヘリが追っかけてくるだけだし……。他にも家になってたり、リボンズの姿になってたりして、車である必然性がなにもない。だいたい、タイヤやハンドルはゴムなんじゃないの? とりあえずアレルヤとマリーのジャンプ力がすごいのはわかった。
 同じノリでミサイルやモビルスーツにも変身するんだが……えっ、爆薬とかビームも全部再現できるんですか、ふ〜ん……。
 特にこのモビルスーツへの変身がまったく余計だったなあ。おかげでどっちの陣営もジンクスになっちゃってるので、カット割の細かいとこでは、どっちがどっちなのか全くわからない。


 え〜と、名前なんて言ったっけ……新しいイノベイターの人は……デカルト・シャーマンか。え〜と、この人は何のために出て来たんですか? オレはてっきり、金属に取り込まれて最後に刹那の前に立ちはだかる、「分かり合うなんてイヤだ」的意見の代表ともなる、ラストにドンパチやる相手……と思ってたんですけど、中盤であっさりやられて終了。同じイノベイターであるけど刹那とは決定的に違う……何が? 「扱い」が! 刹那と、イノベイターとしてではなく人間として、違いを対比するために出したキャラなのかな、とも思ったが、こんなあからさまに虐待によって歪んでしまった人を出して、いまさら何が違うのと言いたいのか? さっぱりわからない……。


 ロックオンは完全に存在意義がなくなり、ほとんど狙い撃ってさえいない、という悲劇的な役回りに。今思い出しても、いたっけ……?というほど印象に残っていない。
 二重人格ネタを引っ張ったアレルヤは、辛うじてまだ笑えるからいいんだけど。ハレルヤも丸くなってしまってつまらんなあ……。彼こそ「宇宙人ども! 死にな!」とか口走りそうな人なんだけど、そんなこと主人公側の人間が言ったらぶち壊しだから、わざと丸くさせられてしまったように見える。で、どうせなら、ヨメの方もマリーとソーマのダブルで喋ってほしかったんだが、こっちは演じ分けが不明瞭なんだよね……。


 そんな中、ティエリアはキャラクターとしての特性がちゃんと発揮されていて、良かったのではないか。ピンチにパパーンと味方がかけつける……という展開が多過ぎたのだが、その中でもラファエルガンダム登場シーンはめちゃめちゃ目立っていたし、再生した肉体とガンダムを、一度の活躍だけでまたあっさりと捨ててしまうあたりも、意外性があって良かったのではないか。
 近頃、ちらちらとツイッターで見かけていた「ティエリアアリエッティ」という回文、いったい何の事かと首をひねっていたのだが……かわゆっ! まさに小さい人だ。またネタに走ったのかよ……というのとは別に、第一期であんだけ尊大だった人が、こんなにちいちゃくかわゆくなってかいがいしくサポートに回っている、という事実には、ときめきさえ感じる。だから、ミレイナの、どんなになってもアーデさんが好きです! という気持ちは、少しわかるような気がするのだ。まあミレイナは一期でいじめられなかったし、アーデさんは何も言わなかったがな!


 グラハムはストーカー成分こそがキャラクターづけの最重要部分だったのだな〜と改めて実感。一期のラストで、「戦いに執着する歪み」を指摘され、二期でそれが刹那との決着で解消されてしまったおかげで、もう普通の潔い人になってしまった。「少年(刹那)を追う」という目標を掲げながら特攻しちゃうし……。これだったら、父殺しへの贖罪意識を抱えて死んでいくアンドレイの方が、まだすっきりしてるんだよな。


 「女キャラが余った」からこの役割に据えられたように見えるフェルトは、相変わらず気の毒。悲劇が起きる一方で、あちらこちらでカップリングが成立しているわけだから、もう少し報われても良かったのではないかと思うが、しようがないか。
 ガンダムマイスターである両親を持つ彼女は、「目標と大義に向かって突き進む姿」がカッコいい、という価値観を見せられて育って来た可能性が強く、母親は立場を同じくしてその目標に寄り添う、という存在だったのではないか。両親の関係を投影すると、自然と「マイスターとして戦う」ロックオン兄や刹那に惹かれ、同じ艦の仲間として共に在ろうとする姿勢を取ってしまい、最後は「大きな愛」という大義のために自分を押し殺してしまう……という形になってしまう。不憫だなあ。


 パジャマもまぶしいコーラサワーは、それに対して個人的愛だけを突き通してハッピーになってしまった。この関係もテレビ2期で完結してるから、今回は安心のお約束要員。カティさんも艦隊指揮で見せ場はあるし、全然不遇じゃない。なごみ要員だ。


 メカですが、ダブルオークアンタがちょっと残念だよね。史上初の「対話専用ガンダム」ということで、一切武装無しにしたら面白かったのに。で、突入を味方全員で援護する、と……。


 ……ここまで話に出なかったキャラは、個人的にはもうどうでもいいので忘れます。
 しかし色々とカップリングは成立したけど、全部成立過程がきれいに描かれてないのは、もはや病理だよね。アニューの死もそのせいでまったく盛り上がらなかったのは記憶に新しいが……。
 唯一、一期からそれなりに描かれていたのが、刹那とマリナの関係だったと思うんだけど……。ああ、マリナは冒頭で宇宙に出てて、これで話に絡めるかな?と思ったら地球に戻っちゃうし、刹那の復活シーンでも他のキャラと同格扱いで言葉一つかわさないし、挙句に刹那はフェルトを振ったのはいいが外宇宙に行ってしまいました……そしてエンドロール!


 ……終わった……。歌ぐらいあるかな、と思ったが、挿入歌は石川智晶の貫禄に完敗したか出番すらなし。あのガキどもはどこへ行ったんだ……。本当に最後の最後まで扱いの悪いヒロインであった……。


 ……と思ったらエンディング後(約50年後)……民家でピアノを弾く老女の姿が……。気配に手を止め、立ち上がる彼女。


老女
「どなた? 私は目が不自由で……」


マリナ・イスマイール


 きたああああああああああ! せっちゃん!
 金属と融合したのか、髪も肌も真っ白で、もはや人間でさえないが、刹那が外宇宙から帰って来た!


刹那
「君が正しかった」


マリナ
「いいえ……! あなたも正しかったわ……!」


 そっと寄り添い、初めて抱き合う二人。
 マリナの住む家は、一面の花畑に囲まれている。アザディスタン……クルジス……刹那の生まれた戦乱の地、果てのない砂漠は、マリナによって生まれ変わった。そして、今も彼女によって守られているのだ。そこへ降り立ったガンダムもまた、その大地と同化するかのように花々に覆われている。


 これだあああああ! 


 まさかのババア×人外エンドだが、感動した。今だから告白するが、オレは第一期からずっと刹マリだったんだ。これはありだと思う。ミレイナとティエリアもそうだけど、性別や肉体のあるなしさえも超えていく、というのは、未来における一つの方向性だよね。いや、こうやって正面切ってやって見せられると、もはやこのエンディングしかなかったのではないかと思う。刹那がもっと顔とか原型を留めてなかったら、さらに良かった。
 宮野真守はいい声優なのにこの無口な役は無駄、と思ってたが、「君が正しかった」という台詞に込められた温かみ、溢れ出る感謝と優しさ、最後の最後で輝いた。ありがとうありがとう。
 良かったな、マリナ。君はやっぱりヒロインだった。適当な描写しかされなかった他のカップリングキャラでは絶対にたどりつけなかった愛の境地に、君だけが到達出来たんだ。おめでとう、おめでとう。不憫に思いながらも君を応援し続けたこの三年が、オレも報われたような気がするよ!


 さて、ラストはラストで良かったとして、最後に作中に登場する映画に対するクロスロードさんの冷めた感想を引用して、この項を終わりたいと思います。


友達
「いや〜、面白かったな〜」


クロスロードさん
「美化しすぎだよ……」

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