”全てを破壊せよ”『シン・ゴジラ』


『シン・ゴジラ』予告2

 ゴジラ最新作!

 突如、東京湾に出現した巨大な生物。専門家の予想と裏腹に上陸した「それ」は、這いずりながら都心へと進撃する。甚大な被害を受けた東京だが、ついに自衛隊が防衛出動し、立ち上がり二足歩行となった「それ」と対峙。だが、国民を巻き添えとする攻撃をためらう彼らの前で「それ」は踵を返し、海へと消えた。数日後、さらに巨大に成長した生物が、鎌倉から再び上陸する。大戸島の伝説に伝わる神の獣、その名は……。

 『FW』以来の国産ゴジラが、ひさびさに作られました。監督は庵野秀明ということで、『シンエヴァ』はいったいどうなってるの、と誰もが思ったと思いますが、いやはや、「これでしばらくはエヴァ作らなくていいんだ!」という解放感がひしひしと感じられる映画になっていましたね。

 東宝、制作会社カラー、樋口真嗣他実写版『進撃の巨人』スタッフが結集、ということで、いかなる現場だったのか、という裏事情も気になりますが、映画を見てみると会議、会議、会議、会議会議会議。ある時はすり合わせ、ある時はトップの判断、ある時は超法規的措置など、多種多様な立場と思惑が絡んで進行していく巨大生物対策の現場は、まさに今作の制作現場そのものだったんじゃないかな、という気がしましたね。

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 誰もが寝ておらず家にも帰らず、カップラーメンと眠気覚しドリンクをすすって作業。出口は見えないがトップは口下手ながら必死に鼓舞。この国のアニメ、特撮業界はまだまだやれる……! 監督! シャツが臭いです!
 スタッフには家族を失ったものもいるし、また現場で散っていく末端の作業者たちを長谷川博己が追悼するシーンは、ガイナックス時代、カラー時代を問わず、夢を捨てて業界を去ったアニメーターたちへの想いがこもっているかのようだ。
 これが官僚の現場です、と言われても実物を知らんのだが、いかにもアニメ制作の現場感が強く、庵野秀明の私的作品感が漂う。

 「シン」と銘打ってはいますが、お話としては当然「序」だから、ストーリーの流れは出現からの迎撃とシンプルそのもの。3.11以降の日本の災害対策と閉塞感に目配せしつつ、いざ巨大生物出現……!

 今回のゴジラは形態を変化させるので、最初はまだ小さく、しかも這って登場する。水中に顔を突っ込んでるので見えるのは背びれと尻尾。いや、それだけ見れば確かに……という感じなのだが、陸に上がってみると……おお……超気持ち悪い……! これが今回のミニラか。最初はそもそも地上では活動できない、自重で潰れるから、みたいな説明がされていたのだが、市川実日子演ずるニコリともしない課長補佐がバッサリ否定。すでに浅瀬で足が着いてる……。この人の役は中年になった綾波レイという感じで、うーん、あの子も歳食ったらこんな感じになるんだな。ちゃんとした大人になれるか、おじさん心配しとったけど、まあまあいい歳の取り方してるじゃないか。

 3.11メタファーで川の水を押しやり船と瓦礫をどっさり積み上げ、上陸したミニラ。身をよじり、首をもたげてついに立ち上がる……! おお……! 正直、ここらのCGは時間と予算が少々苦しかったか細部が雑でもったいないのだが、描こうとしてるものの質感やスケールだけはしっかり伝わり、興奮させられましたね。目の前でやばいことが進行している感覚。
 ようやく出撃した4機のヘリが、なおも進行するミニラの前にホバリングし、狙いを定める。この「真昼の決闘」感、だが逃げ遅れた老夫婦を巻き込むことを避け、大杉漣総理大臣は攻撃の中止を命令……! 後々の事を考えると、ここで攻撃していればあるいは倒せていたのかも?と思わせるんだが、ここの総理の判断にはむしろ好感しか抱けないところでもあるな。

 映画が始まってここまでノンストップ。観客が考えるより先に対応を並べる、1手先を行く編集が鮮やかで、完全に『エヴァ』のテンポ。普通にないことが起きている感覚ですよ。1995年に、僕が何気なくエヴァを観た時の衝撃。それより以前、大阪芸大島本和彦庵野秀明の提出した短編アニメを初めて観た時のショックを、庵野作品未見の人ならば味わえるんじゃないかな。

 ここでちょいと一息ついて、しばらく災害対応と事後分析の静かな展開に。この後ももう一回あるのだが、これが完全に使徒を一体倒してできた間の時間だよね。まあ実際はゴジラ一体しかでないので、倒したわけじゃなく様々な事情でストップするわけですが。
 時々、屋上に上がる会話シーンなどあるが、これも庵野さんの好きな地平線見えそうな絵の代用という感じかな。こういう絵作りは、後半ちょっとワンパターン化して息切れしたように思ったが、これは実写経験の不足ゆえか。

 お楽しみのゴジラ登場後は、その巨大感の表現や自衛隊との攻防が続くわけだが、絵面が圧倒的にフレッシュ。迎撃に回る自衛隊は陸上での全火力を集中し、すべてを頭部と脚部に命中させる……。いや〜、昔の特撮ではでかいはずの的なのに、バンバン外れる弾があったりしたわけだが、吸い込まれるように当たる当たる。……が、まったく通用せず!

 『エヴァ破』でゼルエルたんが侵攻した時にメガネが「13層もある特殊装甲を、たった一撃で……!?」という、すごいことが起こってますよと強調する説明台詞を発していたが、今回は「一万六千発の機関砲でも傷一つつけられんのか!」というご機嫌な台詞があって、いいぞ庵野!と声をかけたくなりましたね。

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 米軍の攻撃から東京壊滅のカタストロフまで怒涛の展開が続くが、いわゆる「本編パート」と「特撮パート」が分離せず、非常にシームレスに進む編集のマジック。樋口真嗣庵野のイメージを理解しているからこそのシンクロ率である、という気がするし、逆にまあしっかり手綱を握って、ひぐっちゃんに余計なことをさせなかったからでもあるんだろう。
 さらに、総理以下主要閣僚が中盤で消し飛ぶのは、樋口版『日本沈没』へのオマージュもこもっているのではないか。あれ自体はいいアイディアだったよな。映画自体はアレだったが……。

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 石原さとみのキャラは失笑ものだが、まあ今までだって宮村優子の偽ドイツ語をクリアしてきたんだから、別にどうということはない。それより片桐はいりのおにぎりを出す時の主張の強い顔が気になったな。あれはまあ、下手に幸薄げな人にやらすと逆に演出が過ぎるかもしれないが。

 色々と不満もあるのだけれど、だいたい伊福部ミュージックで帳消しになる圧倒的存在感。宇宙大戦争マーチ、最高だね。最後のヤシオリ作戦も含め、今回はやっぱり『序』だったので、次はクライマックスで「IN MY SPIRIT」かけてキングギドラが低空を侵入してくる『ゴジラ・破』を作るしかないんじゃないかな。ゴジラを作ってる間は『シン・エヴァ』は作らなくていいし、今回のヒットでむしろそっちを望む人も多くなったのでは。でもメカゴジラの出てくる『ゴジラ・Q』を作るとまた鬱になっちゃうので、次で終わりにしておくのが良さそうですね!

シン・ゴジラ音楽集

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ジ・アート・オブ・シン・ゴジラ

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