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『ダブル・ミッション』


 ジャッキー・チェン、ハリウッド30周年記念作。


 ペンのセールスマンであるボブは、郊外の街に暮らし、隣の家のシングルマザー・ジリアンとも良い仲。ジリアンの三人の子供に疎まれながらも、彼女との結婚を考えている。だが、彼にはもう一つの裏の顔があった。それは、CIAに所属する凄腕諜報員であるということ。最後の任務でロシア人テロリストを捕らえた彼は、それをもって引退するのだが……。


 アクション映画で人気が出たスターは、今度は作中で子供を相手にした、ファミリー向け映画に出演しなければならない、という鉄則があるらしい。シュワ(『キンダーガートン・コップ』)やヴァン・ダム(『ボディ・ターゲット』)、ロック様(『ウィッチマウンテン』)などもこの掟に忠実に従い、通過儀礼をこなしてきた。そして、今度は我らがジャッキーもまた、その路線に乗っかることになる。


 はっきり言っちゃって、大した映画じゃない。悪役は弱っちいし、襲いかかってくるピンチはぬるい。子供三人の人物配置は通り一遍で、ストーリーはどっかで聞いたような筋書きの羅列だ。スパイっぽい小道具は楽しいけれど平凡で、設定もどうってことはない。


 だけど、ジャッキーが出ている以上、これは紛れもなくジャッキー映画なのだ。
 確かに、彼の動きに往年の切れはないし、ワイヤーも多用している。だが、局面局面の小さな動きには、やはり彼でなくてはなしえない軽妙さと創意がある。ショッピングモールの吹き抜けを飛び降りて迷子を追いかけるシーン等も、往年のスタントを彷彿とさせる。映画の中で常に物を言うのは、彼自身の肉体言語である。
 スパイの小道具を使って戦うシーンもあるが、それはやはりほんの味付け程度の物でしかない。クライマックス、敵を迎え撃つための七つ道具が見つからない。子供の一人が、自分が使いたくて持って行ってしまったのである。子供たちはその道具を使って敵をやっつける。それは、それら小道具が子供向けの、こういう映画で使うのは不適切な言葉だろうが「子供騙し」であることの証明だ。そして武器のないジャッキーはどうするか……当然、肉体一つで戦うのである!(ここで言う「肉体」は、手近にあるフライパンや椅子など、「肉体」を以て使用する物品を含めた広義の意味である) 全く正しい。これこそがジャッキーの「矜持」なのだ。


 そして、ベタベタな筋書きの中、ジャッキーはそこでも存在感を発揮する。三人の子供たちの一人は継子で、一人だけ母親のことを名で呼んでいる。自分だけ家族じゃない、居場所がない……そんな風に叫ぶ少女に、ジャッキーは言う。


「僕も両親に捨てられて、施設で育った。でも、仲間がいた。彼らが兄弟だった。家族は、血のつながりじゃない、愛の絆でつながってる」


 他の誰かなら、あるいはおためごかしにしかならなかった台詞だろう。でも、口減らしのために体育学校に放り込まれた過去を持つジャッキーが言うから、ここに一欠片の真実が宿るのだ。このシーンでバックに彼の言う「仲間」、サモハンやユン・ピョウの姿がオーバーラップしたのは僕だけだろうか?
 そしてラストシーン。危機を乗り越えて、固い絆で結ばれた家族の姿には、長きに渡って妻子の存在を公表できなかったジャッキーの想いが、きっと込められているんだ。


 オープニングタイトルが、「スパイ時代の活躍」を描いているようでいて、実はジャッキーの旧作を模したような映像になっているのも面白いし、最後はNG集もあり。
 ジャッキー・チェンは、かつてのジャッキー・チェンではもうない。でも、今でもやっぱりジャッキーだし、これからもジャッキーであり続けるのだろう。


 まずまず良心的な作品で安心。さあ、次は『ベストキッド』だ! こっちの方が不安だ!

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