”闇の中で”『トンネル』


映画『トンネル 闇に鎖(とざ)された男』予告

 ハ・ジョンウ主演作!

 妻子の待つ家に向けて車を飛ばしていたジョンス。だが、途中のトンネルの崩落事故により生き埋めとされてしまう。携帯で生存を知らせたものの、救助は難航し、いたずらに日にちが経過していく……。

 ハ・ジョンウ、オ・ダルス、ぺ・ドゥナということで、これは隙のないキャスティングですね……。手抜き工事によるトンネルの崩落に巻き込まれたハ・ジョンウが車ごと閉じ込められてしまい、ギリギリ通じた携帯電話で救助を要請するも、崩れすぎててなかなか救出されません、というお話。救助を担当するレスキューの隊長がオ・ダルス、帰りを待つ妻役がぺ・ドゥナですよ。
 登場シーン、後ろ姿だけ映ってる女をカメラがずっと追いかけていき、エスカレーター上で事件のニュース映像を見て振り返ると……ぺ・ドゥナ! なかなか狙ってる演出でいいですね。
 そしてテントの中、後ろ姿だけ映ってる男をカメラがずっと追いかけていき、電話を置いて外へ出ると……オ・ダルス! わかってた! 知ってた! ちょっとくどかった!

 救助を待つハ・ジョンウ、水は直近のガソリンスタンドでもらったペットボトル2本、食料は娘への誕生日プレゼントであるホールケーキ。そもそも崩れるぐらいだから地盤も弱く、天候も不順。最初は「一週間で……」みたいなことを言っているオ・ダルス隊長だが、どんどん日にちは押してくる。
 トンネル内パートと救助隊パートの二つが同時に進行し、ハ・ジョンウはもう一人の生存者を発見、ぺ・ドゥナは現場に駆けつけ救助隊を料理でサポート。が、明るいムードが漂ったのも束の間、手抜き工事によって現場の図面が間違いだらけなのも発覚。山の上から掘っていたドリルはまったく見当違いの場所で、掘り直しが確定……。

 後半のトンネル内はイベントも尽きて動きがなくなってくるが、代わりに救助隊とそれにまつわる政治的状況が絡んで、トンネル外が一気に緊迫してくる。携帯の充電が切れ、通信が車のラジオ放送を使って外部から呼びかける一方通行になり、それはつまり外部から生存を確認する手段がないということを意味する。三週間を過ぎて、生存の確率が下がるに連れて、崩落を誘発するかもしれない近くのトンネル工事を中止してたのを再開しろとの圧力が……。さらに、救出現場でも作業員に死人が出て、「世論」が一気に救出作業中止に傾く。あらゆる人命より経済的効率が優先され、ぺ・ドゥナに救出中止を認める書類へのサインが迫られる……。

 国民の六割が工事再開を求めている!とか言われて、そいつら関係ない他人だろ、こりゃあ書類をビリビリに引き裂いて、役人の頭にぶちまけるしかないだろ、と思ったら、「最期のラジオ放送」で、「サインしてごめんなさい」と涙ながらに謝るぺ・ドゥナ! おーい!
 観客はまあまだ生きてるのを知ってるわけで、これは辛すぎる。同調圧力に屈するんじゃない! この展開だと、生還した後も「あいつは俺を見捨てた」と、なにがしかのしこりが残りませんかねえ。まあ僕は根に持つタイプだからそう思うだけかな……。

 先日の『バーニング・オーシャン』と並んで、完全なる人災映画。スピード感のない真綿で首を絞めるような空腹感と孤独感がトンネル内に充満し、助けたいと願えば願うほど無力感に歯噛みするしかない。そしてまた、それを容易く踏みにじろうとする人間がいるわけだ。

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 オ・ダルスとハ・ジョンウの友情、という毎度のお約束も観られて、韓国映画ファンにも楽しい一本。

暗殺(字幕版)

暗殺(字幕版)

”獣と呼ばれた男”『スプリット』(ネタバレ)


『スプリット』本予告

 シャマラン監督作!

 級友のクレアの誕生日パーティに招かれたケイシー。同じく同級生のマルシアと送ってもらう帰り道、車に乗り込んで来た謎の男によって、三人は拉致されてしまった。地下室に監禁された三人の前で、男はいくつもの人格を見せる。彼は何者なのか? その目的は?

 『ヴィジット』で息を吹き返し、絶好調のシャマラン! 次なる新作はジェームズ・マカヴォイを起用し、多重人格者もの! 今回も衝撃のラスト!と煽りまくっているが、まあ別の意味で衝撃的でありましたね。

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 23の人格の持ち主、というマカヴォイだが、3つの人格が他の人格から主導権を乗っ取っている状態で、自然とこの三役が中心となる。男性、女性、少年と演技のバリエーションがわかりやすい。さらに男性の人格が別の人格のふりをしている演技内演技もあり、複雑なことを嬉々としてやってる感じが楽しいですね。もちろんそれと裏腹に、多重人格形成の根源として児童虐待が匂わされ(この辺りは『シックス・センス』にもあったモチーフ)、悲痛さとそれによる居心地の悪さも共通して流れる。

 さらわれてくる三人の少女の内、主人公であるケイシー(演じるはアニャ・テイラー・ジョンソン)にも、家庭環境に問題があることが伺え、さらに過去にこれまた性的虐待があったことが、割と露骨に……おおう……叔父が気持ち悪っ……! このアニャさんはいわゆる美女じゃないがゴスっ子的に周囲から浮いたムードと目力の持ち主で、なかなかインパクトがある。

 マカヴォイを診ている精神科医が、彼を稀有な症例として見つつ、そうして精神に疾患を持つ人間に超常的な能力が発言するという研究を発表。この婆さんも妙な生活感があって、いい味出してるな。この辺は『ヴィジット』から受け継がれたところか。

 監禁にまつわるサスペンスの中で、これら三つの糸が次第に縒り合わされ、一本の線となっていく。最初は互いにどう関係があるのか見えづらかったのが、24番目の人格の誕生をキーにして、物語の構造が見えてくる。

 「獣」と呼ばれる超人の誕生は、他の監督の映画なら「ありえない!」を基本として、もしかしたら本当に……と思わせるサスペンスとして展開しそうだし、今作も一応そういう話運びになってるような気がするのだが、そこはまあシャマランなので、「それは、当然、起きます!」と思いつつ見てしまうところ。
 ところで、シャマランで超人というと……?ということで、そりゃあ『アンブレイカブル』のことになるわけで、今作はそれと世界観を一つにしていることがエピローグで明らかになる。
 うーむ、15年間、「観たいけど、ねえだろうな」と思っていたことが不意に実現したからビビリまくったな……。もう一本作るそうですよ。最後にハゲが出て来たところでも大満足だったが、次はサミュエルも登場か?

 いくつか展開の上で消化不良の部分があって、ケイシーは叔父さんをぶち殺すのかと思ったが、あれが温存されてしまうのが、次の超人誕生のキモなのかもね。マカヴォイの行く末も気になるところで、新ヴィランとして不死身の男と対戦することになるのであろうか。

 最近、ユニバース構想が大流行りだが、シャマランが「じゃあ俺も俺も!」ということでシャマラン・ユニバースをぶち上げたような映画。Tダイヤモンドとか、宇宙から来たラッパーとか、幽霊の見えるデブとか出てきたら、ますます面白くなりそうではありますね。

”砂漠に殺されろ”『ノー・エスケープ』


『ノー・エスケープ 自由への国境』予告編

 キュアロン監督作?

 メキシコからアメリカへと不法入国しようとする移民たち。闇ガイドの案内で徒歩で国境を超えた彼らを待ち受けていたのは、謎の銃撃だった。摂氏五十度の灼熱の中、モイセスら生き残りは必死の脱出を図るのだが……。

 監督はホナス・キュアロン……かのアロフォンソ・キュアロンの息子さんだそうですね。今作はメキシコとアメリカの国境線と周辺の砂漠を舞台にした、「広いけど閉鎖状況」もので、『ゼロ・グラビティ』にも通じますね。

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 製作兼主演にちっちゃいイケメンことガエル・ガルシア・ベルナル。職業、自動車整備工。アメリカ入国は二回目。徒歩で砂漠越えして入国。国境線と言っても長いので、手薄なところはしょうもない鉄条網が一本走ってるだけで、あっさりと国境越えしてしまう。まあバカ広くて、ここに壁をおっ立てようというのがどれだけバカな事かは明白なわけだ。

 さて、国境を越えても、人間のいるところまではまだまだ延々移動せねばならんので、水を節約しつつ歩き続ける不法入国者軍団……が、この彼らを謎の狙撃が襲う! 近所で許可のいらない兎狩りをしていたハンターが、何を思ったかぶっ放しまくる。
 どのシーンも撮影がなかなか良くて、砂漠の広さと見通しの良さ、狙撃に要している距離感などをスムーズに表現してくれる。デブの人が歩くの遅くて後から来てたガエルたちの一団は難を逃れ、狙撃者の存在を知る。なんとかやり過ごそうとするが、ここで狙撃者の飼ってる猟犬が猛ダッシュ!
 この犬の身体能力、殺傷能力、俊敏性が如何なく発揮され、丸腰の人間は追いまくられるのみ! 唯一、登坂能力だけは人間が上なので、手を使って高いところによじ登って逃げるしかない。だが、さらにそこに狙撃が……。
 追われる立場からすると犬が超怖いんだが、逆にパートナーである狙撃者からしたらほんとに頼りになる相棒なのね。健気で忠実で、殺人も辞さない。この犬との二面作戦で、不法移民たちはどんどん数を減らされていく。
 岩から岩に飛び移って逃げるシーンで、デブが飛ぶところは最高だったなあ。なんでデブがアクションするとこんなに面白いんだろうね。

 原題は「Desert」で、オープニングとエンディングの両方でご丁寧にタイトルが出るのだが、まさに砂漠自体が主役といった趣で、サボテンや毒蛇など砂漠ならではのギミックも続々登場。単に横断するだけでも、このロケーションを通過するだけでイベント目白押し。

 この狙撃者を狂人と呼ぶのは簡単だが、かの国の南部の銃社会において、移民排斥を口にする大統領が誕生した現在、かくなる人間が登場するのは必然ではないか、という気がする。もう少し言うなら、より排外感情が高まれば、ごくごく普通に生きている人間がああして銃を取り、銃撃に走ることもあり得るのではないか。「合法化」されれば、このような行為はあっという間に日常になるんではないかな。狙撃者が犬を愛する感情を持った人間であることは、意図的な描写だろう。
 現実と違うとすれば、「不法移民を撃ち殺してやるぜ!」と威勢のいい奴は、だいたいあそこまで手際よくやれんだろう、ということかな……。

 小品ながらピリッとチリソースの効いたホットドッグという感じで、悪くない後味。なかなか面白かった。

バベル (字幕版)

バベル (字幕版)

”守りたいもの”『ワイルド・スピード ICE BREAK』(ネタバレ)


『ワイルド・スピード ICE BREAK』予告映像

 シリーズ第8弾!

 レティとのハネムーンを過ごすドミニク。だが、新たな敵の魔手が迫る……。ホブスの頼みで重要ミッションに参加したドミニクとファミリーたち。しかし、意外な男の裏切りによりホブスは投獄されることに……。

 前作はあまり映画としては評価していないのだが、オープニングは最高、エンディングはポール・ウォーカーにどうしたって泣かせられる作りなので、トータルの満足度は高かったですね。

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 さて、ブライアンの離脱を経ての続編。ハネムーン中のヴィン・ディーゼルに接触してくる新たな敵、シャリーズ・セロンが接触してくる。なぜか彼女に協力し、ロック様や仲間との共同ミッションの際に裏切るヴィン・ディーゼル。なぜ彼は敵に回ったのか?
 この謎を軸に、空中分解しかけのファミリーには、ロック様に加えて収監されていたジェイソン・ステイサムが助っ人として参加して新チームでセロン一味に対抗することに……。あ、スコット・イーストウッドも出て来て、みんなにいじられます。

 ここ数作の全てに、実は天才ハッカーシャリーズ・セロンが黒幕あるいは共犯者として絡んでいた!という後付け設定が飛び出して、話の作りは少々雑かな、と思う。実はドムが裏切ったわけは、人質を取られていたことが原因で、それはミシェル・ロドリゲス不在時だけの恋人エレナと実はその間に密かに生まれていた赤ん坊だった……というのも、今作から登場の壮絶な後付け。ドムは赤ん坊の存在を知らず、人質にされて初めて知ったという設定。さらに、任務に手間取ったことを咎められたドムの前でエレナは殺されてしまう……。うーん、これは完全な作劇の都合だな……。あとでレティ以外に母親がいると話がややこしくなるから殺しただろ……。

 そんなお話の強引さはさておき、アクションシーンは今回は整理されていてやたらと見やすい。一時期、誰も彼もが殴り合いしてて、もう車映画じゃなくなってきたな、と思いかけていたが、今作はヴィン・ディーゼルは車の運転すごすぎ! ロック様は筋肉が無敵! ジェイソン・ステイサムは射撃と格闘が速すぎ! と、キャラごとの個性に合わせて役割分担、見せ場の分担が為されている。ステイサムの機内バトルは若干『トリプルX 再起動』と被っているが、そろそろいい歳かと思ってたけどステイサム史上においても稀に見るキレキレっぷりではないか。前作のオープニングで「すでに全員倒してました」という演出の裏で、実はこういうことが起きてたんだね……!と想像させるに充分ですよ。

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 さらに、「ファミリー」と口癖のように言ってるのがブライアン不在でますます空洞化しないかと心配されていたところを、安直に口だけで言うのじゃなく今作のテーマにまで昇華させたあたりも良し。今までのファミリー、新しいファミリー、ジェイソン・ステイサムというライバルキャラのファミリーを対比させて、互いに受け入れ合う過程を印象付ける。F・ゲイリー・グレイ監督による大変手堅い物作りですね。
 中盤の「ゾンビタイム」もクライマックスの「アイスブレイク」も、まあここまで来たかという感じではあるが、全て自動車ならではのアクションで統一していて、これは今作において一旦仕切り直しを図った成果だろう。

 さて、赤ん坊を無事に助け出してのおなじみBBQ。まだファーストネームを決めてなかったので、

「紹介する……新しいファミリー、ブライアン!」

 わーっ、パチパチパチ……! うむむむむ、実は死んでるんだけど、作中では死んでない設定になっていて、でも扱いは完全に死んだことになってるブライアン……! 感動的だが1〜2割ほど釈然としない引っ掛かりが残るラストでありました。

”営業時間を過ぎたら”『午後8時の訪問者』


『午後8時の訪問者』監督メッセージつき予告

 ダルデンヌ兄弟監督作!

 午後8時に鳴った診療所のドアベル。だが、当直のジェニーは営業時間を過ぎていたのでそれを無視。だが、翌日、ベルを鳴らした少女が遺体で発見される。監視カメラに助けを求める姿が映っていたのを見たジェニーは、名前も知らない少女の足取りを追い始める。

 カンヌでは微妙に不評だったというこの映画。まあ確かに、『少年と自転車』に『サンドラの週末』と比べてもさらに地味だったな……。

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 場末の診療所で働く主人公、不器用そうな研修医に怒り、閉院時間を過ぎて鳴らされたインターホンを無視しろと命令。こんな時間にくるやつが悪い、もっと割り切れ、とお説教。よくある歪んだ正論という感じで、こういうのは絶対に人の心を打つことはないわね。そして、この時インターホンを押していた少女が、翌朝に死体となって発見されたのであった。

 殺人事件はもちろん、医者の領分ではないのだけれど、目の前の人を救えず、そもそも手を差し伸べもしなかった上に、偉そうに説教かましていた事実は消えず、密かに事件の真相を追い求めることに。
 一応、ミステリ的な構図になるのだが、捜査(?)は足を使った地味なもので、特段意外な真相やトリックが隠されているわけではない。主人公は大手病院への転職も決まっていたのだが、罪の意識からそれも蹴って、診療所に居残って被害者の足取りを追い続ける。

 スコア一切なしで、環境音だけで淡々と展開する、まさに砂を噛むような地味さ。医療の場面でも、事件の捜査でもひたすらに対症療法に明け暮れる、まったく華のない地味な姿……。だがまあ、これこそが医者の本分である、と描き続ける。

 深さ2mの穴からは自力では脱出できない、という大変に地味なアクションシーンなどもあり、地味というかリアルの極みまで行っている感じで、全体としては大変な力作なのだろうが、個々のシーンはなかなか印象に残りづらい。が、ボタンの落ちた小さな音を拾って、ここからは「音」が重要ですよ、と印象付けてくるクライマックスは、なかなか見応えがありましたね。

 市井の人々の姿と社会問題、そしてそこに対峙する者の矜持というテーマはまたも貫かれていて、地味ながらも良作でありましたよ。

”紅蓮の塔”『バーニング・オーシャン』


『バーニング・オーシャン』本予告

 ピーター・バーグ監督作!

 メキシコ湾沖80キロ、ディープウォーター・ホライゾン。安全上の懸念から掘削テストも終わらず、採掘が停止中だったが、工期の遅れと採算を理由に、石油会社の幹部が再開を迫る。だが、つかの間、安全かと思われた直後、異様な警報音が鳴り響き……。

 マーク・ウォールバーグ主演で『ローン・サバイバー』に続き、また実話物。仲いいんだな、この二人は……。で、またヒロイックに熱く煽りまくるのかと思いきや、状況的に追い込んでくる容赦なさだけはそのままに、事故を前にした人間の無力さを突きつけ、男たちの熱い友情とか発揮してる暇、一切なしというリアル路線に……。

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 マーク・ウォールバーグカート・ラッセルらの現場に序盤から漂ってくる「なんかおかしくない……?」「やめといた方がよくない……?」という不穏な空気に対する、上役マルコビッチによる「これはつまりこういうことだ!」という正常化バイアス。作業日程は押しまくってるし、伸びれば伸びるほど予算もふくらむ。そろそろ再開しないとまずい、という、実際に油が出るのか、機材のメンテナンスは万全かということとはまったく関係がない経済的事情が優先され、圧力に負けて現場も容認……。
 経済的事情の前には、安全性や人的資源が真っ先にないがしろにされていく、という企業あるある、社会人あるあるを突きつけつつ、結局、ことが起きるまでは誰も真剣に受け止めないし、「まあ大丈夫だろう」という安直さからは逃れられないということを描く。歴史に学ぶと言うと簡単だが、誰もそんな「歴史的悲劇」が自分に起こるとは、リアルな意味では想像できないのだ。いかにも頼れる現場監督然としているカート・ラッセル(カーくんは実在の人には似てなかったな)も、一度は容認してしまうのがまた恐ろしい。

 予告編では、石油がにじんでるのかと思ってた映像は、実は泥水だったわけだが、そんな単なる水で大火災が起きちゃうという現実の恐ろしさ。とにかく映像はド派手で、その場の地獄っぷりを素晴らしい臨場感でたっぷり堪能できますよ。
 反面、話は地味で、もう事故が起きちゃったら避難するだけで何もできない。一応、被害の拡大を防ごうとはするのだが、もはや収拾はつかず。小さな成功を挟んで被害を減らし、ちょっとしたカタルシスを入れてくるのが、パニック映画のありがちなパターンなのだが、実話は厳しいのだ……。
 よくあるパニックものではあちこち燃えたり崩れてるのに結構延々と広い空間を走り回ってたりするが(逆にその長さを沈むまでの時間の表現として使ったのが『タイタニック』なわけだ)、今作はじきに逃げ場がなくなり、人間の動ける空間はほんの少しになってしまう。そのせいで、人間の活躍する見せ場までなくなってしまうという……。三つ四つ山場や見せ場を用意するのが普通の現代エンタメとしては弱いんだが、まあそこを煽りすぎないのがコンセプト通りで、逆に今作の良さなんだと言えるところ。

 事故収束後の処理のノーカタルシスっぷりも合わせ、むしろ無味乾燥な印象さえ残る、ドライかつ怖い映画でありました。

今日の買い物

トリプルX ネクスト・レベル』BD

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 これは未見だったシリーズ二作目。『再起動』のためには必見だな……。