『第9地区』


 宇宙人出現!? 『インビクタス』に続くアパルトヘイトムービー!


 南アフリカヨハネスブルク上空に、突如出現した巨大な宇宙船。弱り果てたエイリアン達が保護され、「第9地区」と呼ばれる地域に隔離される。20年の月日が流れ、エイリアンの人数は18万まで膨れ上がっていた……。スラム化し、ナイジェリアのギャングに食い物にされる「第9地区」を浄化するため、軍需企業MNUが、新たに設置された「第10地区」へのエイリアン達の立ち退きを計る。MNUの作戦責任者となったヴィカスは、企業の命に服し、立ち退きを遂行。だが、あるエイリアンの家で、不可思議な黒い液体に触れてしまう。その夜、異変が……。


 予告編でもインパクト大きかったが、天に鎮座する巨大な宇宙船のビジュアルに目を奪われる。『ID4』以来のスケールだが、その船が、敵対的なものではなく、難民船に過ぎないという設定が衝撃的。かくして、人類は「エビ」と呼ばれる異星人との共存を強いられることに。
 異星人達は集団の「働き蜂」に相当し、あまり知能は高くない。地球人の風習も理解出来ないし、自らの本能を押さえることも出来ない。そして、人とあまりにかけ離れた異形……。かつて人種差別の渦巻いた南アフリカにおいて、再び同じ歴史が繰り返されることになる。
 企業の尖兵として、彼らに立ち退きを迫る主人公は、その差別の象徴的な例だ。表面上は文化人らしくにこやかだが、口先でエイリアンを丸め込んで書類にサインさせ、エサ、脅迫、何でも使う。孵化寸前の卵を焼き払って笑い転げる。子供のエイリアンにアメを与え、懐かれないと逆切れする。エイリアンを一等下の物として見下した、典型的な所作だ。
 だが、ある液体に触れたことで、彼の身体は異星人と同じそれへと変化し始める。人間から「実験材料」へと格下げになった彼は、そこで初めて、彼の企業がエイリアンに対して何をしていたか、そして自分がこれからどういう運命を辿るのかを知る。それはすなわち、自分が何に加担していたか、自分の関わったエイリアンたちが何を思ったかを知る事だ。


 中盤、唯一残された母星の記録映像を見ながら、エイリアンの子供が父親に尋ねる。


「僕達の星には、月がいくつあるの?」


 答えは7つだ。彼は、地球で生まれた子供で、母星はおろか、このスラム以外の世界を知らない。


「僕達の星に帰るんじゃないの?」


 父は、MNUから渡されたパンフレットを指差す。写真には、わざとらしく白く塗られた住居が建ち並んでいる。


「私たちの行くのはここさ。もう星には帰れないんだ」


 その時、主人公は初めて、帰る家をなくした自分は、彼らと同じだということに気づく。彼らもまた、不当に家を奪われた人間であるということに。
 生きるためにエイリアンと共闘しながら、彼は自らの人間性を深々と揺さぶられ、その姿は、我々観客の心の中の差別意識をも抉り出す。


 ドキュメントっぽい映像で構成し続けた前半から、後半は砂塵の中での大スペクタクルに突入する。銃撃と砲撃が乱れ飛ぶ中で、孤独な戦いが続く。電磁砲が飛び、ミサイルが飛び、実弾は空中で止まる。まさに「真昼の決闘」だ。生き残りたい、妻の元へ帰りたいと願っていた主人公は、同じように生き残りたい、故郷へと帰りたいと願うエイリアンの親子を前にして、ある決断を下す……。


 『ザ・フライ』に匹敵する悲哀、新世紀の『スターシップ・トゥルーパーズ』と言えるシニカルな眼差しによって、荘厳なまでのクライマックスが引き立てられる。そして、哀しみに満ちながら、人間性を賛美したラスト……。あ〜、泣ける! 傑作だ! 『渇き』と並んで、今年の暫定ベスト1!

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