『絶望ブランコ』大石圭

絶望ブランコ (光文社文庫)

絶望ブランコ (光文社文庫)

 転落事故により再起不能になった空中ブランコ乗りの母。それをきっかけに、彼女の子である姉弟は離ればなれになって暮らす事になった。だが、根無し草の父に育てられた弟は、社会の底辺で生きる殺し屋となり、母親と同じく劣悪な環境で暮らした姉は、視力を失い、結婚相手にも捨てられる。再会した姉弟は、再び一緒に暮らし始めるが……。


 いや〜毎度毎度読み始める度に、「またこのパターンか……」と思うのだが、読んでる内にそんなことはどうでも良くなるんだよね。ストーリーには今まで以上に捻りがないのだが、かつての幸せの象徴としてのサーカス団の描写の美しさが素晴らしく、幾度も胸を打つ。輝いていた頃の両親、優しかった団員たち。貧乏で一つ所に落ち着くことはなかったが、だからこそ他では出来ない体験をした。もう二度と、その頃が帰って来る事はない。
 ああ、だけどそれら全てが失われたわけじゃない。多くを望まなければ今だって幸せなのだ。たとえ人を殺め、身体を売っていても、明日には全てが失われるとしてもだ。


 タイトルからして既に絶望へと急降下することが義務づけられた空中ブランコだが、その結末があるからこそ悲哀があり、より一層その瞬間の輝きが引き立つ。どんなところにでもある小さな幸福を示す、「絶望的なハッピーエンド」は今作でも健在だ。

人間処刑台 (角川ホラー文庫)

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by TREview