”奴だけは俺が落とす”『機動戦士ガンダム サンダーボルト DECEMBER SKY』


「機動戦士ガンダム サンダーボルト DECEMBER SKY」予告(long ver.)_

 青年誌で連載されたコミックの映像化。最初はネット配信されていたが、4話分プラス未公開カットを加えての完全版としてソフトが出て、その先行上映となりました。

 一年戦争末期……。サイド4、ムーア宙域は、破壊されたコロニーやモビルスーツの残骸が帯電したことで、雷鳴渦巻くことから「サンダーボルト宙域」と呼ばれていた。宙域を占拠するジオンの義肢兵リビング・デッド師団の狙撃部隊と、連邦のムーア出身者で構成された同胞団が激突を繰り返す中、ザクのエーススナイパー・ダリルと、ガンダムを駆るイオは宿命に導かれた維持する……。

 一応、宇宙世紀の時系列的に一年戦争終わり頃が時代と舞台として設定されているが、まあ正直ファーストガンダムとはあまり関係ありません。作品のタッチもそうだが、メカ設定も進化しすぎで、完全にパラレルワールド。こんなにフルアーマーなガンダムがビュンビュン活躍してたら、アムロとかシャアの存在が霞むよね。
 宇宙用のマニューバーの挙動がWのリーオーで、艦内の武装の換装システムはSEEDやんか、と思ったところもまあご愛嬌。少年兵の下りは、逆にオルフェンズ辺りに影響を与えているかも、という気がするね。
 容赦なくグロく、殺伐とした展開を、菊地成孔のジャズが彩る。ジャズはBGMではなく、機内で主人公が実際に流しているという設定。通信がつながるほどのレンジ内に入った時、そのジャズが聴こえた時がおまえの死ぬ時……。

 一つ一つの要素は目新しくないのだけれど、よく考えたらガンダムにねじ込んだことはなかったな、というハードコア描写が連発され、シャブ中になってる艦長に爆笑してしまった。ガンダムでクスリと言えば、強化人間やらなんやらを作るためのものがポピュラーだが、これは純然たる慰めを求めるシャブ! リアルな戦争「っぽい」要素をガンガン詰め込み、登場人物にはヒーロー然とした人物も、グズグズ言う少年もいない。

 ジオンと連邦、二人の男の対決は三角関係のような共通の事情が絡むこともなく、それぞれの思いのままに激突する。この二人同士は互いのことが絶対に理解しあえず、共感することもないのだが、観ているこちらだけはわかっているという状況の切なさ……。
 これは「ニュータイプ」も登場しないからで、サイコザクというMSも登場するのだけれど、精神感応じゃなく手足を直接つないでしまうという荒技、こりゃサイコミュじゃないよね!

 既存作でやらなかったことを詰め込み、逆にすでにやったことは注意深く避けていて、各要素をファッションに止めず物語の主要要素まで引き上げた手際が見事で、映像作品としての完成度も高い。
 またMSの描き込みも良くて、ガンダムが正統派RX-78顔で非常に男前。『ジ・オリジン』がもたもたとガンダムを出さずに来てるので、それより先に現在のハイスペック作画でこれを描いちゃった意義は結構大きいんではなかろうか。

 やばいくらいオタクが作ってるけど、同人誌の域は超えていて、でも正史には組み込みづらい、なかなか扱いに困る感じの作品。しかしまあ、こうして映像化されて劇場で流れている時点で、結果は出ているということですよ……。漫画はまだ続いているようなので、続編も期待しています。