”うつくしさとは”『ブラインド・マッサージ』


映画『ブラインド・マッサージ』予告編

 ロウ・イエ監督作。

 マッサージ店を経営するシャーの元に、同級生のワンが恋人を伴って訪ねてくる。商売に失敗したワンを助けるため、彼をマッサージ店に雇い入れるシャー。だが、若手マッサージ師のシャオマーが、ワンの恋人のコンの色香に惑い……。

 『二重生活』もなかなか強烈だったロウ・イエ監督の新作。

chateaudif.hatenadiary.com

 最近、自分の通っているマッサージ屋も目の不自由な人が施術してくれるのだが、その所作を思わせるシーンがあちこちに。いや、今作はこのディテールと撮影だけで、まあ細かい話はどうでもいいだろ、と思わせる迫真感でありました。
 役者は演技しているだけで実際は見える人、本当に見えない役者でさえない人が混在していて、まあルックスでだいたいの区別はついてしまうのだけれど、スクリーン映えする演技と存在感はどちらも満点。

 従業員同士の中でやたらモテる人が「見た」ところあまり可愛くなくて、客に人気のある人は確かに美人だが自分では別に自覚がないあたり、日頃気にしてる美醜の認識がどれほど視覚に依存してるかに気付かされますね。
 彼らの日常描写の中の細かいディテールを徹底的に積み重ねて来るのだが、無論、性的なこともそこには含まれる。何ら変わりないことがある反面、認識がここまで違うのかと思わされることも。また、生まれた時から全盲の人と、後天的に視力を失った者の差異、さらに「視力を取り戻す」という展開もあって、それら全てを巧みなカメラワークで追体験させて来る。

 見ていて、目から鱗の連発で、日頃、自分が何気なく享受している視覚の恩恵を意識させられるし、また、それがない人の世界の、ある意味変わらぬ豊潤さも見えて来る。
 結婚願望強すぎでしょっちゅうお見合いしている院長のギラギラした感じや、その院長に頼ってくる元同級生の金のなさ、その間で全然ぶれない副院長の姿も、まさに人生の深さだなあ、という気がするのであります。

 原作小説があるのだが、小説なら悪く言えば字で書けばいいだけのこういう設定を、ここまで完璧に再現してみせるのがまずすげえとしか言いようがないし、軽くやったらトンチキな展開になりそうなところに、説得力を持たせてしまうビジュアルの数々もすごいですね。一見の価値はある一本でありました。

二重生活 [DVD]

二重生活 [DVD]

ブラインド・マッサージ (エクス・リブリス)

ブラインド・マッサージ (エクス・リブリス)

”実は上海の恋”『シチリアの恋』(ネタバレ)


【Kstyle】イ・ジュンギ主演映画「シチリアの恋」予告

 チョウ・ドンユイ主演作!

 結婚を約束したジュンホとシャオヨウ。だが、突如ジュンホが別れを告げ、オペラの勉強のために故郷のイタリアに帰ると告げる。その後、連絡を絶って3ヶ月。孤独な日々に沈んでいたシャオヨウの元に、ジュンホの死の知らせが……。

 さて『七月と安生』ではちょっと度肝を抜かれたので、今作もちょっと気になっていたところ。韓流スターと台湾のイケメン俳優に囲まれ、三角関係映画か?と想像していたところ。
 まあしかし、正直出来には期待していなかったが……すごかったな……悪い意味で。

chateaudif.hatenadiary.com

 主演はイ・ジュンギ。二十代前半ぐらいの役だが、この人、結構昔から見るよな……。『王の男』ではほんとに若かったが、今や三十過ぎてるよ! 『御法度』に出てた松田龍平の今現在という感じね。今作でスクリーン復帰ということだが、去年に『バイオハザード ザ:ファイナル』で走らされてた方が記憶に新しいんですが……。

chateaudif.hatenadiary.com

 お話は建築事務所で共に働く二人が別れるところから始まり、一人、故郷のシチリアに帰ったイ・ジュンギが火山に落ちて死んだとの訃報が届く……。
 まず邦題から突っ込んでおくと、話の舞台は主に上海で、シチリアはスポット的に登場しますけどそこで恋愛はしませんからね。フラれてやさぐれていたチョウ・ドンユイ、訃報にますます荒れ狂い、葬式にも出ずにどんどんダメな人になっていく。建築事務所も、全然仕事できないのに彼氏の採用条件として無理やり採ってもらってたことが明らかになり、次の仕事をぶち壊しにして休養を申し渡される。
 「何で死んだのよ!」と家で荒れ狂い、窓から物を投げ捨て、湯を沸かしっぱなし、風呂を出しっぱなしで眠りこみ、下の階に引っ越して来たピアニスト、イーサン・ルアンのピアノを水浸しにして、自らもガスでおっ死ぬ寸前に……。
 職場でも同僚に憎まれ口を叩き続け、「あんた、私の彼のこと好きだったんでしょ!」と自らの執着心が怖い発言を……。さらに、彼が手がけていたバーの内装の仕事を無理やり引き継ぎ、溶接工も追い返して一人で作業。

 もうダメだ! この女、もうダメだよ! メンヘラすぎ! いやあ、すごい演技力なのは間違いないが、これは期待していなかったよ。共感度ゼロなのに、なぜか事務所の所長やイーサン・ルアンは厳しいこと言いつつこの女に甘いのだ……。が、まだ映画は半分弱で、この後、実は生きていたジュンギ再登場で、メンヘラが二乗になっていくのである。

 父親の再婚で涙目になっていたドンユイに一目惚れ……という恋愛の始まりからしてすでにしんどいのだが、ここから二人の大学時代が始まる。正直、このパートがまだ一番観られたんだけど、韓国語喋るイ・ジュンギと中国語のドンユイが、お互い両方理解できるから、という理由でそれぞれの言語を通し、全然ギャップ感がないのもすごいな。
 フラッシュモブでドンユイのハートをつかもうとするジュンギだが、あれだ、韓流スターにはダンスシーンを絶対入れなければならないという縛りでもあるのか……?

 なんだかんだで付き合い始めた二人(性的な匂いはゼロです)、しかし実はジュンギは父の遺伝で脳に腫瘍ができていたのであった……。やっと最初に別れたシーンにつながり、全ては狂言だったことが明らかに。葬式も生前葬で、すべてはドンユイに自分のことを忘れさせるためだったのだ……。まあそういうことなら、二度と会わずに大人しく死を迎えればいいと思うのだが、やっぱりまた上海に戻り、二人で暮らした部屋の上の階の部屋を借りてストーカーモード発動。きっちりイーサン・ルアンには見られてバレバレだったりする。

 別れずに死を看取ってもらうか、別れて本気で姿を消そうとするけど見つけ出されてしまうか、どっちかならいいと思うんだが、別れて姿を消したけど死ぬまでまだ時間があったので未練がましく周囲をちょろちょろし続けるこの展開、やばいな! で、このしわ寄せを全てを背負うのが建築事務所の所長……気の毒すぎだろ!
 全然溶接の進まないドンユイを助けるため、夜中に作業を進めるジュンギ、駆り出される所長……。ついに昏倒し鼻血を吹くジュンギを車に乗せて病院に搬送。ここで鼻血がカピカピの塊になって鼻にくっついてるメイクが、ものすごいリアリティだった! 客席で、むしりたくて思わず手が動いたからな。メイクさんの渾身の仕事じゃない? 展開には一ミリもリアリティないんだが!
 手術終わって縫い跡のある後頭部(ダブルの人)を見せた後、ニット帽をかぶる『恋空』方式で通すジュンギ。もみあげ見えてるぞ……。
 このあたり、韓流スターパワーが悪い意味で牙を剥きすぎという感じで、アイドル映画にせよもうちょいなんとかならんかったんか……。

 突っ込みどころを上げてるともうきりがない。韓流スターもそうだが、チョウ・ドンユイの『七月と安生』に続くふてぶてしいキャラもハマりすぎてて、逆に反感しか買わなくてすごいよ。脚本の時点ですでに正気の沙汰とは思えないのだが、キャスティングだけは妙に噛み合ってしまって逆効果。演技力を発揮すればするほど痛くなっていく……。関わり合いになりたくはないけど、これはこれで一つの人物だな、と認めざるを得ないレベルに到達……。
 ラストカットの涙で韓流スター力もねじ伏せて持っていくあたりはさすがだったが、もうちょい出る映画は選んでほしいものである。料理の仕方によって、トリックスターになるのか、わがままなモンスターになるのかで違ってくるのな……。チャン・ツィイーの『ソフィーの復讐』はもうちょい面白かったからな。
 今年のベスト級とワースト級をこれで見てしまったことになる。新作は金城武と共演らしいが、果たして日本上陸はあるかな……?

王の男 スタンダード・エディション [DVD]

王の男 スタンダード・エディション [DVD]

”永遠のトリックスター”『七月と安生』(ネタバレ)


『七月と安生 / SOUL MATE / 七月與安生』 予告編 Trailer

 大阪アジアン映画祭2017、九本目!

 上海で暮らす李安生の元に、映画会社からの連絡が届く。彼女が登場するweb小説『七月と安生』の作者、林七月を紹介してほしいというのだ。安生と七月は幼馴染で、親友だった。小説には、二人の出会いから現在に至るまでが克明に描かれ……。

 今年もいよいよラスト一本となりました。全然予備知識なしで観たのだが、web小説というトレンド要素を、十数年に渡る女子の友情と絡めた現代劇。七月=チーユエ、安生=アンシェンという人名です。
 同タイトルのweb小説が話題となり、作者である七月を探すための取材が安生の元にやってくるところから始まる。安生役はチョウ・ドンユイ。まあしかし最初から度肝を抜かれるのだが、この子の演技と存在感が半端ねえ。いったい何者なんだ?と思ったら、チャン・イーモウが『サンザシの樹の下で』で見つけてきた子か……。同じくイーモウ監督の『初恋の来た道』でデビューしたチャン・ツィイーに匹敵する才能ではないか。昔、ポスターを見た時に、「今度は地味な顔の子だな……」と思ってスルーしたのであった。

 平凡だが幸せな家庭に育ち、波乱のない人生を歩もうとする七月と、父親不在の家庭で自由を求める安生の対比で物語は進む。間に立つ男が出てきて、子供の頃から仲良かった二人は三角関係になっていくのだが、安生は恋愛関係からは一歩引いて、大人になる前に街を出て行ってしまう。
 まあこの安生のキャラがフリーダム過ぎてびっくりするのだが、奔放なようでどこかしら自傷的でもあり、あえて七月と離れていくような行為には切なさが漂う。互いに手紙をやり取りする展開があるのだが、安生が送った手紙は届いても、七月が返事を書こうとした際にはもう安生は元の場所にはおらず、鉄道や船で違う場所に行っていて届かない。すれ違いは徐々に深まっていく。

 これらが全て、web小説の連載という形で少しずつ語られていく。作者である七月の心の内を読む安生は何を思うのか……? と、映画は二人の心理を克明に追っていっているかに思えるのだが、成長した七月はなかなか登場しない。
 物語が核心に迫るかと思った瞬間にひらりとかわされ、人を食った笑みを見せる安生……。彼女が自由を得た代償として、七月は平凡な人生を歩まねばならなかったのか? この小説は、そういった安生に向けた恨みつらみなのか? 今、七月はどこで何をしているのか?

 トリッキーな構成で、ミステリ的に謎が謎を呼んでいくのだが、いわゆる「信頼できない語り手」による過去回想は、目の前に展開された映像が作中で起きた真実とは限らない。事実として語られた少女時代から、大人になろうとする後半にかけて物語はドライブしていく。次第に虚実の境界は曖昧になる。

 子供の頃からいたずら好きで、本心をなかなか見せないキャラクターとして描かれる安生は、どこか自身の人生を冷めた目で見ており、規定のレールを嫌う。時に反感を買ってでもそれを飛び越えようとするし、またそれをメタ的に解釈してもみせる。主人公であるのにトリックスター的な存在であり、物語をかき回してくる。
 そんな彼女もまた、長じるに連れて人生の平凡さの中に落とし込まれていくのかな……と、夫と娘を持った安生の姿を見て観客は感じるのだが、いみじくも娘が告げる。「七月は、お母さんのペンネーム」……!

 落ち着いた平凡な大人になったかのように見せながら、トリックスターはやはり永遠にトリックスターであるという結末が、実にこのキャラクター、演じているチョウ・ドンユイに似つかわしく、唸ってしまったね。
 その構成ゆえに二人の関係性は、リアルさよりもフィクショナルさの方が際立ち、物語としての面白さが先だったように思える。ただ、このお話自体がすべて安生の語ったものであり、実は七月視点のシーンは一瞬たりともないことは踏まえておきたい。人は自身の目をもってしか人生を、世界を見ることはできないし、安生は安生の価値観でしか物事を測れない。二人の関係は、結局はどこかしら一方通行のままで終わりを迎え、残された安生は、自らの中に残った七月の足跡をたどり、彼女を弔い続ける。どこまでもトリックスターとしてだ……。

 今回のABC賞を取ってテレビ放送が決定したわけだが、それも納得で、エンタメ性では今年見た中ではトップだったんじゃないかな。同日に上映された『姉妹関係』と同じく、二人の少女の関係性を描いているようでいて、社会的しがらみからアプローチした前者に対し、逃れようのない人間の「さが」を描いているようでもある。

 今年のアジアン映画祭もこれにて終了。後半に来て一気に盛り返したなあ。今年も堪能しましたね。

今日の買い物

ニューヨーク1997』BD

 カーペンター監督作。『エスケープ・フロム・LA』はitunes版で持っている。


巌窟王』BD

巌窟王 Blu-ray BOX

巌窟王 Blu-ray BOX

 DVDから買い替え。画質もめちゃ綺麗でいい買い物したわ。


戦国BASARA The Last Party』BD

 4枚組につき、当時買い渋ったものが、今や投げ売りになっていたので購入。ブームの終わりって悲しいな!
 公開時の感想。
http://chateaudif.hatenadiary.com/entry/20110605/1307266487

”信義を賭けて”『グレートウォール』


マット・デイモンが「万里の長城」で大暴れ!『グレートウォール』予告編

 チャン・イーモウ監督作!

 シルクロード、中国国境近く……。部隊を率いてやって来た傭兵のウィリアムは、深夜に謎の生物の襲撃を受け、仲間を失いながらも辛くも撃退する。馬賊に追われたウィリアムと相棒のトバールは、やがて巨大な城壁へと追い込まれる。それこそが秦代から続く万里の長城であった。防衛に当たる禁軍に捕らえられた彼らは、やがてそこで未曾有の戦いが始まることを知る……。

 『金陵十三釵』の記憶も新しいですが(おまえだけだ!)、またまたチャン・イーモウの米中合作がやって参りました。今作は宋の時代、黒色火薬を求めて中国に密かに入ったマット・デイモンを始めとする欧米人たちが、万里の長城での戦いに巻き込まれるというお話。ちょっと常識はずれの物々しい軍備が敷かれる長城に襲いかかって来たのは、中国古来からの伝説の魔物「饕餮」!

chateaudif.hatenadiary.com

 まあバカな話なんだが、想像してたよりトンデモ感はなく、古式ゆかしい神話に基づいてたりして、意外にまとまっている。マット・デイモンウィレム・デフォーこそ出ているが、完全に中国映画テイストで、矢が飛べばチャン・イーモウとすぐわかる大袈裟さ。最近、中華映画祭りでCGのモンスターものがちょいちょい公開されているが、あれの何倍か金がかかっているだろうだけあって、CGの精度も比較にならない。
 また大仕掛け満載の万里の頂上も最高で、太鼓をヌンチャクで叩く意味不明シーンを皮切りに、多彩な武装で饕餮を迎え撃ち、死亡率高そうなバンジージャンプを敢行! 適当にグロいところもよし。長城は長いから長城なのに、迎え撃ってるのはどう見ても一部だけというあたりもいいですね。
 そして、そんな大攻防戦が無に帰す終盤の展開、無理やり繋げるクライマックスもいいぞ! 人の命が安い!

 相変わらず自意識が薄そうで、今作でも「幼い頃から戦場でゴミ拾いをしていて、なし崩しに傭兵になった。どこの陣営にでも構わずついて戦った」というボンヤリキャラなマット・デイモン。禁軍生え抜きの将校であるジン・ティエンと対比になっている。「おまえに大義はないのか」と言われ、「ないない、誰も信じてないよ」と言っている。『ディパーテッド』でもその空虚さゆえに邪悪であるところの『インファナル・アフェア』のアンディ・ラウのキャラを演じたが、いみじくもそのアンディ・ラウも軍師役で出ているのな。そのアンディ・ラウの前でマット・デイモンが過去を悔いるシーンは、まさに鏡に対してしゃべっているような含意がある。
 その反面、槍突きつけられて長城の上に連れて行かれた時に、思わず下の方を覗いちゃう呑気な感じがいかにもマット・デイモン的鈍さでいいなあ。

 ジン・ティエンは英語がしゃべれるキャラで、『キングコング』であまりに台詞がなかったからあまり上手くないのかと思ってたわ……。今回は普通に主役級で、「地元の星」ですね。コネで出てる女優と言われているが、今回は出演作の中では一番良かったんじゃないか。
 全然台詞のないエディ・ポンがいまいち勿体無いが、皿洗いやらされているルハンは意外に推されていたのかもな……。この辺り、役者の持つ政治力が垣間見えるところ。もちろん、最強はジン・ティエンちゃんなんですが……。

chateaudif.hatenadiary.com
chateaudif.hatenadiary.com

 ヒットはしなかったようだが、こういうバカな映画には大コケさえも勲章じゃないか。マット・デイモンが本作をネタにアカデミー賞でもいじられていたし、何がしかの記憶には残ったんでは、という気がしますね。最初から最後まで楽しめた大作で、3D、IMAXにも耐える迫力。まあこれに懲りずにレジェンダリーにはまたやらかして欲しい。中国発の怪獣(応龍とかそういう奴な)がゴジラやコングと対決するのにも期待したいしな……。

”戦火の華たち”『金陵十三釵』


星衛HD電影台 金陵十三釵

 チャン・イーモウ監督作!

 1937年日中戦争時、陥落し、日本軍の占領下に置かれつつ合った南京。牧師の死んだ安全区の教会にやってきた葬儀屋のジョンは、逃げ込んできた女子学生や娼婦をかばい、聖職者に成りすまして日本軍の追求を誤魔化そうとするのだが……。

 南京事件を主題にし、日本軍に占拠された南京で、教会の幼い女子生徒たちをかばう葬儀屋の米国人と、そこに転がり込んできた娼婦たちの「奇策」を描いた映画。まあ題材が題材なので、日本では公開されないわけだが、実際に見てみると「この程度か」と拍子抜けするのもいつものことであります。
 市民会館での企画で、舞台付きのホールにプロジェクターで本国版DVDに字幕をつけての上映とのことで、まあ画質が良くなかったのは残念でありました。

chateaudif.hatenadiary.com

 映画は主にクリスチャン・ベール演ずる葬儀屋視点で描かれる。教会の牧師を埋葬しにやってきたが、日本軍の侵攻が始まり、戦果を避けつつかろうじて教会にたどり着く。が、もはやそこに大人はおらず、助手の少年と逃げ込んできた十三人の女子生徒が残るのみ。この子役たちが実に素朴な感じなのだが、チャンベールさんの気合い入り過ぎな演技とギャップが激しい! このあたり含め、全体的に日中米合作らしいちぐはぐ感をちょっと感じたところ。
 この後でやってくるのが色街から逃れてきた十四人の娼婦たち。半ば強引に教会に入り込んで地下室に匿われることに。
 さて、統制の取れていない日本兵が学校に入り込んで、地下室に逃げ込めない女生徒たちをレイプしようとするのだが、チャンベールさんは葬儀屋から偽牧師に変装し、「ここは神の家で、傷病施設だ!」と赤十字マークを広げて思いっきりハッタリをかます。このシーンのチャンベールさん、演技過剰で聖職者に成り切ってしまっていて、いったい葬儀屋設定はどこへすっ飛んだんだ、というキメキメっぷり。後でまた酒飲んで葬儀屋に戻るんだけど……。

 南京虐殺を俯瞰的には描かず、あくまでこの教会のみに視点を固定しているが、日本軍の侵攻、占領直後の略奪、その後の統制が取れ始めた時期と、時系列に沿って見せている。侵攻シーンでは戦車VS歩兵の戦闘を描き、その後は凄惨なレイプシーンを持ってくる。どぎついことはどぎついシーンなのだが、末端の兵士はそりゃあこういうことをするだろうな。

 渡部篤郎が演ずる日本軍将校が登場してからは暴力シーンは鳴りを潜めるのだが、代わりに真綿で首を絞めるような占領政策への不安が……。渡部篤郎、台詞が何かほぼ棒読みのようで、英語がそんなに下手なのか、と思ったが、チャン・イーモウにここは感情を込めずに演じろと言われたそう。責任を預かる将校とはいえ、彼もまた上層部の言うなりに動いているだけの人間であり、目の前で起きていること、これから起きることに対する良心の呵責を押し殺し、組織の歯車にならなければならない。その人間味は、ピアノ演奏のシーンでわずかに示されるのみだ。

 その渡部篤郎将校より、占領記念の祝賀会で、女生徒たちに聖歌を披露してもらいたいと依頼と言う名の命令が……。前回、レイプされかけた少女たちはビビりまくり。この後で、彼女たちが慰み者として供されるのかははっきりとは明示されないんだけど、渡部篤郎が「私も命令されてるんで……」と若干後ろめたげなのがまた嫌な感じに不安を煽る。
 少女たちを助けるために、葬儀屋と娼婦たちは一計を案じ、メイクとカットで女生徒に成りすまして入れ替わることに……。

 まあこれまたすごいハッタリ精神で、このあたり原作の小説通りなんだろうが、設定からしてさすがにちょっと無理がないか……という気がするところ。例えば占領軍が欧米人ならば「アジア人の区別つかないし!」で誤魔化せそうだが、違うからな……。で、後の連行シーンでは、なぜか顔を知ってる渡部篤郎が来てないのが御都合主義感あり。
 また娼婦の一人と、ここでも演技が大マジなチャンベールさんの恋愛要素もあったりと、緊張感と裏腹に結構グダグダ感もあったな……。

 もう少し大作かと思っていたが、意外にこぢんまりと局地的な内容で、戦火の中の1エピソードを切り取った感じの映画でしたね。小道具の使い方など含め、まあ面白いことは面白いが、合作のチグハグ感が最後まで抜けない感じで、ちょっと高評価はつけづらい映画でもありました。

サンザシの樹の下で [Blu-ray]

サンザシの樹の下で [Blu-ray]

妻への家路 [Blu-ray]

妻への家路 [Blu-ray]

英雄 ~HERO~ Blu-ray

英雄 ~HERO~ Blu-ray

”私と彼女の息子”『姉妹関係』


『姉妹関係 / SISTERHOOD / 骨妹』 予告編 Trailer

 大阪アジアン映画祭2017、八本目!

 1999年、中国返還直前のマカオ……。マッサージ店で働き出したセイは先輩であるリンに助けられ、仕事を覚えていく。深い信頼関係を築いた二人だが、15年後の今、セイは台湾にいた。かつて、リンに拒絶されマカオを離れた苦い思い出を抱えて……。

 ジジ・リョンさんはちょくちょくこの映画祭で見ている、俺の中で「アジアン映画祭女優」であるな。去年は『ウォン・カーヤン』、一昨年は『アバディーン』と……。
 今作はヒロインの「現在」の姿で、これまた『ウォン・カーヤン』と同じ感じですね。

chateaudif.hatenadiary.com
chateaudif.hatenadiary.com

 夫と幸せな結婚生活を送っているはずが、なぜか満たされず、酒浸りになっているヒロインのセイは、実は心に満たされぬものを抱えていた。それがタイトルの「姉妹関係」である、かつて姉と慕った女性との過去……。
 冒頭、いっしょに子供を育てていたはずの「姉」の突然の変節が回想され、それを機にマカオを離れ台湾へとやってきたことが描かれる。だが、十数年を経て、その「姉」の訃報が伝えられ、マカオに戻ることに……。

 過去に戻って主演女優交代。若い頃を演じるフィッシュ・リウさんは昨年『レイジー、ヘイジー、クレイジー』でも主役級で、真っ先に援助交際に手を染める女子高生役でありました。今作でも場合によっては「抜き」もやるマッサージ店で働くことに。

chateaudif.hatenadiary.com

 この人、映画祭のイベントで来日したので、舞台挨拶なんかでも見たのだが、あまり笑わないのが印象的。非常に「素」な表情の人でしたね。
 マッサージ店で出会い、先輩役となるのがジェニファー・ユー演じるリン。不慣れな仕事に戸惑うセイに、最初は冷たいんだけど実は人情味溢れてて段々と親切になるという……。

 お話は現代と過去が同時進行で進み、過去編の中国返還直前のマカオと、現在のマカオが対比される格好にもなっている。まあ映画は政治状況よりも、単に歳月によってこれだけのことが変わってしまった、という演出として取り上げている感じかな。

 マッサージ店の同僚含む女の子たちが友情を育んでいく過程が自然で、特にセイとリンの二人がそれを超えて義姉妹となり、妊娠して父親もわからぬリンの子を二人で育てようとする展開の情愛深さが心を打つ。一方で、リン自身がその二人の関係を信じきれず、セイには別の幸せがあるのではないか、と考える展開も、悲しいがあり得る感じで、女性二人で子供を育てる、という関係性が周囲に認められていないがゆえの悲劇ですね。

 そこで冒頭のシーンが芝居だったことがわかるわけだが、まあ観客の九割は最初から気づいていたと思うし、ちょっと豹変っぷりが露骨すぎ、セイが十数年もそれに疑いを持たずにいたことも含め、いささか荒っぽかったかな……。長じてからのアル中描写もジジ・リョンさんは酒瓶をぶら下げているがいまいち板についてないし、マカオで閉店したスイーツ店を引き継ぐあたりもいい加減で、少々脚本が荒い印象でもったいないところ。

 非常に真面目に作られていて、女優陣のフレッシュな魅力も含めてシンプルにいい映画ではありました。

ヒットマン [DVD]

ヒットマン [DVD]

ターンレフト・ターンライト 特別版 [DVD]

ターンレフト・ターンライト 特別版 [DVD]