『ストロベリー・フィールズ』小池真理子

ストロベリー・フィールズ

ストロベリー・フィールズ

 タイトルはイチゴ畑……ではなく、ビートルズの『ストロベリー・フィールズ・フォーエバー』の、ジョン・レノンが幼少時に遊びに行っていた孤児院の名前。


 出版社社長の後妻である夏子。クリニックを開業する女医であり、夫の連れ子・りえの継母である彼女は、鎌倉で家族三人で7年間を過ごして来た。居心地の悪さを抱えながらも、平穏な日々。だが、その日常に亀裂が走る。りえの友人である、旬という謎めいた青年にあったその日から……。


 こ、この粗筋は、まさに傑作短編『倒錯の庭』そのものじゃないですかっ! 短編じゃないんで、あそこまでソリッドな展開にはならないのだが、逆に長編ならではの部分として、継母として、後妻としての所在のなさみたいなものが、ねっちりと書き込んである。微妙な苛立ちを感じながらも慣れ切ってしまい、現状を受け入れた今。だが、一人のイケメンの登場をきっかけに、夫の裏切りに気づいた主人公は、身の内に抱えた怒りを自覚させられるのだ。
 メインプロットは『倒錯の庭』なのだが、多彩な登場人物を配置することで、人工的に作られた庭園のような「家族像」を浮き彫りにしていく。対比するのは、どこか荒れて草と土の臭いのする孤児院の庭。どこか虚無を抱えたジョン・レノンに惹かれる心だ。


 小池真理子的な、破滅に向けて疾走する展開をやや外れ、危ういまでの綱渡りを繰り返しながらも、物語は不思議な程の落ち着きを見せる。奇妙に捩れた家族の姿をあぶり出して、一つの庭の物語は終わる。少々物足りない向きもあるかもしれないが、これもまた、氏が繰り返し描いて来たことの終着点の一つなのであろう。


 いや〜、しかしやっぱり小池真理子の描くイケメンは最高すぎます。自分を押し殺して生きる女の本音を、残酷なまでに暴き出す! これこそがロックだっ! 

倒錯の庭 (集英社文庫)

倒錯の庭 (集英社文庫)


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