”薪を捧げる”『ウィッチ』


映画『ウィッチ』予告

 魔女映画!

 1630年、ニューイングランド。教会と教義を巡って対立したために街を追い出されたウィリアムと妻子たちは、森の側の荒れ地に住み着く。冬が迫る中、蓄えもままならず焦りが募る中、末の赤ん坊が長女トマシンの目の前で行方をくらます。さらったのは森の中に潜むと言われる魔女なのか?

 『デビルクエスト』という、まあ普通の映画がありましたが、あれも魔女裁判の欺瞞を描くかと思いきや、「魔女は本当にいた!」というオチにしていたのよね。今作もそれに似ている。

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 教会と揉めて家族共々、村を飛び出したお父さん。妻と長女、長男、双子の二男二女を抱えて森の側の農場で暮らし始める……。が、土地は痩せててトウモロコシは不作、蓄えが思うようにできない。村を飛び出した理由は、お父さんの頑な過ぎる信仰心が問題で、教会の欺瞞が許せないとのこと……。
 結局のところ、何で揉めたのかはよくわからず、どちらに理があるのかは不明ではあるが、お父さんがこれから見せて行く絶望的なまでの生活能力の不足からすると、そんなことで揉めている場合じゃ、そもそもなかったんじゃないの……という心持ちになるのである。

 イングランドからアメリカに移民し、開拓を進めているわけだが、なかなかに環境は過酷で、村単位のコミュニティがないと冬を越えることもままならない。金はなく、トウモロコシは育たず、妻の銀食器を売っぱらって罠を買ってくるのだが、何もかからない……。
 唯一得意なのは薪割りなのだが、何がしかうまくいかなかったり家族と揉めると、とりあえず薪を割る姿が逃避にしか見えない。飲食店で接客ができずにずーっと皿だけ洗い続ける人のような……。
 脱サラして収入のなくなったお父さんの権威がどんどん崩壊して行くような、そんな現代の話にも見えて、なかなか悲しい。娘には「生活力ないくせに!」と罵られ、妻には「イングランドに帰りたい……」と泣かれ、もうプライドはズタズタ。また薪を割る……。

 赤ん坊が行方不明になり、ちょいちょい魔女の存在が匂わされてきて、アニャ・テイラー・ジョイ演ずる長女に疑いがかかり、悪ガキである双子の弟妹に挑発されたことで、「そうだ、私が魔女だ」と言い返して、余計泥沼に……。
 この子は『スプリット』よりも断然可愛く見えて古風な格好が似合うな。で、この美しい姉のチラチラ見える上乳に興奮するすぐ下の弟……。

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 『エミリー・ローズ』なんかと肌触りが似てるが、この手の「資料を元にした実録ベース!」と言いながらオカルトを突っ込んできてるネタは、すべてのシーンで「本当は魔女とかいないんでしょ?」「本当は精神を病んでるだけなんでしょ?」「本当は勘違いだったんでしょ?」と思いつつ見てしまう。そもそも魔女裁判というのが偏見のバイアスかかりまくりで、無実の人におっかぶせたものなんだから、その当時の資料を元にしたと言っても、資料自体がそのバイアスまみれに決まっている。
 それをそのまま映像化するとこうなるんだ、というのは、何やら当時の迷信と偏見をそのまま垂れ流しているようであるし、そこをヒロインの解放に絡めて描く手つきにはかなり疑問も覚えてしまうな。

 まあアンチオカルトとなると、それこそ『汚れなき祈り』というすごい映画があってだな……。ほんとは魔女なんていないんだから、よせばいいのに村を飛び出ちゃったダメ親父が家族と仲違いして殺しあった、というだけの話をひたすらリアルに描けばそれに迫ったかもしれないな。

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 黒山羊を始めビジュアルは最高で、お父さんが薪に埋もれるシーンはその皮肉さに大爆笑してしまったわ。家族間の感情のもつれの描写など見所も多いしまずまず面白いのだが、好きにはなれない映画であるな。

”親子愛、カナダ愛”『コンビニ・ウォーズ』


『コンビニ・ウォーズ~バイトJK VS ミニナチ軍団』予告

 ケヴィン・スミス監督作!

 ヨガ好き女子高生のコリーン・コレットとコリーン・マッケンジー。コンビニバイトを抜けられずに上級生のパーティに行きそびれそうになった二人は、逆に彼らを店に呼んでパーティしようと画策する。だが、コンビニの地下にはある恐ろしい存在が封印されていて……。

 ベン・アフレックがチョロチョロしてるせいか、いまいちご縁のなかった監督の映画を初鑑賞。『Mr.タスク』も見ようかと思ったが結局スルーしたのだよな。
 主演はリリー・ローズ・デップ。ナタリー・ポートマン自身に「私と顔が似てる!」と言われてるジョニー・デップの娘である。確かにナタリーにも似てるが、やっぱりデップさんに似てるしヴァネッサ・パラディにもちょい似てるよな……。人間の顔って不思議ね。
 共演はケヴィン・スミスの娘のハーレイ・クイン・スミス。今になって見ると『スースク』でハーレイとウィル・スミスがデキてしまったような名前で、若干やってしまった感がある。こちらがいかにも凡人というか、生活感を感じる体型をしているせいで、リリー・ローズちゃんのモデル体型が何か過剰に痩せて見えて痛々しいな。さらに二人してヨガをやっているのがいい対比。

 タイトルからして、コンビニという極小空間で実は大掛かりな戦いが繰り広げられる……ということではあるが、ちょいちょい自宅や学校、ヨガ教室へ移動。女子高生の生態を挟みつつ謎の殺人事件を追うという展開に。
 基本はコメディだが、なんか会話シーンがかったるいな。内容のないことをしゃべり続けるのがこの年頃といえばそれまでなのだが、このだらけた雰囲気が持ち味か。まあぼんやりとデップ娘の顔を眺め続けるしかない……。

 『Mr.タスク』にも出ていたデップお父さんも同じ役で、娘の主演デビューに花を添える。メイクでほぼ顔がわからない役だが、声と演技はいつものデップさん。基本、真面目な人なので、普通にキャラを作っていて、ゆるくてやや滑り気味なところもいつも通りか。それがまたテンポの悪さと噛み合って、オタクが延々仲間内でだべってるのを見ているような、ありがちな感覚……。

 カナダ愛溢れるエンディングなど、それほど鑑賞後の後味が悪いわけではないのだが、まあおそらく今後は余程のことがないかぎり見ないであろうな。

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”五色の下に集え”『パワーレンジャー』


ハリウッド版スーパー戦隊が変身!『パワーレンジャー』予告編

 東映の戦隊もののアメリカ版リメイクを、再映画化。

 同じ場所、同じ時間にあるコインを拾った5人の高校生。それによって超人的なパワーを手に入れた彼らは、謎の機械生命体によって、自分たちがこの星を守る戦士となったことを知る。それぞれの悩みを抱えつつ、パワーを完全に引き出す「変身」を身につけようとする5人だが……。

 冒頭、主人公が牛を逃してほたえまくるところから始まる。車を盗んで逃げ出すが事故って一回転……あれ? なんかこのカメラワークおかしくない? 車が回転してるのにカメラが無重力空間で静止しているようで、まったく臨場感がないぞ……?
 元アメフト部のこの主人公、お父さんに車で送られて補習授業に……この設定は『ブレックファスト・クラブ』の丸ごとオマージュですね。同じ補習に元チア部、発達障害、転校生、不登校が集まっていて、偶然にも金鉱で出くわし、そこに隠されたパワーを得ることに……。男三人女二人という男女比も同じで、組み合わせ的には一番オタクっぽいやつがあぶれるところまでは同じ。アメフト部が赤、チア部が桃、発達障害が青、転校生が黄、不登校が黒にそれぞれカラーがつくことに。

 しかしアカレンジャーモモレンジャーとカップルになりそうなあたり、『ブレックファスト・クラブ』オマージュなら、それはカーストが近い者同士だから違うんじゃないの。二人のキスシーンは撮影したけどカットしたそうで、何とか踏み止まったか……。かの映画を踏襲するなら、アカレンジャーは当然キレンジャーとデキてしまうべきだが、このキレンジャーレズビアンであるらしいことも匂わされる。このあたり、現代的な改変ですね。でもやっぱりアカレンジャーとだと台無しなので、モモレンジャーはクロレンジャーか、いっそのことアオレンジャーとデキてしまった方が面白い。

 それぞれの家庭環境や学校での軋轢などがちょいちょい語られる一方で、超人的なパワーを発揮し訓練を始める五人。並行して、眠りについていた「悪」がその姿を現わす……。悪役はエリザベス・バンクスが演じる元レンジャーで、見た目はガモーラ。やっぱり人相悪いな!

 なかなか変身ができないのは、そういう構成だからというとそれまでなのだが、五人の心を一つにという展開がどうもぼんやりとしていて、それぞれの抱えた問題はさておき、とりあえず仲間同士心配し合おうというものに見える。そうして仲間意識を持つこと自体が重要なのだ、ということであろうか? いや、それ自体は別に普通の話なのだが、わざわざ『ブレックファスト・クラブ』を引っ張ってきて言うことがそれなのか?という気もする。「俺たち、敵を倒したらまた会うことあるのかな」みたいな台詞もあるが、字幕のせいかシチュエーションのせいか、パロディとしても決まっていない。

 あまりハードルを上げすぎず、青春もののガジェットをぼんやりと並べてるだけぐらいに受け取ればいいのかもしれないが、戦隊モノのお約束はさておくとしても、あまりに決め絵がないので、アクションもメリハリがなくてつらい。冒頭のカメラワークのへぼさがここに来て足に来ると言うか……。
 変身シーンも含め、敵の登場、巨大ロボへの合体なども流れ作業のように進行してしまう。先が見えてるベタなストーリー展開なのだから当然なのだが、過剰さのない『トランスフォーマー』のようで、まったく上がらないのだよな……。で、間に挟まるギャグが切れているかと言うと……?

 外連味か大作感か、ということで、どちらにも振り切れずに行っちゃった感がもったいなかったですね。続編はもう少し発展しそうな気がするが、興行収入的には難しいか……。

今日の買い物

十二国記』BD

 DVDから買い替え。原作はどうなっているんだ……。


呪怨2』BD

 DVDから買い替え。でも特典は減ってるんだよね。


サンクタム』BD

 洞窟めぐり映画。3Dは確かにいい出来だったが、今回は2D。

”誰かが見ている”『犯人は生首に訊け』


「犯人は生首に訊け」予告編

 イ・スヨン監督作!

 15年に渡り未解決の殺人事件が起こる街に、妻と別れて引っ越してきたスンフン医師。折しも漢江にバラバラ死体が浮き上がり、住民を不安に陥れる。ある日、自分の家の大家で精肉店の元店主であるチョン老人を診察していたスンフンは、麻酔で意識がない老人が行方知れずの生首のありかを口走るのを聞いてしまい……。

 これも韓国ノワール祭で、『四人の食卓』の監督の久しぶりの新作。あの大変いやあな気持ちにさせられた映画以来ということになるらしい。怖い映画だったが、我らがチョン・ジヒョンがうらぶれた中年サラリーマンの若妻になってる、という設定が一番恐ろしかったですね。
 今作も新作と聞いて楽しみだったが、予告を見たらまたも大変いやあな気持ちにさせられ、もう観るのやめようかな、と思ったものの、いやいやこれだけいやな気持ちを喚起させるということは、きっといい映画に違いないと思い、改めて観に行ってきました。

 しかしこのタイトル、法月綸太郎の『生首に聞いてみろ』を思い出すし、実際何回か言い間違えそうになってしまった(そしてこのタイトル自体も『なめくじに聞いてみろ』のパロディであるという……)。そのあたりどこまで意識してるのか、非常に新本格っぽいトリックが盛り込まれていて、まあ法月と言うよりはムニャムニャ……という感じ。

 主演はチョ・ジヌン。『お嬢さん』では変態役だったが、痩せたり太ったり最近振れ幅が激しいな……。今回は肛門科の医者役で、ボケ気味のおじいさんの患者の麻酔しての処置中に、連続殺人の無意識の告白を聞いてしまう……。

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 精肉店の前店主である老人と、現店主のその息子が自分の家の大家で、チョ・ジヌン医師はどんどん想像をたくましくし、彼らこそが連続殺人の犯人なのでは、と疑い始める。
 ちょいちょいトリッキーな、違和感を感じさせる映像が挟み込まれ、主人公がいわゆる「信用できない語り手」なのでは、ということが匂わされる。薬物疑惑も登場して、ますますその気配が濃厚に……。メンタルかクスリが来たら、これはもう怪しいんだ!

 ただ一人称だが語りという体裁を取っているわけではないので、目の前の映像があからさまに信用できないというのは何だかな。というのも、終盤の解決編で、解釈の違いで読み直すのではなく、実はこういうことが起きていたんですよ、という新しい映像をやり直すので、今までのはデタラメだったのかよ!となってしまうのである。おかげで後半はかなりクドく感じるし、もう少し大胆に構成してほしかったところ。

 展開される不穏さや気持ち悪さ溢れる映像は出色の出来で、往年の手つきは健在であったが、長年新作待った割には期待値に及ばない映画であったな。

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生首に聞いてみろ (角川文庫 の 6-2)

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 公開時の感想。
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 これはカナザワ映画祭で観た!


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 フィンチャー監督作。地味ですが……。

”名前を呼んではいけない”『バイバイマン』


『バイバイマン』予告編

 ホラー映画!

 古い屋敷に残されたテーブル、その中のメモに記されていた一つの名前……。ふざけて交霊会をしていた四人の大学生の一人が、その名前を口に出してしまう。「バイバイマン」……。かつてその名を口にした者が全てジャーナリストに射殺され、そのジャーナリストも自殺したというが……。

 冒頭、何かを恐れているらしい男による無差別射殺事件。許してくれ、とか言いつつ家族や隣人を次々に射殺。心底怖がってる感じが出ていて、このオープニングはなかなか良かったですね。
 で、月日は流れ、射殺事件のあった家に主人公カップルと親友の男が引っ越して来る。男二人、女一人という組み合わせには、なにかしら火種の匂いがするな……。最初に目にするのは「しゃべってはいけない、考えてはいけない」というキーワード。冒頭の男が残したそのものズバリなメッセージなわけだが、それは何を指しているのか、というのが、奇怪な黒い犬を連れた白い顔の男、バイバイマン……!

 バイバイマンの名前を知ってしまうと、同時にそれを「しゃべってはいけない、考えてはいけない」という考えに取り憑かれてしまい、余計にしゃべりたくなる……ということなのだが、冒頭の男こと取り憑かれたジャーナリストはしゃべった人を皆殺しにしてしまったそうで、何か回りくどいというか逆効果なんじゃないか。
 バイバイマンさんは取り憑いた後は人に幻を見せて仲違いさせ、最終的には殺し合わせる。死んだ人間の魂を犬が喰らう……という筋書きで、本体は犬なんじゃないかとも思うところ。しかし、自分の姿をチラチラ見せてプレッシャーをかけ、精神的に弱らせるのはいいとして、それが肝心の「自分の名前を呼ばせる」ことに直結してないのがどうもおかしい。自分の存在と共に、警告である「しゃべってはいけない、考えてはいけない」まで拡散するので、標的がいち早く周囲の口を塞いでしまう。それはまあ食べるからいいとしても、肝心要のはずの名前の拡散が思うように進んでいないんではないか……?

 じゃあどうすればいいのか?というところで、やっぱりバイバイマンさんはもっとSNSを活用して、どんどん名前を広めていくべきなんじゃないの。普通にネットもある設定だし、あっという間に全米に広まるんじゃないかな……。
 そこまで話を広げたくないから、どうも設定が妙なことになり、サスペンスも盛り上がらないという本末転倒ぶり。広めたいんか広めたくないんかどっちやねん……という、バイバイマンさんの戦略がなってないだけの話になってしまっている。端的に怖くないわけよ……。いや、犬一匹養えればそれで十分という、まあまあ奥ゆかしい怪物なのかもしれないね。
 久々に見たキャリー・アン・モスさんは、『マトリックス・リローデッド』の時にちょっと老けたかなと思いましたが、それ以降変わらんなあ。もっとバイバイマンとガチで勝負して欲しかったね。