『Another』綾辻行人

Another

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 ひさびさ綾辻さん。しかし分厚いな……。


 ぼく……榊原恒一は、転校してこの夜見山にやってきた。3年3組に編入される直前、肺の病気によって入院生活を強いられる。そこで出会った眼帯の少女、鳴。五月になって通い始めた3組で、ぼくは鳴と再会する。だが、クラスメートたちは、なぜか彼女を避け、まるでそこにいないかのように振る舞う。なぜ? このクラスでは何が起こっているの? やがて、不可思議な死が、クラスとその家族を襲い始めた……。


 ホラーテイストも加わっているが、主にそれらは設定の補強のためであり、超自然的な現象による死を題材にしているだけで、中身は割合かっちりしたミステリ。
 分厚いが、綾辻らしくキャラクター描写に固執しないからさほど密度は濃くなく、さくさくと読める。ただまあ「死」に魅入られている……という設定があまりに漠然としすぎて何でもありなので、「誰がいつ死ぬかわからない」という状況が緊迫感を生まないし、次に誰が死ぬのか?といった予想を立てることも無意味なので、求心力に欠ける。さらに、混じっている「死者」を特定する手だてが一つしかないのだが、それが最後にオチをつけるためだけの、あまりに都合の良い特殊能力なので脱力。
 クライマックスのカタストロフも、ただただ筋書き通りに流れて行く、という印象。色々と都合のいい設定を作ってしまったせいで、それに依存してしまったかな……。こういうネタを使うなら、もう少し状況を限定してパズルっぽく詰め、短い分量に収めてゲーム性を追求した方が良かったのではないか。


 ……とまあ、本格ミステリの文脈で読むと凡作なんだが、クラスで繰り広げられる「いないもの」の儀式とか、突然起きる惨劇とか、ホラー的なおぞましさはがっちり詰まっている。この「場の空気」を作り上げる閉鎖的感覚は学校と言う舞台ならではで、作者はそこらへんは計算して作り込んでいる。それだけに、見た目だけ理屈っぽい要素を排して「この中に「死者」がいる」という一点に絞って書き込めば、結構怖い小説になったかも……。


 中途半端なんだよな。ホラーとしては淡々と理屈を追いかけ、ミステリとしてはご都合主義。理詰めで謎を解くカタルシスもなく、問答無用で追いつめられる恐怖もない。小品なら許されたと思うが、こんだけの分量があって、大半が辻褄合わせじゃねえ……。


 ただこれは作者にとっては「過ぎ去った夏」の風景なんだろうね。全てはすでに終わった話で、今もどこかで繰り返されているかもしれないけれど、自分がそこに関わる事はもうないであろう話。それを振り返って、言わば回想録のように書いているように感じられる。作者はもはや当事者ではなく、ならばその作品中に「緊迫感」などを求めるのは無駄な事なのであろう。
 あれはあるいは全て本当に誰かが体験したことであり、作者はそれに「解釈」を付け加えているだけなのではないか……? そんな肌触りだけは愛おしい。まあ綾辻ファンならなじむのは間違いなし。

びっくり館の殺人 (講談社文庫)

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