『子犬のように、君を飼う』大石圭

子犬のように、君を飼う (光文社文庫)

子犬のように、君を飼う (光文社文庫)

 誰も死なねえ〜っ!


 いやあ、まずこれに驚いた。大石圭と言えば、DVと猟奇殺人がお約束で、今回も壮絶なカタストロフになだれ込むものとばかり思っていたのだが……。いや、もはや前作『人間処刑台』において、そういった定型が破壊されつつあると感じたのも確か。はたして、今後はいかなる方向に進むのか?


 「この地球上の富は、あまりにも偏って分配されている」
 近作で幾度も語られたテーマを今回もなぞり、ほどほどの成功を収めた作家と、マカオで娼婦をやって生計をたてる少女の出会いを軸に、富める者と搾取される者の構図を、客と娼婦という関係性を軸に描き出す。


 映画のノベライズが売れたことを切っ掛けに、社会的な成功を収めた湘南に住む中年の作家(どっかで聞いた話だが……(笑))は、充たされないものを抱えながらも、自分の「幸福」を自覚している。飢えることもなく、収入を誰かに奪われることもなく、肉体を他人に差し出す必要もない。だが、その「幸福」を知らない少女が、それを与えられた時、いかなる気持ちを抱くかにまでは考えが及ばない。
 その意味にようやく思い至った時、彼はある決断を迫られる。


 「女奴隷は夢を見ない」とはある意味、対照的なラスト。欲望の街マカオで、少女は一人の日本人に対して夢を見た……。賛否両論ある結末だろうが……結局のところ、何がいけない?ということに尽きる。人生は所詮、カジノのように空しく儚い。何をしたって同じことだ。
 今回も「絶望的なハッピーエンド」を提示して、物語は終わる。ただ、その絶望が何一つ荒唐無稽ではない「生活」であることに、慄然とせずにはいられないのだ。