“小銭がないとダメ”『ペンタゴン・ペーパーズ』


『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』予告編

 スピルバーグ監督作!

 ベトナム戦争が泥沼化した1971年。戦争の経緯を詳細に記録したトップシークレット文書をニューヨーク・タイムズがすっぱ抜く。反対運動の激化を恐れたニクソン政権が記事を差し止めようとする中、ライバル紙のポストもまた同じ文書を手に入れようとしていた。明かされるベトナム戦争の不毛さに、ポストのオーナーであるキャサリン・グラハムは危険な決断を迫られる……。

 原題は『POST』だから、日本でいうと『毎日新聞』みたいな感じですね。これを書いてる現在、連日、朝日新聞のスクープが国会を揺るがせ、毎日新聞が後追いでまたスクープを出すという状況が続いています。今作ではベトナム戦争にまつわる重大スクープをすっぱ抜いたニューヨーク・タイムスに続き、同じ裏情報を掴んだポスト紙が後追いで記事を出すか否か、というお話で、まるでスピやんが日本のために作ってくれたかのようだ!

 映画は地獄のようなベトナムの戦場から幕開け。泥沼が続くが、実は政府は、もはやこの戦争には勝てないと早くから知っていたのだった……。

 NYTにぶち抜かれた、時のニクソン政権がそのスクープを潰すために報道各紙になりふり構わぬ圧力を仕掛け、報道の自由か政権への忖度かを迫られる。ポスト紙のオーナーであるメリル・ストリープと編集長トム・ハンクスは、存命中のJFKと親しくしたり、現政権の政治家にもネタをもらっていたりして友達関係を築いていたりするので、結構悩ましい……。
 いやいや、悩ましいじゃなくて、やっぱり報道はそこらへんバシッと分けとかないとあきませんよ、という大原則に立ち返るまでの葛藤……。予告編だとメリル・ストリープはいつもの意志の強い強面女に見えるが、実は今作では割とおっとりしていて舐められている経営者で、途中の悩んでるところの演技の方が上手くて印象的でしたね。またここで女性が声を上げるというテーマを持って来るのもさすがですね。
 一方でトム・ハンクスは、『スポットライト』のマイケル・キートンの完コピに見えなくもなく、ちょっと先行作の前に割を食ったか。しかし他のキャストは大変地味な無名キャストで固めていて、この二人が逆に悪目立ちしているように見えるぐらい。まあ商業的には大物キャストも必要なのだろうが、やろうと思えば全員無名キャストでも撮れるんだろうなあ。

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 情報提供者も含め、報道側もまったく一枚岩ではない。そもそもニューヨークタイムズとポストはライバル紙だから、お互いの情報交換は基本的にはない。だが、これを国民に届けずしてなんのメディアか、という矜恃ね。NYT側の話でも、一本映画が撮れそうである。

 七十年代を舞台にくすんだ色調で撮った撮影も素晴らしいが、基本会話劇なんで地味は地味……なんだが、名匠ヤヌス・カミンスキーの撮る輪転機は、何やら怪物じみていてめちゃくちゃカッコいいな。
 電話かけるシーンで小銭を落とすのも、実にベタでしょうもないギャグシーンなのだが、これを緊迫感溢れるシーンにしちゃうからすごい。ご存知ウォーターゲート事件につながるエンディングもキレキレで最高ですね。隅々まで堪能しました。

“まだ始まってもいねえよ”『スリー・ビルボード』


『スリー・ビルボード』予告編 | Three Billboards Outside Ebbing, Missouri Trailer

 アカデミー賞最有力!?

 ミズーリ州の寂れた道路に放置されていた三枚の看板。そこに不意に貼り出された広告は、地元の警察と署長の犯罪捜査への怠慢を糾弾するものだった。7ヶ月前、娘を暴行されて殺されたミルドレッドが広告主であり、警察署長のウィロビーは困惑、彼を慕う部下や街の人間は腹を立てるのだが……。

 えー、結局アカデミー賞作品賞は取れず。マーティン・マクドナー監督作は初見だが、監督賞ノミネートがなかったのが響いたか? 主演女優賞助演男優賞は獲得。

 表題の三枚看板のシーンが本当に素晴らしくて、表側、裏側問わず、平凡のようでいて今まで見たことのないビジュアル。これだけ明確にさらりと表現してしまうのに驚かされる。三枚の看板の距離感も絶妙で、歩くと遠いが車だとすぐなのな。こうして三枚の看板を通り過ぎる時間の間隔までが染み込んでくるようで、圧倒的なオリジナリティですよ。
 改修前の姿、メッセージが出た後、燃やされた後と再び貼り出された後……次々と姿を変えていき、まさに今作の主役としての存在感を見せている。

 ありふれたアメリカの田舎を舞台に、不条理に対して声をあげることによって巻き起こる軋轢と、その中での人間模様と感情のもつれを描き出す。仕掛人であるフランシス・マクドーマンド演ずる主人公は、ステレオタイプな「可哀想な母親」像に決して留まらず、だからこそ決して泣き寝入りもしない。
 告発される警官側の二人、ウディ・ハレルソン署長とサム・ロックウェルの二人は、当初は「物分かりは良く見えるが何もしない人」や「横暴の権化」に見える。だが、物語が進みバックボーンが明らかになるに連れて立ち位置も変わっていく。

 最近、『ゲット・アウト』や『ツイン・ピークス』新作などで貧乏くさいキャラばかりやっていたケイレブ・ランドリー・ジョーンズなどが広告会社の人としてすごくいいキャラクターになっていて、彼とサム・ロックウェルの絡むシーンはすべて必見ですね。また窓から放り出すシーンの臨場感も良くて、ここはワンカットだけど敷いてたマットを急いで片付けたりして昔ながらのやり方で撮ってるんではないか。

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 サム・ロックウェルは隠れゲイと思しき警官役で、まあ大変横暴で賢くもなさそうで、前半大変嫌な野郎なのだが、ぼんやりと裏の面がほの見えてくるあたりから俄然存在感が増してくる。この彼のハレルソン署長の慕いっぷりが涙ぐましく、またケイレブやディンクレイジさん、マクドーマンドさんへの横暴が嫌らしいが、これら全て同じ人間の一面であり、その曖昧さ、白黒のつかなさこそがリアルなわけだね。曖昧なようで、その場その場の感情はかなり明確にわかりやすく表現されている。矛盾するけれどそのどちらもが真実である、ということ。
 ただまあ、メインキャラの両面を描き、どのキャラにも真摯に寄り添った分、得体の知れない曖昧模糊さは描かれないので、田舎映画としては物足りない。妙にわかりやすく出来すぎにも感じられる。よく出来た脚本だが、この良さこそがマイナスかも……。
 海外ドラマなど見ていると、10話500分で何シーズンもやりながら、キャラクターの心情の変化や裏の面を描く濃密さに驚くのだが、今作はそれを120分に凝縮した感もありですね。それほどの巧みさと完成度。

 で、ラストの放りっぱなし感が、ここから先もまだまだドラマは続くんだ、と匂わせるから、余計に世界観が広がった。まだ旅は始まってもいないのだ……。

”なんてことあるわけねえよなあ”『15時17分、パリ行き』


映画『15時17分、パリ行き』本予告【HD】2018年3月1日(木)公開

 イーストウッド監督作!

 2015年8月21日15時17分、アムステルダムからパリに向けて特急列車が発車した。だが、その中に大量の銃で武装した男が乗り込んでいる事を、乗客たちは知る由もなかった。たまたま居合わせた休暇中の米兵ら三人は、自動小銃を取り出した男に果敢に挑んでいくが……。

 道を歩いていて、子犬でも幼児でも何でもいいが、トラックに跳ねられそうになったところを間一髪助け出す、みたいな妄想をしたことある人は多いのではなかろうか。同じように、乗り物に乗っていると、ハイジャック犯やらテロリストが突然現れるとする。日頃鍛えた肉体で、そいつを鮮やかに取り押さえたら、さぞかっこいいだろう。英雄間違いなしだ。

 ……なんてこと、あるわけねえよなあ。現実って儚いよなあ……と思うまでがセットなのだが、あくまで確率は確率に過ぎず、本当にこういうことが起きてしまうことだってあるのである。
 今作は現場に居合わせたアメリカ軍人含む仲良し3人組が、銃撃犯をとっ捕まえた実話の映画化。事件の現場を、犯人以外の本人達に演じさせたということで、『ハドソン川』のエンドロールを拡大版にしたような感じですね。

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 「偶然です」では映画にならないから、3人の子供時代から振り返り、特にその一人スペンサー・ストーンの、軍人を志し何者かになりたい、人助けをしたいという願望を抱くも、希望のレスキュー部隊には配属されないという挫折を描く。
 仲良し3人組でヨーロッパ旅行にでかけ、当初は行く予定がなかったパリを、まるで何かに導かれたように目指す……まあこの導かれた云々は後から付け足した理屈だと思うが、これがここのところのイーストウッド映画の、人生において、必ずツケを払う瞬間、決断を迫られる瞬間がある、という繰り返し語られたモチーフと合致するのだな。
 今作は、挫折を繰り返してたけど腐らず頑張ってきた成果がまさかという形で身を結んだ、ということで、練習していた柔術も炸裂するのである。バックを取ってのチョークだが、相手がナイフ持ってたので危うく刺し殺されそうになっていて、結局3人がかりでやっつけていたからどこまで柔術が役に立ったのかわからなかったが……。

 そもそもこんな話出来すぎで、フィクションだったら都合よすぎと叩かれるところだが、まあ実話なんだからしようがない。飛びつき腕ひしぎでもしたように改変してもいいところを、本人演技でリアルなムーブにこだわり、半ばドキュメンタリーのようになっている。捕まえて撃たれた人を救急隊に引き渡すまで体感的には長く感じたが、実際は数分であり、それでは映画にならないので生い立ち他を延々とやって「導かれた」話を付け加えたというところだろうか。それでも尺が足りないから、ドイツで3人分のジェラートを店員のおじさんが1人分ずつよそうところを延々と映していたりして、さすがにそこはおじいちゃん大丈夫なのか、とたじろいでしまったわ。

 もちろん勇気ある素晴らしい行動で、銃が不発だったことに救われたことなどまさしく運命的なものに突き動かされてのことだった……と後から振り返りたくなる気持ちもわかるが、突撃の直前「ゴー! スペンサー!」とかかる声とか、ちょっと恐怖を覚えたね。あれは誰が言ったのか、映画ではちょっとわからなかったのだが、やっぱり神の声なのか?
 全然テイストは違うんだけど、軍人をネタにすると『ハクソー・リッジ』にも似てくるところだな。たまたま上手くいったから良かったものの、フィクションならあそこで額を撃ち抜かれる人の話になるだろうか。

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 ラストシーンのオランド大統領のシーンも、実際のニュース映像と役者の後ろ頭だけを交互に映す珍妙さにちょっと笑ってしまったよ。不可思議な味わいの珍作でありました。

”この戦いに愛などいらない”『悪女』


映画『悪女/AKUJO』予告編

 チョン・ビョンギョル監督作!

 犯罪組織の暗殺者スクヒは、師であり夫でもあったジュンサンを殺され、敵対組織に復讐する。戦いを終え、情報局の手に落ちた彼女は、そこで新たな訓練を受けて国家の諜報員となることに。ジュンサンの残した娘とともに新たな生活を始めたスクヒに、再び残酷な運命が迫る……。

 前作『殺人の告白』は相当ギャグも入ってる大娯楽作だったので、次回作も楽しみにしておったところ。さらに主演は『渇き』のキム・オクビンで、超絶アクション連発だそうで、こりゃもう期待しかないな、という代物ですよ。
 お話は『ニキータ』でカメラワークは『ハードコア』で……ということで、そのパッチワーク感に不安もないではないが、さてどうかな……?

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 ヒロインは映画が始まった時点で超絶的なアクションを披露するのだが、かなり時系列をいじっていて実際の話の経過の中では中盤ぐらいなのな。
 まず犯罪組織に加わって、そこで超絶戦闘力を身につけ組織の男と恋に落ちるまでが前半としてあり、その後、男の死をきっかけに死闘を経て負傷、情報局に拾われて整形し、新たな顔でスパイに勤しむようになる。二段階の訓練を経ているわけで、裏稼業から国家の犬へと華麗なる転身を遂げているのだな。なに、その波乱万丈の人生、という感じだが、時系列をいじくって前後させているので、よくよく考えるとややこしい設定なのも、何がなんだかわからんうちに段々と染み入ってくる感じ。
 ただ、この時系列いじりがマイナスになっている面もあり、例えば冒頭のアクションも「愛する男を失った怒りが爆発した」シーンなのだが、その背景はあとからわかることなのでエモーションは爆発しないのである。

 正直、狙ってか狙ってないのかよくわからんが、背景がよくわからないままアクションシーンに突入するので、逆にカメラワークとか役者の位置関係にやたらと注目してしまったよ。冒頭の主観視点のカメラから、第三者視点に移行するあたりの切り替えは出色の出来で、度肝を抜かれましたね。

 目的はよくわかっていないまま命令だけを遂行する主人公なので、後のアクションシーンでも背景がわからんまま、急に日本刀持った敵にバイクで追われたりする。そもそも敵の背景がわからないから、まあこういうこともあるかもしれないな……と流すしかない。
 まず撮りたいアクションがあって、そこを実現するためにリアリティラインを下げ、設定をぼかし展開を錯綜させて成立させているような感あり。

 そんなこんなで若干乗り切れないまま展開するのだが、全然報われない薄幸キャラの主人公が、ささやかな希望さえ持ち続けられず翻弄され、ただひたすらに牙を剥くしかない展開はビジュアルも相まって美しささえあるのは間違いない。韓国映画おなじみのバイオレンスと甘ったるさを煮詰めて、社会性を付与しないとこうなるのか、という印象。

 『殺人の告白』のボウガン女ことチョ・ウンジさんの再登板は嬉しかったですね。もうちょっとおいしい役かと思ったが……。

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“火サスときどきウー”『マンハント』


映画『マンハント』本予告 2月9日(金)全国公開

 ジョン・ウー監督作!

 日本で巨大企業の顧問弁護士を務めたチウ。だが、退職の夜、目を覚ますと隣には女の死体があった。身に覚えのない殺人の容疑で追われるチウに、大阪の敏腕刑事・矢村が迫る。だが、追走劇を繰り返す中、二人の間には奇妙な信頼が芽生え始め……。

 中国で撮った新作が結局公開されないまま、日本ではまさかの『レッド・クリフ』以来の公開作となりました。西村寿行『君よ、憤怒の河を渡れ』の二回目の映画化、一回目の映画化のリメイクということになる。舞台は当然日本で、追われる弁護士役にチャン・ハンユー、追う刑事役に福山雅治……。
 主人公チャン・ハンユーさんは、國村隼社長の日本企業に雇われている弁護士。数々の訴訟に勝った上で円満退職するはずが、色々と知っては行けないことを知っているために、社長秘書のTAOさん(ウルヴァリンと寝た女だ!)に誘惑される。が、パーティーを抜けて家に帰ったら急に殴られて昏倒、目覚めたら彼女の死体が……。逮捕されてしまうのかと思いきや、黒幕とグルの警察は彼が逃げるように仕向け、混乱に乗じて始末しようとしてくる。さらに、二人組の女の殺し屋も襲ってきて、大ピンチ。一方、ゲスト出演の爆破犯斎藤工を捕まえたばかりの福山雅治腕利き刑事もハンユーさんを追い始めるが、こちらはこちらで事件に腑に落ちないものを抱き始める。

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 國村隼が如何にも悪っぽい顔をしていて、その息子池内博之がこれまた如何にも小物っぽいバカな2代目感を全開にした演技している時点で、まあだいたいこういう話か、というのはわかってしまうのだが、この日本企業の世襲は『ウルヴァリン SAMURAI』でもネタになっていたな。
 ずーっと火サスで見たようなしようもない痴情のもつれみたいな話をベースに、我が地元大阪を逃げ回るチャン・ハンユー、追う福山&殺し屋、そこをジョン・ウーの決め絵バチバチのアクションが繋いでいく。
 「平和の象徴」である白い鳩が飛ぶことで、ハンユーさんと福山が互いを傷つけ合わずに済むアクションの素晴らしさと、おなじみ二丁拳銃と銃撃戦のリズム感はやっぱり最高で、ああ……やっぱりジョン・ウーはいいですね……と思った。狙いをつけてパン、狙いをつけてパン、じゃなくて、狙い直さずパンパンパンと連射するリズム、若干下向きの銃口……全てがフェティッシュだ。五億点! が、浸り切るにはこのしょうもないお話が邪魔すぎるな……。さらに福山の相方になる新米女刑事の安いドラマみたいなキャラと、福山くんとの寒いやりとりに辟易。ああ……五億点がどんどん下がって二億点を切ってしまいそうだ。

 地元民的には突っ込みどころありつつ大阪最高!で、新名所ハルカスから最寄り近鉄電車、さらに中之島大追走劇で大満足。中之島を逃れたハンユーさんがJR大阪駅までワープし、追っかけてた福山くんがまだ城ホール付近をうろうろして全然見つけられない途方にくれた感もありえなくて最高でしたね。

 アクションも組み立て自体はいいし、この大阪ロケまでは迫力あったのだが、後半の高原の山荘と、クライマックスの工場のセットがあまりに安っぽすぎてこれまたがっくり。いかにも「アクションシーンで壊すため」に組み上げたような質感のなさで、福山くんがうっかり突っ込んでも大丈夫なように出来ているのだろう……。

 一応、製薬会社なので秘密のおクスリを作っているのだが、人間を凶暴化させ殺人マシンに変える薬で兵士にできる、という設定はもはや中学生レベルの発想だ……。それを打たれた倉田保昭さんが凶暴化しつつ得意の空手を使うあたり爆笑で、その後打たれたハンユーさんも意思の力で克服してしまう適当さもすごい。
 クレジット見たら脚本家が6人もいたので、いったい誰が戦犯だ……? バラバラに書かせていいとこ取りしてパッチワークしようとしたら、グダグダになったということなのかもしれんね。

 フィルムで、埃っぽい工場で撮ればクライマックスも少しは雰囲気出てたかもしれないな……。ジョン・ウー自体はもう「上がった」人なんで、あとは延々自己模倣やっといてくれたらそれで充分なんだけど、日本で撮るのはもういいんじゃないかな……。殺し屋役の監督の娘さんは固太りした体型なのにキレッキレで、相方のハ・ジウォンもスマートでしたね。総じてアクションシーンは良かったと思うが、大作かと思いきや思いのほか金がかかってなかったのかもしれない。一億七千万点ぐらいに留まる困った映画でありました。

”陰謀はつらいよ”『修羅:黒衣の反逆』


『修羅:黒衣の反逆』予告

 チャン・チェン主演作! 中華映画祭り二本目。

 明の時代、皇帝が病に倒れた中、錦衣衛の沈煉は体制転覆を表す絵を描いた北斎という絵師を捕らえるように命ぜられる。北斎の絵を所持していた沈煉は悩みつつも任務を遂行しようとするが、絵師の正体はかつて山中で出会った美女であった。彼女を辱めようとした同輩を斬ってしまった沈煉は、その場を逃れる策を巡らすが……。

 『ミスター・ロン』は作家性バリバリの映画でしたが、今作は定番のエンタメ時代劇と言えるでしょう。帝位継承とか国家レベルの陰謀が渦巻く中、末端の役人や兵卒が使い捨てられる中、使い捨てられる側の剣士の悲哀を描く……。個人的には「陰謀チャンバラ」という風にジャンル分けしてますが、前作『ブレイドマスター』はその代表作でもあったな。チャン・チェンは金が欲しいだけなのに陰謀にいっちょかみしたことで、どんどん抜き差しならない事態に追い込まれて行く……。今作はその続編であり、前日譚であります。

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 一応、同じキャラクターだし、今作中でも前作につなげようと色々苦慮しているのだが、大筋は関係ないし、ヒロインも別だし、もう少しぼんやりとパラレルワールド的にゆるいつながりにしておいても良かったんじゃないかな。
 キャラを引き継いで、相変わらず保身しか考えてない男なのだが、今作は保身か女かを天秤にかけて悩む、という話で、割合シンプルな筋なのな。相変わらず、上の方でやってる陰謀には全然迫れず、じきに追われる身になって追い回されるのだが、彼を追いかけてた役人とも組むことになる展開がちょっとバディものっぽくなっていいですね。

 錦衣衛時代は、己を殺してお仕事に励む中、絵を買い集めるのが趣味……なのだが、そこでお気に入りだった「北斎」という絵師が、王朝批判の絵を描いたせいで、別の絵を持ってる自分も疑いを持たれることに。じゃあ嫌だけど北斎を自分で逮捕して身の潔白を立てるぜ……と思ったが、名前からして日本人の年寄りみたいな北斎の正体は超美女であった……。一緒に来てた同輩が、逮捕するまでもない斬り殺そう、その前に楽しませてもらおうと外道全開。ブチ切れたチャン・チェンはこれを斬り殺してしまうのであった……。
 しばらくこれを隠そうとして右往左往するが、北斎と通じてる反乱者一派に証拠を掴まれて脅されることに……。
 北斎役はヤン・ミーで、チャンバラやカンフーもよくやってる人だが、今回はアクションなし。その代わり、まもなく公開の長江映画に謎の女役で出るシン・ジーレイが倭刀の達人として出ているので、いい予習になったな。

 チャン・チェンは錦衣衛なのでそれなりに強いが、このシン・ジーレイには一回負けたりして、無敵というわけではないのだな。今作はワイヤーワークも使ってはいるが、前作同様、塀は飛び越えられないリアル寄りのバランスで、殺陣も地に足をつけて捌き合うしっかりした作りで良し。

 2本目ということでこなれたか、演出も話運びも手際よくまとまってて、なかなか良かったですね。話繋げるのはしんどくなってきたが、もう一本ぐらいあるのだろうか?
 音楽が川井憲次なので、いつものドンドコした勇壮なスコアなのだが、今作はエンディングの歌曲もやってます。川井憲次の中国語歌曲というのはレアだな……。

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”石より生まれし者”『悟空伝』


『-悟空伝-』予告

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 中華映画祭り!

 かつて、天帝によって粛清の対象となり滅んだ魔王は、猿となって転生した。故郷花果山を蘇らせるため、そして復讐のために再び天を目指す猿……孫悟空。その前に楊戩と天蓬、二人の強敵が立ちはだかる。死闘が始まるが……?

 この冬の中華映画祭りは二本ということで、去年の狂ったような盛り上がりはないものの、手堅く面白そうな奴が来ましたよ。まずはデレク・クォック監督の西遊記からだ!

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 中国で流行ったネット小説が原作ということで、オリジナルの西遊記からは相当逸脱しております。デレク・クォックチャウ・シンチー版にも一時期参加して、結局離脱したが、出来上がったものを見ると確かに方向性が違うな。まあドラゴンボールと同じく、主人公の名前が孫悟空であり猿である、ぐらいに捉えておくのがいいかもしれない。

 故郷である山を天界の軍に滅ぼされたエディ・ポン孫悟空が、いつかその故郷を蘇らせる夢を語る序盤、見栄を切ろうとしてはいちいち邪魔が入るあたりから、後半の爆発に向けてネタふりしてるな………と思いつつ観ていたのだが……。すまん……30分ほど寝てしまった……。途中から、エディ・ポンもショーン・ユーも全員が人間になって地上に降りているぞ……。

 検閲が激しいと言われる中国映画には珍しく、権力に盾突きまくる話で、中盤以降に未来を変えようとした主人公たちは大敗北を喫し全てを失う……が、諦めることなく復活し、再び反逆し、天に攻めのぼる。多分、もうちょい長い原作をガンガン端折って構成しているので、展開はやたらと速いのだが、話的にはこの中盤が溜めになった上に映像に勢いがあるので、盛り上がる感覚はあり。CGも金かかってる以上に厚みがあって、このあたりの畳み掛けはさすがデレク・クォックだな、と思ったよ。
 一方で、仲間が単独で戦ってる間、エディ・ポンが後ろで愁嘆場をずーっとやってるシーンがあったりして、そこは力を合わせて戦うべきだったんじゃないかな……と、若干乗りにくい場面もあったな。

 またいつか機会があれば、寝てしまった部分も見直そうと思います。

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