”ブレーカーを落とせ”『ジオストーム』


映画『ジオストーム』日本語吹替版予告【HD】2018年1月19日(金)公開

 ディーン・デヴリン監督・脚本作。

 世界各国が団結して作り上げた気象ステーションにより、世界で頻発した異常気象は根絶された。だが、運用開始から二年、今度はステーションの異常によって巨大な雹や竜巻が発生する。ステーションの生みの親でありながら運用から外されていたジェイクは、弟のマックスの頼みで宇宙へと上がるのだが……。

 エメリッヒみたいな企画だなあ、と思ったら、やつとコンビ組んでるデヴリンの監督作ということで、見事に同じ匂いがしますよ。
 前作『インデペンデンス・デイ リサージェンス』は、一作目を最新映画のルックにアップデートしようとして、どうも勘所を外しまくってしまった映画、という感じであったが、さて本作は……?

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 もうアメリカ万歳のナショナリズムは古い! これからは世界で手を取り合いテクノロジーを共有し合うのだ! というのは今作とは全然違う高尚なSF映画『メッセージ』でも語られたテーゼで、それこそ『リサージェンス』でも言ってたことなのだな。

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 今作の天候操作は、まあ完全にオーバーテクノロジーだが、宇宙人由来ではありません。開発者はジェラルド・バトラーで、これを作ったおかげで「災害を倒した男」みたいなイメージで世界中で知られている。が、災害を止めるために独断でシステムを操作したことでクビになり、代わりに弟のジム・スタージェスが管理責任者に収まってしまう。
 しかし数年後、謎の誤動作によってアフガニスタンが凍りつき、香港が加熱されてガス爆発……。原因究明のために弟が兄を再び呼び戻す。

 ジム・スタージェスの上に国務長官がいるのだが、これのキャストがエド・ハリスなので、あっ、黒幕だっ!と思ってしまう超お約束感が最高ですね。しかしこの後に実は大統領の方が怪しい!ということになって、こちらはアンディ・ガルシアなので、どっちが本当の悪役なのか、ということになると、ちょっと序盤では判断がつかないのが、またいいですね。

 さて、衛星の不具合を調べるぜ、ということで一人でシャトルに乗って宇宙へ向かうジェラルド・バトラー。いや、ガンダムなんかじゃ有力者のコロニー間の行き来とかでよく見る絵面だが、ありゃあ平板なアニメだからなんとなく流せるけど、実写で見たら無駄遣い感半端ねえな……。
 着いた先のステーションでは各国の叡智が揃って勤務していて、100人ぐらいいるのかな……? 捜査に協力してくれるスタッフが呼び出され、チーフ、ロボット担当、気象担当、コンピュータ担当……そのコンピュータの奴が怪しいに決まってるよ!
 ステーション内を周り、チーフと相談しつつ捜査するジェラルド・バトラーだが、これをやるのが彼である理由がいまいちわからない。今いる人間でも十分捜査できそうなんだが……。もちろん、彼が事情に通じているから、話を円滑に進められるという進行上の利点はあるわけだが。

 予告編でも紹介された災害のビジュアルもわかりやすくて、一発で危険だとわかるんだが、お話の進行もすべてわかりやすいアクションと誰にでもわかる単語で構成され、一瞬の淀みもなく進行して行く。さすがはディーン・デヴリン、ある意味……あくまである意味……完璧な脚本だと言っても過言ではない。
 ダニエル・ウーが事件の真相に迫るが、彼のオフィスに銃を持った黒服の男たちが潜入してくるあたりの単純さ。結局車にはねられて殺されたダニウーの末期の言葉「ぜ、ゼウス……!」を部下のハッカーに「機密ファイルをゼウスで検索しろ!」と言っちゃうスタージェス弟。ほんとにそれだけで出てきてしまうファイル……突っ込んでる間にさっさと話が進んでしまう圧倒的なスピード感。

 ステーション外に出るとき以外は、普通に作業服で歩き回れるステーション内の描写もハイテクとレトロの同居っぷりが笑えて、各自スマホみたいな端末を持っててどこからでもアクセスできるようになっている。結局、アクセス権がなくなって繋がらなくなるあたりも超わかりやすい。だから、コンピュータ担当が怪しいに決まってるでしょ!
 誤作動起こしまくる衛星に、ついにジェラルド・バトラーが「ウイルスに感染している!」と真相にたどり着くが、この「ウイルス」という言葉の便利さもすごいな……。それこそ『インデペンデンス・デイ』と全く使い方が変わってないよ!
 そして正体を現したコンピュータ野郎をパンチで倒し、「前から怪しいと思っていた」というバトラー兄……。

 地上でもエド・ハリスが正体を現し、次なる災害が大統領が演説するスタジアムを襲う! 雷がバンバン落ちるスタジアムから、スタージェス弟は規則を破ってこっそり付き合っているシークレットサービスの女ことアビー・コーニッシュを無理やり巻き込み、大統領をタクシーで誘拐して逃げ出すという超展開。
 気象パニックもののはずが、なぜかカーチェイスと銃撃戦になる。落ちてくる雷から車で逃げるのは、冷静に考えたら絶対に無理だと思うのだが、誰も冷静にはならない。シークレットサービスと言えば、『エンド・オブ……』シリーズで他ならぬジェラルド・バトラーが、大統領を襲う敵を無敵の強さで惨殺するのが定番だが、当のバトラー兄は宇宙なので、今回はアビー・コーニッシュがきっちりとその役を担い、運転しながらの左手だけの水平射撃で追跡者を蜂の巣にする。シークレット・サービスはこんな戦闘力過剰じゃないだろ、と思うのだが、そこはまあ気にしないのである。

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 地上ではスタージェス弟が兄譲りのパンチでエド・ハリスを成敗する。黒幕が「私は外敵を始末したんだ! 何が世界平和だ! あの強いアメリカを取り戻すんだ!」とうそぶくあたり、『リサージェンス』でやり損ねた、ID4のセルフアンチテーゼをここでやったのだろうか?

 災害はペースアップし、このままじゃ連鎖して巨大嵐「ジオストーム」が起きる!と言われるのだが、それも正確な開始時間が巨大モニターに馬鹿でかい数字でカウントダウンされるあたりが最高ですね。

 映画の冒頭は、地上にいるジェラルド・バトラー娘のモノローグで始まるのだが、この終盤に来てジェラルド・バトラーが脱出用のシャトルに乗らず、「誰かが残ってシステムを手動で再起動しなければならない」とチーフに告げる。なるほどあの娘のモノローグは、彼が死んでしまうという展開への「ミスリード」だったのだな……。
 ここから地上で弟がエド・ハリスをやっつけて大統領を救うまで、ただじっと待ってたりするあたりが間抜けだが、やっとこさ大統領の持ってる再起動コードが送信される。が、ステーションは自爆プログラムが走っており(そんなもん組み込むなよ……)、コードを入力しようとしたら司令室が吹っ飛ぶタイミングの悪さ。しようがないから、中枢まで自力で行って電源も手動で入れ直すことに。ここで「再起動しないとウイルスは消えない」と言ってるが、再起動しただけで消えるというのも謎だな……。
 通路も塞がったので、一回宇宙空間に出ないと行けないというのもすごいお約束感があるのだが、行った先で鍵が開かず(ここ、単にドアの暗証番号だったのだが、大統領のコードと混同してしまってちょっとわかりにくかった)、万事休す。……かと思われたが、先に脱出したはずのチーフが、ドヤ顔の準備万端で背後から姿を現わすのにもびっくりですね。
 やっとこさ中にたどり着いて、さあ再起動だ!というシーン、ヒゲの濃いいかつい顔をしたジェラルド・バトラーが大真面目にでっかいブレーカーをガッチャンと落とす絵面のむやみやたらな説得力よ……。

 カウントダウンが残り数秒で止まり大歓声の地上、しかしバトラー兄の運命は……。いや、もちろん助かるし、その展開も相当強引なんだけど、まあベッソンの『ロックアウト』よりは相当マシだったから、良しとしようじゃないか。そして、再び蘇る兄弟の絆!

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 90年代脳の脚本職人の手練れっぷりの粋を凝らした、わかりやすさ満点の新しくも懐かしいバカ大作で、なかなか堪能させられた。個人的には好きだが、まあ今は2018年なので、全米大コケもやむなしの珍作になってしまったのは仕方がない。これに懲りず、またさらなる全部のせバカ映画を作り続けて欲しい。

”今日もマーマレードを”『パディントン2』


映画『パディントン2』予告篇

 クマ映画!

 ブラウン一家と暮らすパディントンは、故郷のルーシー叔母さんの100歳の誕生日に、ロンドンの飛び出す絵本をプレゼントしようとする。資金のためにアルバイトを始め、ようやく目標額にたどり着くが、取り置きしてもらっていた本が何者かに盗み出され、パディントンは窃盗の現行犯で逮捕されることに……?

 前作は劇場で観なかったので、録画で予習してから行ってきました。今作は冒頭でパディントンが伯父伯母に拾われるシーンから始まります。これは意外にも一作目で語られてなかったネタなんだな。

 ブラウン一家とともにロンドンで暮らすパディントン。街の人たちにもすっかり受け入れられ(約1名除く)ていたが、故郷の伯母さんにプレゼントを贈るために仕事をすることに。最初は理容室に勤めて、ああシャンプー係かな、と思いきや、店主不在のタイミングで来た客のカットをすることに……。このざっくり行った感が素晴らしすぎるし、その後の店をめちゃくちゃにしてクビになるあたりも、この大迷惑ぶり、これこそパディントンという気がしますね。
 まあ彼もかなり都会慣れして、割合落ち着いているので、大迷惑はここぐらいなので少々寂しい感もあるな……。この後は窓拭きの仕事を始めて、そっちは上手くやってしまうのである。熊は高いとこ登るの得意だしな。

 今回は美術も素晴らしくて、仕掛け絵本によるロンドン描写など息を飲まされる。ロンドンって、空が灰色なイメージで、作中でも多くはそうなのだが、それをこう色彩感覚豊かに作ってしまうのが素晴らしい。これがきっと、パディントンの見ている世界でもあるのだな。

 今回はパディントンがその「世界」や「ロンドン」に裏切られるという話でもあり、それでも彼は礼儀を守り人を信じ続けるのだ……という健気さが胸に染みるのである。
 まあヒュー・グラントが非常に嫌な奴で、「落ちぶれた元スター」役は『ラブソングができるまで』や『Re:life』でも定番ですね。唯一の拠り所であるはずの芸事さえも悪用してしまっている。
 刑務所の囚人たちも同じで、彼らもまたこの世界に絶望し、機会があれば逃げるだけだ、と思っている人々。ある意味、彼らは功利的な普通の人間であり、パディントンにも、「世間は汚い、諦めれば楽になる」と囁く。だが、それでも、それでもと言い続けるんだパディントンよ……!

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 それぞれに悩みや夢を抱えるブラウン一家も含め、囚人たちもパディントンも、誰もが住むべき場所、家を持てるのだ。人を信じ続ければ……。
 後半はそこまでしなくても、と思うぐらいの伏線回収をバシバシと決めてくれるので、映画的にも気持ちいい。ラストも泣けるな!

 ところで見終わって妻に、「あなたは甥っ子に、ロンドンに呼んでもらえる伯父さんになれるの?」と言われたが、伯父さんは帽子を残して去るのがさだめだよ……。ロンドンでも南京でもいいが、それは君に任せるぜ……。

パディントン ベア プラッシュ レッド M

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パディントン、映画に出る

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”あの海を越えて”『人生はシネマティック!』(ネタバレ)


ジェマ・アータートン、サム・クラフリン、ビル・ナイ出演!映画『人生はシネマティック!』予告編

 『ダンケルク』の後日譚!

 大戦中のロンドン。情報省映画局特別顧問の脚本家バックリーは、ふと見た新聞のコピーに目を留め、書いたライターであるカトリンをスカウトする。ダイナモ作戦の最中、兵士を救助した双子の姉妹の物語を映画化するために脚本家を探していたのだ。紆余曲折ありつつ映画作りはスタートするが……。

 ノーランの『ダンケルク』で描かれた脱出作戦直後のロンドンを舞台に、漁船を操り兵士たちを救った双子の姉妹を主人公にした映画を撮ろう!という企画がぶち上げられる。製作会社の脚本家サム・クラフリンは、コピーライターのジェマ・アータートンをスカウトし、共同で脚本を書きはじめる。
 戦時中で、ジェマ・アータートン演ずるコピーライターも、男のライターが徴兵でいないから代わりに書いてたという設定。まったくの偶然で起用されるが、落ち目の大物俳優ビル・ナイといきなり衝突したり、トラブル続き。双子の姉妹の船はエンストしてダンケルクにはたどり着いてない、という衝撃の事実も発覚。こんな状態でまともな脚本は書けるのか……?

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 もちろん、監督ほか、撮影チームに段々と一体感が生まれてきて、困難を乗り越えていくのが見どころであります。最初は過去の栄光にしがみついてたビル・ナイもエージェントの死をきっかけにこの映画を作ることの意義に目覚め、演技も本領を発揮。ジェマ・アータートンの脚本もますます冴え渡ってきて、チーフのサム・クラフリンも驚くほどに。

 ジェマ・アータートンは、戦争で負傷した元絵描きの夫を食わせるために物書きをしている、という設定。実は結婚していなくて、芸術家だった彼に憧れて追っかけ&押しかけ妻になり、指輪も自分で買った……という設定が明らかに。グルーピーというやつですな。この人、若干軽薄そうに見えるところがあって、『ボヴァリー夫人とパン屋』でもそうだったが、こういう色ボケしたような設定が似合う。が、文章を書き始め、映画づくりに関わるようになって、男次第で自意識に欠けるところがあったのが、物書きとしてのアイデンティティに目覚めるようになる。これもまた『ビザンチウム』あたりの主演作にも通じるところで、この人の定番キャラですね。表情も序盤は若干ぼんやりして見えるのだが、中盤以降、意志を強く持ち出したように変化していくあたり、演技も上手いですよ。
 しかし、まあ時代が時代なので地味な格好をしているわけだが、それでも隠しようもない乳のでかさよ……。こんな胸のでかい脚本家がいていいのか!と理不尽な思いに囚われますよ。

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 夫が復帰のための個展を開くことになり、撮影現場を抜け出して最終日に駆けつけるも、夫の上に、かつての自分と同じような芸術家に憧れるグルーピー女がまたがっているのを目撃。駅で指輪を捨て、再び映画づくりの現場に舞い戻る。

 で、お互い気のあるのはわかっていたサム・クラフリンといい雰囲気に。この男、若く見えすぎなので、『あと1センチの恋』のリリー・コリンズや『世界一キライなあなたに』のエミリア・クラークなど、ロリ顔の相手役ばかりだったのだが、今作ではメガネと髭で童顔を上げ底。まあそうは言っても、ジェマ・アータートンの貫禄には全然敵わんと思ったが、まさかの同い年だった……。

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 まあ戦時中ということで、そりゃあ何があるのかわからんのだが、このサム・クラフリンが爆撃でセットの下敷きになって死んでしまう展開はさすがに泣かせをやりすぎだろ、とは思ってしまう。このシーン自体はまるで映画の中の出来事のように撮っていて、そこは工夫したところなのだろうが、よくある成長のための死という感じですな。

 愛は失えど、彼と築いた映画は完成させたい、という思いで再び脚本に取り組み続ける姿と、その後の完成した映画はどうしても見られない姿が悲愴だ! しかしここで美味しいところを持って行くのがビル・ナイと……!

 泣かせに若干のあざとさも感じつつ、総じて面白かったですね。ビル・ナイファンは必見だし、『ダンケルク』ファンにも見てほしいですね。ただ、作中の救出映画はルックもしょぼいんだけど、映画というのはそういうことではないんだ、というノーランへのアンチテーゼに結果的なってるような気もするな……。

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”またも蜘蛛が”『ルイの9番目の人生』(ネタバレ)


映画『ルイの9番目の人生』予告編

 アレクサンドル・アジャ最新作!

 0歳で全身骨折したのを皮切りに、感電や食中毒などで毎年生死の境をさまよってきたルイ少年。辛くも生き残ってきた彼だが、9歳の誕生日、両親とピクニック中に崖から転落してついに昏睡状態に。警察が行方不明の父親を追う中、担当医となったパスカルはルイの治療に当たると共に、母親のナタリーを支えるのだが……。

 『ホーンズ』から、ひさしぶりにアジャがやってきましたよ。今回はミステリ小説を原作に。

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 崖から転落した少年、その時何が起こったか……。というのが「事件」なのだが、子供は落ちて、父親は行方不明、母親は父親が突き落としたと証言という構図になる。これ、犯人当てをしようとするなら、当然両親のどっちかしか容疑者がいないのだな。
 昏睡状態になったルイ少年の治療に当たることになった専門医は、涙にくれる母親に同情するようになるのだが……いやいや、怪しいでしょ、この女!

 サラ・ガドンと言えば『複製された男』の妊婦役だが、すごい美人だけど何か不穏さが見え隠れして、妊娠してても子供がいても母性溢れるキャラには見えない、という演出をされてるのな。が、自分が妻とうまく行ってないから、ついついグラグラきてしまうお医者様。

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 警察の女刑事が「あの女はやめといたほうが……」と、割とあからさまに忠告するのだが、何を言うんだ、可哀想な女なのに!といまいち聞く耳を持たない。
 警察にしてみれば、正直言って、親子関係がどうで子供が何をどう考えてて、みたいなことにはまったく興味がないのだな。第一容疑者は行方不明だから父親だけど、当然、この女も怪しいぜ!としか思っていない。で、後に父親の死体が上がったら、

「はい、決まり〜! この女が犯人で決まり〜! あとは裏取るか自白させるだけ〜!」

 で、医者の方が「そんなはずはない! 俺が真相を突き止める!」と思うかと言うと、実はそんなモチベーションが全くない。そもそも、彼は子供の治療に来ているが、まあ大体のケースでは昏睡から覚めないものだし、母親に対してハマる(ハメる……)に連れて、逆に真実を知りたくない気持ちが膨らんでいく。だいたいめちゃ不倫だし、子供いる病院でファックしてて後ろめたい気持ちもありあり。バスタオル一丁で病院内を歩くサラ・ガドンに仰天。うちの近所の病院だったら大騒ぎだよ! そして中丸見えの仮眠室でセックスする二人……アホかっ!

 本当の意味で、昏睡状態の少年に共感して代わりに動く人物がいないので、物語は主人公不在の様相を呈する。昏睡中の少年のモノローグもちょいちょい出てくるが、これは転落事件よりも以前の八回死にかけた話が中心。で、これも怪しいのは?というと……。

 アーロン・ポール演ずる父親も、酒好きで甲斐性なしっぽく語られるのだが、結婚の経緯が明らかになり、彼の母親がやってきてサラ・ガドンのことを「澄まし顔で嘘つきのビッチ」呼ばわり。警察もだいたい同じようなことを考えている。明かされる真相に対し、その評価は必ずしも正確ではないのだが、単に犯人当てだけするならズバリであるという……。

 ほんの少し女性不信的な物の見方をするだけで、医者がサラ・ガドンに入れ込むあたりに全く共感できなくなるのだな。自分のこと可愛いと思ってる女には要注意! メンヘラ女には関わらないのが鉄則! さもなければ身を滅ぼしますよ……というのは、コウモリの寓話で語られるまでもなく、割合ベタな教訓だと思うんだが、夫と医者のたどるルートがそっくりそのままなので、あ〜あ、としか思わない。
 虐待を受けつつもそれでも母を愛したい少年の心理を主眼にした方が、まだ悲劇的だったと思うんだが……。
 母親が病気で、父親はいい人間、という片親だけ悪者にするオチも、作劇としては出来が良くないし、どうにもミソジニックでありますね。ミュンヒハウゼン症候群だったというのが真相だが、ホワイダニットとしてもパンチに欠けるし、ネタを膨らませ切れなかった印象。

 アジャ演出も死体と怪物は頑張っていたが、ちょっとこのネタではどうにもならなかったのではないか、と思う。

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”戦闘機械獣”『キングスマン ゴールデンサークル』(ネタバレ)


映画「キングスマン:ゴールデン・サークル」予告B

 シリーズ第二作!

 エグジーとキングスマンに迫る新たな敵……。侵入を受けたキングスマン本部は、謎の組織ゴールデンサークルに爆撃され、エグジーとマーリン以外のメンバーを失ってしまう。同盟を結ぶスパイ組織ステイツマンを頼り、二人はアメリカに向かうのだが、そこでは思いがけない再会が待っていた……。

 一作目は面白くなりそうでならなくてもどかしい映画だったな、という印象。この続編もまあ同じ感じで、キャラクター性とかストーリー的な盛り上げにあまり興味がないのだろうな……。

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 ガラハッドを襲名して活動に励むエグジーを、元キングスマン候補生が襲い、そいつの手引きによって、新生キングスマンはいきなり壊滅させられることに。新アーサーや、前作から引き続き出ていたランスロットもあっさり殺され、犬や友達まで失ったエグジーは、マーリンと共に「ステイツマン」と呼ばれるアメリカのスパイ組織を頼ることに。
 まあ一応、泣いたり神妙な顔をしたりするエグジーだが、仲間が死んだからと言って映画自体のトーンは一ミリも変わらないから、ああ脇役を殺して話を転がしたのね、という気がどうしてもしてしまう。すぐにステイツマンの面々が登場し、また新しい仲間に囲まれることになるので喪失感や孤立感は何もないし、コリン・ファース復活で吹っ飛んでしまう。

 今回はこのステイツマンの面々が、ジェフ・ブリッジスチャニング・テイタムハル・ベリーなど。悪役のジュリアン・ムーアと合わせて、超豪華キャストだ! いったいどうなるんだ、と思いきや、実はチャニング・テイタムは中盤で離脱、ジェフ・ブリッジスは座ってるだけなど、実質的に単なるゲスト出演だったのだ……。ジュリアン・ムーアも同じセットから一歩も出ないし……。代わりに『グレートウォール』のマット・デイモンの相方が活躍するのだが、まさかラスボスまで彼とは思わなかった。人間をハンバーガーにして食っていたジュリアン・ムーアでなく、この彼がミンチにされるんだが、これも妙にお約束を外すシリーズらしいな……。ここはジュリアン・ムーアをミンチにしないとだめだろう。

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 終盤には、念願叶って現場に出た途端にマーリンが死んでしまうという展開があるのだが、そこまで人の死があまりに軽いので、全然緊張感がないのだよな。一応、爆死した体になっていたが、続編で両脚義足で復活するんじゃないか。
 さらにその後、ステイツマンで後方支援担当だったハル・ベリーが、ついに現場進出します!という展開になって、それがまるでハッピーなことのように語られるんだが、マーリンの末路を考えたら不吉さしかないのだが……。

 アクションシーンや絵作りはさすがのセンスだし、長い割にそれほどテンポも悪くない。コリン・ファースも定番芸をやろうとしてずっこけるギャグも込みでさすがだな、という役者ぶり。
 しかしセンスとキャラに依存しすぎて、相変わらずお話がほったらかしで、今回はエグジーの成長ものでさえないから、余計に骨のない印象になってしまった。まあ今回は友達の仇を討ってヒロインを救う、ぐらいの話で、彼らはみんなヤク中だけど悪いやつじゃないので、みたいなゆるい話。だいたい職業がスパイで法の番人でもなんでもないんだから、ヤク中は犯罪者か、生かすべきか殺すべきかなんてことがジレンマにも何にもなってなくて、なんでこんな設定を持ち込んだのかな。

 二作目も相変わらずだった、という感じだが『パワーレンジャー』に続きゾイドが出たので、15点ぐらい加点はあるかな……。たぶん、三作目は見ない。
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”地獄まで追っていく”『ブリムストーン』


『ブリムストーン』予告編

 西部劇!

 言葉の話せない助産師リズは、夫と二人の子とともに暮らしていた。だが、彼女の過去を知る牧師が着任し、その平和な生活を打ち砕いていく。夫を殺されたリズは街を逃れるのだが……。

 イギリス発の西部劇。夫、息子、娘と四人で暮らすダコタ・ファニングの街に、新しい牧師がやってくるが、その顔を見て蒼ざめるダコタ。二人の過去には何が?という所から幕開け。
ナンバリングがされて1章から4章まであるのだが、時系列順に並べると、

3→2→1→4

 となっていて、段々と遡っていく構成になっている。ガイ・ピアース牧師との関係性が肝なのはわかるが、しかし今回のガイ・ピアースは、ガイ・ピアース史上最悪で、まさに害・ピアースでしたね。一章ごとに変態が上乗せされ、SM、ロリコン、近親相姦と変態が三乗になっていく。
 腹に触っただけで妊婦が産気づいたり、後々の不死身っぷり、神出鬼没さも合わせて、ちょっとばかり超自然的な怪物と化している印象さえあり。ひっくり返って語られる第1章では妻であるカリス・ファン・ハウテン(この人、実際にもガイ・ピアースのパートナーです)に、「妻の肉体は夫のものだ」と宣言して拒まれ、代わりに暴力を振るうというクズ夫ぶりを発揮。拒まれると、今度はまだ少女である娘を狙い始める……。ここで娘をかばってセックスを受け入れようとする妻だが、夫の標的はすっかり娘になっていたのであった……。演技とは言え、実際の二人の関係にヒビが入っちゃわないか心配になるストーリーだ。
 この時点では、クズはクズだが、ある意味平凡な生き物だったのが、妻に自殺され娘を犯し、逃げた彼女を追い始めた時点から狂気度が増してどんどん怪物化していく。
 逃げた娘は成長してダコタ・ファニングになり、娼婦になって身を隠していたが、そこに貸し切りパーティをするためにガイ・ピアースがやってきてしまうという悲劇を経て、物語は冒頭へとつながる……。

 ガイ・ピアースのキャラはこの時代の男性主義、父権、キリスト教の歪みの象徴として設定されていて、映画自体『ウィッチ』と似たテーマを孕んでいる。娘として妻として母として虐げられる役回りをダコタ・ファニングが引き受け、対立し逃亡していくという構図だ。ただ、マジに女性の尊厳などについて考えている映画なのかと言うとちょい疑問で、こういう題材でもってサディスティック描写をやりたいだけなのかも、と言う気はする。

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 羊殺しや、腸を首に巻きつけて殺される旦那ちゃん描写など、なかなか楽しんでいる感じでいいのだが、一番最高だったのは、子役時代のヒロインと『ポンペイ』の人が、死体を豚に食わせつつおしゃべりしてるシーンですね。殺した後、全然焦ってないからどうするのかと思ったが、豚がいれば、死体の始末には困らないのか……。

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 他の娼婦キャラが乳を出しているのに、「ミステリアスなロリキャラ」で通して乳も尻も出さないダコタだが、少女のようにも見え、安達祐実的に妙に老けたようにも見え、父親の遺伝子も継いで若干人外化した感もあったり、さすがは『トワイライト』シリーズ最強の吸血鬼役だけあるな、という印象。子役とは目の色ぐらいしか似てないが、意外とマッチングするのな。
 クライマックスの脱出展開のありそうでなかったアクションや、ラストの生死など、この主人公も父親の怪物的な不死身の遺伝子を継いでいるのかな、と言う気もしましたね。

 ストーリーは『ジェーン』にも似ているんだが、百倍嫌な感じで、男のロマンチシズムは入り込む余地なし。いや、息子とか一瞬頑張ったがね……。なかなか楽しめました。

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