”俺が、俺たちがX-MENだっ!”『X-MEN アポカリプス』(ネタバレ)


映画「X-MEN:アポカリプス」予告E

 『X-MEN』シリーズ、ついに完結!

 紀元前3600年、エジプトを支配していた最古のミュータント・アポカリプス。1983年、彼を崇める邪教の調査を行っていたCIAのモイラ・マクタガート捜査官は、儀式に侵入したことでその封印を解いてしまう。復活し、現代の文明を堕落した弱きものと見なしたアポカリプスは、自ら選んだ四騎士と共に世界の破壊に乗り出す。一方、新たな学園の運営に余念のないチャールズは、ジーン・グレイの見た悪夢によってアポカリプスの姿を目の当たりにし……。

chateaudif.hatenadiary.com
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 『フューチャー&パスト』でミスティーク=レイブンによって「より良き選択」が為され、未来が変わって10年の後。舞台は80年代。すっかり立ち直ったチャールズは学校を再開。そこに集まって来るジーン・グレイにスコットたち。レイブンは傭兵として各地を回りミュータントたちを地道に助けており、エリックは名を変え家族を持ちひっそりと暮らしていた……だが、そこで起きる謎の地震……。

 エン・サバ・ヌールと呼ばれた古代のミュータントが、エジプトの砂の底から蘇ったのだ……! オープニングはその彼、アポカリプスが兵士の裏切りによって地の底に沈められるシーンから。再生能力を持つ肉体に移るための儀式の真っ最中、ピラミッドを崩壊させる仕掛けを起動させられ生き埋めに……。うーん、何だこの仕掛けは……いったい誰が何のために、わざわざ作ったものをぶっ壊す仕掛けをわざわざ作ってたのだ?

 現代になって砂の上には街が築かれ、未だCIAの一員であるローズ・バーン演ずるモイラさんが謎の教団を追ってやってくる。地の底で繰り返される謎の儀式に潜入するモイラ。開けっ放しの入り口から太陽の光が入り込み、それにピラミッドの一部が反応してアポカリプスが復活する……!
 えっ!? おまえかよ!と突っ込んじゃったね。てっきり『フューチャー&パスト』で歴史が変わった影響があるのかと思ったら、単なるうっかりが原因だった……。ドラゴンボールで言うと、ウーロンでも亀仙人でもヤムチャでもいいが、弱い奴が余計なことをしたばかりに大変なことが起きる、というパターンね。

 復活したアポカリプスおじさんが、街をウロウロしてカルチャー・ギャップを味わう、という展開がまあまあ長い。オスカー・アイザックはあまりでかくないよな、と思いつつ、黙示録の四騎士が新たに結集する。
 それと並行してレイブンとナイトクローラーの出会い、学園におけるスコットとジーンの出会いなどが描かれ……。
 登場人物と場面転換が多すぎ、さらにもういちいち説明まったくしない、完全にシリーズファン向けな作り。ジーン・グレイはすでに学園に来ていて、『ファイナル・ディシジョン』で描かれた若作りスチュアートとマッケランによる有名なスカウトシーンは描かれず……そりゃそうだよ、まだマカヴォイとファスなんだから。

 もう知ってるでしょ!?というマニアックさ任せの端折りっぷりはいいが、エリックの新たな家族のくだりが完全に新設定なのに同じぐらいあっさりしているように見えてしまったのがちょっとつらいな。
今回のエリックのキャラは『ファースト・ジェネレーション』で復讐を終え、『フューチャー&パスト』で敗北して、完全に燃え尽きてるんだよな。指名手配から逃れて隠れているだけで、もはや悪のカリスマとしての存在感はなく、仮面を脱いだフランクのようである。
 さらに新たな家族をも失い、またも復讐心に取り憑かれる……んだけど、実際のところなんだかグズグズしていて、そこをアポカリプスに付け込まれる。しかし四騎士に加わり、世界を破滅に向かわせようとしつつも、目が死んでいて鬱病演技みたいなアプローチをしているファスベンダー!
 今シリーズのエリックは『ファースト・ジェネレーション』ですでに完成されたキャラで、チャールズと表裏一体の存在なのだが、セバスチャン・ショウへの復讐は終わり、テーマ的対立がレイブンの選択によって決着がついているせいで、かなり存在意義が薄くなってしまっているのだな。そういう意味では不幸な役回りだったが、ヴィランではなくヒーローとしてのマグニートー像にかなり寄ったとも言えるね。

 その点、前作から主役化したレイブンは、ジェニファー・ローレンスのオスカー女優としての貫禄も合わせ、すっかり指導者的ポジションが板についていますな。俳優の成長とシリーズ内での立ち位置がシンクロした良い例になれた。

 アポカリプスは肉体を移動するたびに、その肉体の能力を身につけていく、という設定。最初はその移動の能力だけを持ったミュータントだったのだろうが、何回移動しているのか、今作ではいくつもの能力を披露。フィールドを張っての瞬間移動、バリアーになる高熱の力場、土を操る、ミュータントの潜在能力を引き出す、金属の装備品を作る、テレビにアクセスして過去の電波から放送を見る、そしてオープニングで身につけた再生能力(加えて不老?)などなど……。多彩だが、思いの外、自分の身を守る能力が多いのは、支配者として長く君臨することを目標としているからか。
 直接の破壊は部下の四騎士に担わせ、やたらと攻撃的な能力を揃えている。四騎士は肉体の移動の儀式の最中の無防備になる時間帯の守護も兼ねているので、特に強力でなければならない。ただ、それほど強力な忠誠関係があるかというと怪しく、強い能力を与えたという一点に依存している。
 このあたり、詰めが甘いっちゃあ甘いけど、感覚が昔の人なのね。強いものが支配し、代わりに力を与えれば、弱いものはついてくるというシンプルな支配体制で生きてきた彼には、弱くても、人と違っても、だからこそ助け合って生きていくという、現代の人権思想は決してわからないし、その間で生き抜いてきた現代のミュータントの気持ちは絶対に理解できないのだ。

 そのアポカリプスが次に狙った能力は、史上最も強力なテレパスであるチャールズであり、彼を手に入れれば、目標の世界支配が容易になる。
 チャールズがセレブロを使う→アポカリプスを探知→アポカリプス、チャールズの居場所を知る→テレポート、とまあ展開が早いな! 脳がオーバーヒートしていてあっさりさらわれるチャールズ。止めようとしたハボックだが、ビームをかわされ地下のハンクの力作のエンジンに誤爆し、屋敷丸ごと大爆発……! だが、そこに超音速で駆け込んできた男がいた……!
 あまりに前触れなく出てきたからびっくりしたぜ、クイックシルバー! 前作をよりパワーアップさせた演出で、屋敷中の生徒たちまで全員救出! すごすぎ、早すぎ。ただ、唯一爆破のすぐ側にいたハボックだけは救えなかった……。どれだけ速くても万能ではないし、時間を戻すことはできないのだ……。

 さてその頃、目のビームをグラサンで止められるようになったスコットと、ナイトクローラージーンはショッピングモールにこっそり出かけていて無事だったのだが、帰ってきて大惨事に直面。そこへストライカーたちが現れ、レイブンたちをさらっていってしまう。行った先にはウェポンXに改造されたあの男が……。
 このストライカーとウルヴァリンの下り、丸ごといらないんだよな。今回の話に全然関係ないし、単に飛行機をゲットしただけで終わってしまう……。ウルヴァリンというキャラクターが時系列でこの後の第一作に出るから、そこへのつなぎ……。前作ラストでミスティークが絡んでるのを匂わせてたのに、そこがなかったことになってるのだな。あの後、改造されちゃったけど色々あって助けました、ぐらいの台詞を入れておけば、このくだり丸ごとカットできたと思うが……。

 核ミサイルを宇宙に放り出して各国を無防備にさせた後、カイロを襲い自らのピラミッドを建造するアポカリプス。チャールズを使って世界中に宣戦布告するとともに、エリックの能力で地底の金属を揺さぶり、世界中の建造物を破壊しようとする。
 立ち向かうのは、レイブン、ハンク、スコット、ジーン、ピーター、カート、モイラ……。エンジェル、ストーム、サイロックが急襲をかけ迎え撃つ。

 ブライアン・シンガーのアクション演出は若干もっさり気味だが、抜群に見やすく位置関係も把握しやすいし、相変わらずの顔アップの切り取り方のうまさで話の流れを切らないのがいいですね。

 ここでも死んだ目で黙々と地球破壊の作業に没頭するエリック。もはやライバルキャラの面影はなしだ! そんな彼を見ていられないレイブンが説得を試み、さらに彼を父と知るピーターも駆けつける。エリックが彼のことを息子と認識しているかは明示されないし、互いに言わないのだが、二人の危機に何かしら感じるものはあるらしい。こぼれる一粒の涙……。

 クイックシルバーの超スピードも足を止められて封じられ、レイブンの不意打ちも致命傷を与えるにはいたらず。どんどん追い込まれていくメンバー。意識が繋がっているのを利用し、精神世界で反撃を試みるチャールズが、腰の入ってないパンチで殴りまくる! 自分の脳内に引き込めば勝てる!というところで思い出したのはターセム・シンの『ザ・セル』だな。ヴィンセント・ドノフリオの脳内では何もできなかったが、自分の脳内に誘い込んで反撃し、圧勝するジェニファー・ロペス
 が、そんなセオリーがあったにも関わらず、チャールズの脳内なのにお構いなしで巨大化してくるアポカリプス! だめだ、強すぎる!

 前進するアポカリプスがチャールズらに迫る……が、飛来した鉄骨がそれを遮り止め、一つのマークを形作る……決して鉤十字ではない、「X」のマークを! エリック裏切ったああ!

「違う。俺は仲間を裏切っていた」

 暗黒の未来を待たずして訪れた、かつて一つだった二人の共闘。こやつがこんなにブレブレにならなければ、こんなに事態は悪化しなかったはずだが……まあいいか!
 作中で『ジェダイの復讐』が酷評され、「シリーズ三作目なんてダメよ」みたいに言われてそりゃあ『ファイナル・ディシジョン』のことか〜!と思ったのだけど、よく考えるまでもなくこのエリックはダース・ベイダーだわな……「父さん、助けて!」とルークに言われて裏切っちゃうあの……。シンガー、本当は『ジェダイの復讐』大好きなんじゃないの……いや、そりゃあ二作目の方がダークでいい映画だけど、でも俺は『ジェダイの復讐』がやりたかったんだ! という……。同じ映画を引き合いに出して、一方で『ファイナル・ディシジョン』をぶった切りながらもう一方の『アポカリプス』ではオマージュしちゃうという、なんだこのダブスタは! ちょっと正気とは思えない。

 しかし、力を引き出されたはずのエリックの攻撃も、アポカリプスに対しては足止めにしかならない。
精神世界でチャールズを圧倒しつつ、エリックとサイクロップスの同時攻撃をものともしないアポカリプス。モイラさんが「かなわない」と改めて強調するのがいいですね。
 だがしかし、どれだけの能力を持とうとアポカリプスは一人、そしてチャールズには、仲間が、X-MENがいる!
 圧倒的に優勢なラスボスの「おまえはわたしのものだ」に対し、ボコボコにやられながらも「おまえは勝てない」と啖呵を切るチャールズの「信念の人」っぷり(あまりに劣勢なので「だが断る by 岸辺露伴」を思い出したところ)、そして立ち位置ブレブレになりながらも、その信念にいつも惹かれていたエリックが突き立てる「X」。俺たちが最も好きなことの一つは、自分で強いと思ってる奴に対して「NO」と断ってやることだっ!

 そして、かつて(かつて?)暗黒の未来『ファイナル・ディシジョン』において、スコットとチャールズを焼き滅ぼした紅蓮の炎が今また噴き上がる。ただし、今度はチャールズの伝えた希望そのものとなって。すべてを超える「不死鳥」が、真なる覚醒の時を迎える!

 アポカリプスは数々の能力を身につけてはいるが、現代にはまた新たな世代のミュータントが生まれており、チャールズとエリックの能力はかつての彼の想像を超えたものだった。そしてその二人をも超えるさらなる新世代の力の持ち主も、また生まれていた。それこそがジーン・グレイ……!

 ブライアン・シンガーって本当にX-MENが大好きで、あの『ファイナル・ディシジョン』に対してものすごい心残りを抱いてたんだな……! エリック、スコット、ストーム、ジーンと四人がかりで超必殺技を順番に叩き込んでフルボッコにするという、少年漫画の王道的見せ場でもって『ファイナル・ディシジョン』、じゃなかったアポカリプスを粉々に打ち砕き、忘却の彼方へと葬り去った。しかし嫌な後味はなく、フェニックスの炎のイメージも合わさって、あの大駄作と言われた映画さえも浄化されて天へと還って行ったようなそんな清々しさが残ったよ……。

 理屈としてはもう前作ラストで片付いていたと思うんだが、それで安心せず『ファイナル・ディシジョン』をチリになるまで殴り、あの暗黒の未来に俺のX-MENは絶対につながらせないというシンガーの静かな決意……!

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 シリーズの再構成がその見事さも含め、前作をはるかに凌ぐ「俺の俺の俺の俺の」というエゴに満ちていて、ある意味彼こそがアポカリプスのように見える。いや、もちろん本人の中では自分がX-MENなんだろうが……。
 『ファイナル・ディシジョン』が滅多打ちにされてる一方で、『ファースト・ジェネレーション』は「そのまんまやん!」と突っ込んでしまうぐらいにそのまま過去映像として使われていて、「え? 僕の映画ですけど何か?」みたいな図々しさも感じてしまう。まあそれだけ使うということはリスペクトも多分にあって、シンガーの中ではマシュー・ヴォーンもX-MENの一員なんだろうな。

 映画全体としては中盤の場面転換の多さや不要なシーンに加え、80年代の世界情勢があまり反映されていないし、世界崩壊の危機の割にはスケール感が感じられない。せっかくチャールズが世界に「弱いものを守れ」と呼びかけたんだから、各地のミュータントが街を守る展開とかあったらよかったかもね。また前2作と同じく、報道陣や各国の軍が周辺から見守る、という体裁が取れたら統一感があったように思う。
 ただまあ、前作の時点で暗黒の未来は回避されているので、世界はすでに少し「まし」になっているというのが前提なのな。ここでまた未来への絶望を匂わせても繰り返しになるし、あくまで希望を守るために戦うのだ、というのが今作の違いでもあり、今作限りのテーマとしては弱い部分でもある。
 モイラの記憶を最後に戻したのがその象徴で、あのキューバの浜辺では描けなかったミュータントの男と人間の女の未来が、この少しだけましになった世界では信じられるようになったのだ。

 学園は再建され、エリックはまた静かに去る。チャールズと彼が主役であった時代は終わり、新たな世代が動き始める。ラストのセンチネル登場シーンには、未来があの暗黒に再びつながったとしても、今度こそ本当に揃った俺のX-MENは決して負けはしない!というものすごい自信が溢れていて白目を剥きました。俺が、俺たちが、X-MENだ!
 この豪快な大団円感は、そのいくばくかの独りよがりっぷりも含め、オレの中で『ダークナイト・ライジング』、そして『ジェダイの帰還』に並んだな……。10年前、『ファイナル・ディシジョン』に対して抱いた不満と苛立ちが、まさかこんな形で昇華されることになるとは驚きだわ……。

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 映画としては前二作の完成度に及ばないが、「悲運のミュータント」ではなく「スーパーヒーロー」としてのX-MENへの回帰を意図し、アメコミらしく、というよりもむしろドラゴンボールZ劇場版のような、なんだかおかしいテンションに仕上げた快作でありました。まだ『ウルヴァリン3』もあるけど、第一作から始まった6部作がついに完結を迎えたのは非常に感慨深いな。お疲れさまシンガー、ありがとうマシュー・ヴォーン、そしてさようならブレット・ラトナー……。

X-MEN (字幕版)

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X-MEN 2 (字幕版)

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