”オレたち大列車強盗”『レイルロード・タイガー』


『レイルロード・タイガー』60秒予告【6月16日(金)公開】

 ジャッキー・チェン主演作!

 1941年中国、天津と南京を結ぶ日本占領地域を走る汽車に、謎の強盗団が襲いかかる。警備の日本兵を気絶させ、食料を奪っていく「虎」の絵を描き残す強盗団の正体は、マーという男に率いられた労働者たちだった。ある日、抵抗組織の兵士を助けた彼らは、重要拠点である橋の爆破計画を知り……。

 日本占領下の中国を舞台にジャッキーが大暴れ! ……というほどでもなく、列車に乗った日本兵を襲う強盗団のリーダーを演じ、ケイパー・ムービーとしてチームものに仕上げている。メンバーには中台の若手俳優を起用し、息子のジェイシー・チャンも出演!(薬物問題のせいか、パンフでは存在を消されていたらしいが……)

 ほぼ線路周辺だけで完結する構成で、駅、汽車がらみのギミックが多数取り入れられている。いつものジャッキー的なドタバタを、周辺のロケーションを活かして若手にもやらせていると言うとわかりやすいか。実際に汽車を走らせ、周辺もほぼセットを組んでいるのかな。かなり凝った特撮もやっていて、金もかかっている印象。全然話は違うけど『大列車強盗』ということで、ジャッキーは今でもキートン好きなのな、ということがよくわかる一本。

 ジャッキーが悪目立ちせず、若手といっしょに映画作りを楽しんでる感で、全体的には好印象。『私の少女時代』のダレン・ワンも出てた! 
 ただまあ全体的にキャスト多めで、息子ジェイシー含めフックアップしようと見せ場を割り振ってる分、少々長い。凝った特撮もかなりやってるので「もったいないお化け」が出て来てしまったかな。もうちょっとまとめて欲しかった面も。

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 ジャッキーがやるようなこと、をジャッキー以外がやると、やっぱり独特の呼吸やテンポが発揮できず、また安全性にも配慮してもっさりした感じになるのかな。アクションも少々テンポ悪し。

 イップ・マンにやられて左遷されてきたような池内博之が悪役なのだが、全然成長していなかった……(笑)。いや、このドタバタ劇の悪役を真っ向から演じ切るのは素晴らしいですよ。

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 抗日映画、というほどでもないのんびりした内容で、まあこれも今の中国映画か。今のジャッキーを物語る一本ですね。そして今年は『スキップ・トレース』も公開!

”最後のX”『ローガン』


ヒュー・ジャックマン、“最後のウルヴァリン” 映画「LOGAN/ローガン」予告編

 『ウルヴァリン』シリーズ完結!

 ミュータントが次々と死滅していった世界……わずかな生き残りであるローガンもまた、その再生能力を失いつつあった。テレパスを制御できなくなったプロフェッサーをかくまいながら、運転手としてひっそりと暮らすローガンに、ある少女が委ねられる。ローラ……強烈な再生能力とアダマンチウムの爪を持つ少女の正体とは? そしてミュータント絶滅に隠された秘密とは……。

 大変バカな映画だった『SAMURAI』と『アポカリプス』を経て、さあヒュー・ジャックマンの最終作です。ミュータントが滅びに瀕した時代。プロフェッサーの理想も虚しく排外主義がはびこる世界。一応、『フューチャー&パスト』の時代のその後と解釈することもできるし、パラレルな世界設定と思ってもいいし、どっちとも取れるかな。

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 かつての主要キャラはローガンとプロフェッサーしか出番がなく、ボケ老人と化しつつあるプロフェッサーは能力を暴走させて仲間を死なせたことが明らかに……。しょうがないから残ったローガンが介護しているという話だが、何でも7人ぐらい死んだらしく、それはつまりスコットとストームと……と指折り数えてしまう。
 ローガン自身も再生能力の低下に悩まされており、『SAMURAI』で心臓に機械を仕込まれたのと同様の事態が、何もないのに起こっているという状態。

 じぇんじぇん未来が見えなくて、あの希望に満ちた学園が今思うと虚しい……。色々と頑張ってきたつもりだったけど、まさか待っていたのはこんな結果だったのか、と思うと泣けてくるね。
 そんな二人に助けを求めてきたのは、謎の少女を連れた女……。少女は軍事利用のために「ウルヴァリン」の遺伝子を組み込まれて生み出された、人工ミュータントだったのだ!

 メインの登場人物はこの三人だけで、後は悪役か途中で出会う一般人か……。何せ悪役も二役でヒュー・ジャックマンがやってたりするし、大作感は薄いめ。ただその分、メインキャストのドラマは濃密になっていて、三人を取り巻く環境の出口の見えなさをこれでもかこれでもか、と強調する。
 作中で流れる『シェーン』からわかるように西部劇オマージュで、老いたガンマンが、家族のために最期の戦いに挑むという展開も完成されていて、非常にまとまっていますね。マンゴールド監督、あまり理解が深かったとは言えない時代劇から、わかってる西部劇に雪崩れ込む落差が激しいな!
 ローガンの「娘」であるローラは作られたミュータントであり、他の仲間も含めてもう生殖能力があるのかどうかもよくわからんのだよね。宣伝でちょいちょい触れられた「ミュータントの希望」とかそういう話では全然なくて、ローガンが最後に知った家族である彼女自身を守る、というかなり個人的な話でもある。ミュータント死滅の謎はラスト近くでさらりと語られるが、それはもはや、今作の主人公を取り巻く状況を作り出すための装置でしかなく、作品のテーマではないし、作中で回避される手段もまたない。

 ローラ役はダフネ・キーンちゃん。険しい顔してるんだが、めちゃくちゃかわいいな、この子……。足にもアダマンチウムの爪が仕込まれていて、潜在能力ではローガン以上かとも言われる戦闘マシン。頑固者のお父さんの性格もやっぱり受け継いでるのか、と思わせる頑なな演技を見せつつ、後半にちょっとデレてくるとまたそのギャップがいいですね。
 未成年者が人を惨殺しまくるヒットガール以来のキャラ、R指定も納得のバイオレンスの象徴。これも『デッドプール』のヒットの副産物だそうで、こういうアプローチは今後増えて欲しいですね。

 ヨレヨレになってるウルヴァリンを終盤のバトルで活躍させるための前振りは一応あるのだが、ほんとに一時的な効果しかないもので、カタルシスがあるかというとない。が、今ある材料だけで何とかするリアリティとテクニカルな攻防が引き立つので、それはそれでよしですね。

 キーンちゃんが急に喋り出すところや、脱走が義憤を感じた看護士たちの決起、の割には妙に用意周到だったり、若干腑に落ちない展開もあったが、総じて面白かったし、何にせよ「終わり」が描かれるということ自体が最高のエンターテインメントであるな、とダラダラ続きがちなシリーズやユニバースを振り返りつつ思ったところ。まあX-MEN自体はまだまだ続くようですが……。

ウルヴァリン:オールドマン・ローガン (MARVEL)

ウルヴァリン:オールドマン・ローガン (MARVEL)

”三角地帯を超えろ”『オペレーション・メコン』


【映画 予告編】 オペレーション・メコン(『アジアンムービーセレクション 2017』)

 中華映画祭り!

 メコン川流域、タイ、ミャンマーラオスの三ヶ国を股にかけた巨大麻薬密造地帯で、航行する中国船が何者かに拿捕、乗員を惨殺される。中国政府は事件解決のため、公安特殊部隊を派遣。現地の情報員と共に麻薬王を逮捕することを命じるのだが……。

 中華映画祭りのラストはダンテ・ラム映画! 今年は『疾風スプリンター』に続いて二本目だ! メコン川で起きた中国船の拿捕と虐殺の謎を追い、東南アジアの三角地帯に潜入する中国の特殊部隊。現地の工作員はまたこの人、エディ・ポン!

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 標的はすでに分かってて、現地で猛威を振るう麻薬王とその側近を逮捕し、中国で裁判を受けさせることが目的。
 異国情緒溢れる東南アジアを股にかけ、ある時は市場、ある時はショッピングモールで作戦を展開する公安チーム。現地に深く通じたエディぽんからの情報を受け、緻密に作戦を立案し正確に遂行していく……んじゃないんだな、これが!

 いや、現地に潜入したチームがハイテクやチームワークを駆使して、人質を救出したり容疑者を逮捕しようとするにはするのだが、必ず毎回失敗します! 失敗してからカーチェイスだの何だの散々追いかけ合いをして、力技でどうにかこうにか辻褄を合わせる……。
 こういう展開が続くから、段々と緊迫感がなくなってくる……。その合間合間のアクションは迫力があって大変よろしいんだが、あんまり派手にやらかしてると潜入してる意味がなくなっちゃうんじゃないかな……。

 チームのリーダーはチャン・ハンユーさん。『タイガー・マウンテン』『グレートウォール』なんかにも出てたが覚えづらい顔だな。次回作はジョン・ウー監督の下で福山雅治と共演ですよ。このリーダーとエディぽんが作戦についてあれやこれやとある時は対立し、ある時は友情を深めていく……というのがまあダンテ・ラムお得意の大筋なんだが、『激戦』『疾風スプリンター』とあの手この手でやった後なので、このチームもの、バディもの感覚がちょっとありきたりに感じられてしまったのももったいない。

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 チームメンバーよりも、作戦に加わっている犬が最高でしたね。まあ敵役を演じていた『ノー・エスケープ』には及ばないが、ひたむきかつ機動力溢れる頼れる奴。全体にはイマイチだったが、今年の犬映画現在第二位を進呈したいところです。

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 どうでもいいのだが、犬ちゃんが最初に活躍する麻薬マーケットのようなところが、高知のひろめ市場に似てなかったかな。愛媛、高知、徳島の三角地帯でも、こういうドラマが繰り広げられているのかもしれないね……。

激戦 ハート・オブ・ファイト【Blu-ray】

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今日の買い物

『密告・者』BD

 ダンテ・ラムのノワール映画! これが一番インパクトはあったな……。
 公開時の感想。
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『ビースト・ストーカー/証人』BD

 ニック・チョンが恐ろしい、これもダンテ・ラム作品。
 公開時の感想。
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『アクシデント/意外』BD

 珍作としか言いようがないジョニー・トー製作映画。
 公開時の感想。
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”全てぶち壊せ”『怪物はささやく』


『怪物はささやく』本予告

 A・J・バヨナ監督作。

 病を抱えた母と暮らす13歳のコナー。悪夢にうなされる彼の元に、巨大な木の怪物が現れる。これから三つの真実の物語を話すという怪物は、四つ目としてコナーが隠した真実の物語を語るように要求する……。

 バヨナ監督で『パンズ・ラビリンス』のスタッフが再結集というと、これはもう『永遠のこどもたち』じゃあないですか。否応無く期待が高まるところ。

 病に倒れた母親との別れに直面した少年。離婚した父親はすでに海外で、母の入院中は祖母と暮らすことになる。ある夜、夢の中に巨大な木の怪物が現れ、少年にまつわる三つの物語を語り始める。
 怪物は何者なのか、物語の果てに少年は心の平安を得られるのか。少年を中心に、母、祖母との関係とその変化を描き出す。

 とりあえず怪物がお話を三つ語り、それから少年の物語がある、という話運びなので、怪物が勿体つけたりすると少々イライラする。少年側も、もう聞きたくないみたいなことを言い出すのだが、それでは話が進まんだろ……。
 思春期の少年の物語なのだが、実のところ父母との別れは年齢を経てから直面する場合も十分あるので、特有ではなく普遍的なお話でもある。自分が父母との別れに直面したら……ということに対して、もう大人目線で向き合い方を考えてしまうところに、子供らしいわがままを言われるから面倒臭く感じてしまうんだね。そういう意味では、もういい大人であるビリー・クラダップをこのポジションに据えていた『ビッグ・フィッシュ』の凄さが際立つところでもある。
 師匠筋のデル・トロオマージュというよりはティム・バートンオマージュっぽく、先日の『ミス・ペレグリン』に似たロケ地なんかも登場して、意図しないながらもそっちに寄せてしまったのかな。

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 若干話運びがかったるいのだが、実は裏に語られないもう一つの話が隠されていて、その構造にラストで気づかされた瞬間に一気に深みが増すような作りになっている。メインのお話は後半にちょい説明的になっちゃうなど、今一歩という感じでもどかしかったが、語られぬ母と祖父の関係の深みでバランスをとる。

 いや、途中でリーアム・ニーソンの写真が映るから、リーアム=おじいちゃんであり、リーアムの声の怪物もまたおじいちゃんなのであろう、というのはぼんやりわかるのだな。ただ、肝心の少年はおじいちゃんに会ったことがないはずなので、怪物に祖父の面影を見るという展開はあり得ない……と思わせておいて、ああこう落とすのか、と。そこが見えて来ると、この家族の物語にも大いにうなずかされてしまうのだ。

 途中のいじめっ子のいかにもステレオタイプな嫌な奴感から、半端な共感を突きつけて来る傲慢のめちゃくちゃムカつく感じに変わるのも面白かったですね。あとはやっぱりシガニー・ウィーバーお祖母さんの家具を無茶苦茶にするシーンな……あそこも祖父さんがけしかけたのだと思うと、なかなか味わい深い。いや、祖父さんは生きてたらさすがにそんなことさせないと思うのだが、「でっかくて自由なパパ」は物語化して誇張されるとこうなっちゃうのかもしれないね……。

今日の買い物

少林寺』BD

 DVDから買い換え。

少林寺2』BD

 ジェット・リーコレクション。これ自体はイマイチ面白くないが、やっと『阿羅漢』と合わせて三枚揃ったな……。

『強奪のトライアングル』BD

 ツイ・ハーク、リンゴ・ラム、ジョニー・トーが撮ったリレー映画。
 公開時の感想。
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”誰がために剣を”『修羅の剣士』


「修羅の剣士」予告編

 中華映画祭り!

 神剣館最強の剣士、通称「第三の師」。都で賞金稼ぎとして名を挙げた剣客・燕十三は秘技を提げて神剣館に乗り込むが、挑戦しようとした「第三の師」はすでに死んだと告げられる。時を同じくして吉という男が街の妓楼に現れ、下働きとなるのだが……。

 さて、毎回CGチャンバラものはあるので、今作もその一本かということであまり期待してなかった映画。イー・トンシン監督。
 キャストに『ドラゴン・フォー』の悪女・深津絵里ことジャン・イーイェンさんが出ているのでそれが楽しみでありました。あらすじを読むと娼婦役ということで、全然イメージが違うな……と思ったら、それは女優名が間違えて入れ替わってて娼婦役は別の人。ジャン・イーイェンは金持ちのお嬢様で嫉妬に狂う悪女役……またかよ! イメージ通り過ぎるだろ!

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 タイトルは『修羅の剣士』なので、それは当然、この顔中にジョーカーみたいな入れ墨して誰かわからんキャラクターであろう……。演じるはピーター・ホーさん。劇場版『仮面ライダー555』でライダーやってた人。他は『ソフィーの復讐』で見たかな。呑んだくれてて無頼っぽいが、顔と衣装ほどには邪悪な雰囲気はなし。悪人というよりせいぜい「ワル」かな、というぐらい。剣術を極め、「第三の師」と呼ばれる若き天才剣士に挑戦しようとする。この「第三の師」というのは何が第三なのか、第一と第二はどうしたのかよくわからん。三男坊だからそう呼ばれていたのであろうか……?
 が、若くして死んだ兄二人に続き、「第三の師」もまた鬼籍に入っていたのであった。チョイ・シウキョンさん演じる父親に墓標を見せられ、絶望するピーター・ホー。若い頃の無理がたたって身体を壊していることも発覚し、生きる目的を見失う……。

 その頃、町の娼館で有り金全部つぎ込んで泥酔する男が一人。ケニー・リン演ずる一見頼りなさげな男だが、行動の端々に只者ではない感が漂う。
 もちろんこの男が実は生きていた「第三の師」であり、「修羅の剣士」と奇しくも相見えるまでがこれから描かれるのである。
 「第三の師」がいかに剣士としての人生に絶望したかを描くと共に、「修羅の剣士」が自分のために戦うのではない新たな人生を見出すまでを描き、やがてはそれが交わることになる。どっちかというと入れ墨で顔がわからないピーター・ホーさんの方に主役感があるな。

 時代はいわゆる「乱世」ではなく、「剣」は自分の所属する一門の名声や権力とも密接に結びつき、パワーゲームの道具と化している。その中で剣を振るうということは、畢竟、権力争いに加担することであり、弱者をそれによって傷つけるということでもある。「第三の師」はそれを嫌い、生きる目的を見失っていたが、彼を狙っていたはずのアウトロー「修羅の剣士」が、先に道を見出し、彼の道しるべとなる……。

 ケニー・リンさんがいまいち華がなく、モジモジウジウジしている前半は結構もどかしいのだが、話の展開が見えて来ると思いの外、シンプルで面白い。
 そして「第三の師」と幼馴染であり、彼を愛しつつも、お金持ちのお嬢様だから金も権力も手放したくないジャン・イーイェン! 身一つで駆け落ちしたはずが召使が大勢で追いかけてきて、あっという間にテント村を設営してしまうのに「第三の師」ドン引き! 「君にも大地の息吹を感じて欲しい」とか言って田んぼの泥に入るケニー・リンさんに続き、そーっと絹履を泥に突っ込むが「ひえっ!」とか言っちゃうあたりも最高だな。

 正統派なワイヤーチャンバラもたっぷり楽しめ、お話も手堅くまとまってて、「修羅の剣士」の外連味もあって、実にいい映画。ちょっと『妖刀・斬首剣』フォロワーでもあるかな。今回の三本の中では、これが一番良かったね。

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