『甘い鞭』大石圭

甘い鞭 (角川ホラー文庫)

甘い鞭 (角川ホラー文庫)

 ああっ、なんていう表紙なんだろう。そしてなんという帯のコピーなんだろう。


「ああっ、いたぶられている。こんなに淫らに」


 うーむ、帯つける奴もタイトルつける奴も、かなりわかってきたなあ、という感じ。


 岬奈緒子は不妊治療専門の医師。だが、腕と実績のみならず美貌も評判の彼女にはもう一つの顔があった。「セリカ」……会員制のSMクラブに所属するM嬢。15歳の頃、奈緒子は隣家に住む男に拉致され、一ヶ月に渡って監禁され、陵辱の限りを尽くされ、男を殺害しその境遇から逃れ出た。
 そして現在、彼女をそうした生き方に駆り立てるものは何なのか? 


 監禁された少女、監禁した男。過去作品『檻の中の少女』『飼育する男』の構成要素が絡み合い、その「過去」を背負ったまま成長した女の現在を描く。M嬢である主人公だが、それは単に昼の顔である「医師」と同じ役割に過ぎず、時にサディズムへとも揺れ動く。彼女をそうさせたものは、過去の監禁体験なのか、あるいはそうではなく、彼女自身の性質によるものなのか? 作中でそれが明記されることはない。
 通読する読者の心理は、女、少女、男、その他の登場人物の間を複雑に揺れ動き、否応無く価値観を揺さぶられて行く。
 MとかSとか、そういうレッテル貼りの無意味さ。刻一刻と変化する人間同士の力関係。「安心」を阻害する環境の中で、人はいかに生きるか。

 
 今までの作品と同じく、「性暴力の肯定」と取るのはあまりに安直な読み方だが、危ないところに平然と踏み込んで行くなあ、という事は今回強く感じたところ。
 しかし、モラルなどが助けてくれない「この世の闇」の中で歩み続ける人間の姿を、常に描き続けて来た大石圭が、自らもそこに踏み込むことはもはや必然なのかもしれない。


 今回も「大石ワールド」としか呼びようのない、永遠のマンネリズム展開。そこがいいんだよ、と思いつつも、次はオカルト物がまた読みたいなあ。


 が、あれだな、サイトの日記で書いたネタが後から小説に出てくるのは、いささか興醒めかな(笑)。これ読んだ後で、奥さんの不妊治療の話とか日記に書いたら、「ほお〜」と思うだろう。「取材」の内幕はやはり本出してから書いて欲しいなあ。

檻の中の少女 (角川ホラー文庫)

檻の中の少女 (角川ホラー文庫)