”時を止めて”『ミス・ペレグリンと奇妙な子供たち』
ティム・バートンのダークファンタジー!『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』予告編
ティム・バートン監督作!
周囲に馴染めず孤独な少年だったジェイクの、唯一の理解者であった祖父が謎の死を遂げた。怪物に襲われたと最後に告げた祖父の遺言の通り、ジェイクは小さな島を訪れる。島の奥、謎めいた洋館を発見したジェイクは、そこで祖父の知り合いであるというミス・ペレグリンという女と出会う。彼女は祖父が出会った時のままの姿で何十年も生きていて……。
主演は身長の伸びが止まらないエイサ・バターフィールド君。共演にエヴァ・グリーンということで、ヘレナ・ボナム・カーターと別れた後のポストミューズは彼女が有力なのであろうか?
おなじみテレンス・スタンプが祖父役で、戦時中、孫のエイサ君にモンスターと戦った話、孤島にあるミス・ペレグリンという名の女の館に住んでいた話を語る。お父さんだと『ビッグ・フィッシュ』のようなホラ話として段々と敬遠される宿命だが、ちょうど色気付き始めるギリギリの年頃の孫には、まだこの手の話はおじいちゃんへの親近感も含めて生きている感じ。
そのおじいちゃんが謎のモンスターに殺され、「あの話は本当だったんだ!」と確信を深めるあたりが早い。そして父親と共に島へ……。
父親はまさに『ビッグ・フィッシュ』的にホラ話にうんざり、というスタンス。この父親視点が入っているせいで、ちょっとピントがボケたか? おじいちゃんと正反対の無理解の権化、という風には描かれていないのだが、踏み込んでくるようでこないのがもどかしい。ただ、これがティム・バートンのリアルな父親観なのかもしれない。自分の父親よりは子を持った自分自身のことなのかな……? 後半、このお父さんは話と関係なくなって、主人公は普通に異世界に行ってしまうので、前半のちょっとしたくすぐり程度に留まってしまったな。
『X-MEN』シリーズで、ナチスによるミュータントの弾圧が描かれていたけれど、今作にも同じ展開があり、特殊能力を持ったペレグリンの館の住人たちは弾圧を逃れて時の「ループ」の中に隠れ住んでいる、という設定。ホロコーストのメタファーとなっている怪物が「ホローゴースト」! なかなかわかりやすいネーミングで良いですね。中盤以降はおなじみのビジュアルセンスの楽しさで勝負。
これからは『ビッグ・アイズ』のようなテーマ性の強い映画が増えるのかな、と思ったが、どうやら違ったようだ。『アリス・イン・ワンダーランド』ほどビジュアル頼みでもなく、バートンのテイストとしてはバランスを取ってきた感じ。前述の『ビッグ・フィッシュ』感もあって、ちゃんとティム・バートンの作品、と思える。とはいえ、新鮮味があるかというとそれはなく、集大成になってるかというとそこまでの完成度もない、要は手癖で作ってる感がしないでもない……。
まあ監督のファンなら充分楽しめるが、反面物足りなさも多分に感じる一本でもありました。
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”ボヴァリー夫人でもない”『わたしは潘金蓮じゃない』
『わたしは藩金蓮じゃない / I AM NOT MADAME BOVARY / 我不是藩金蓮』 予告編 Trailer
大阪アジアン映画祭2017、五本目!
会社から提供される部屋が目的で偽装離婚したリー・シュエリエンとその夫。だが、復縁するはずが夫は別の女と結婚してしまう。訴訟を起こすシュエリエンだったが、事態はますます複雑化し、彼女は陳情のため北京に向かうことに……。
邦訳もされている中国の人気小説を、フォン・シャオガン監督が映画化。
いや、事前に予告編はチェックしていたんだが、画面サイズがすごいことになっている! 通常のスタンダードサイズをさらに丸く切り取った小さい画面がずーっと続くのだ。話が進んで時々田舎から北京に出かけていくのだが、そこでスタンダードサイズになる。が、田舎に戻るとまた丸い画面。
おかげで……なんだか……よく見えないぞ……? かなり前の方で見ていたのだが、そもそもその構図に収まるような画面づくりをしている上に、クローズアップも使わないので、役者の顔までよく見えない。主人公のファン・ビンビンの表情もよく見えず、妙に突き放したような絵面が続く。
さすがに情報量が少なすぎ、なかなか話が頭に入ってこない。あ、眠い……。
クライマックス後の現代パートで、やっと普通のビスタサイズの画面になり、そこから突然、主人公が自らの行動の意味を語り、その心情を吐露する。ここに至るまで、彼女のこだわりの正体を敢えて見せないための設計だったことがわかり、なるほどと納得させられたわけで、実に見事な構成……なんだけど、やはり見づらくて眠いのは仕方ないねん。
人を噂話で潘金蓮扱いしちゃう田舎の閉塞感は強烈で、またファン・ビンビンの美貌を前に臆面もなく「やりたがる」村人たちよ……。そして本来彼女の訴えを処理しなければならない役人は、無責任で、仕事せず、全てをたらい回しにしていく。それでも十年にわたって食らいつき続けた彼女の執念の原動力とは……。今作は、中国の法制度や政策の矛盾などをダイレクトに問いかけていく。
これは大変渋い映画で、意図を汲んで観ればなかなかすごいはずである。が、ちょっと眠気に負けて頭が追いつかなかった。残念だ……。この年の『孫中山』枠だったかな。
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”ただ君のもとへ帰る”『キングコング 髑髏島の巨神』
『ゴジラ』に続く、レジェンダリーの怪獣映画シリーズ。
太平洋、嵐に常に隠された謎の孤島「スカル・アイランド」。ヘリコプターで島に調査に向かった学者、カメラマン、軍人らで構成された遠征隊は、地質の調査のために爆弾を投下する。だが、それによって島の守護神キングコングが、そしてコングと戦う謎の怪物が目覚めてしまう……。
太平洋戦争末期から始まり、舞台はベトナム戦争直後の1963年へ……。『キングコング』はピーター・ジャクソン版も初代のリメイクを志していたわけだが、今作はそこから離れ、完全な新作ストーリーに。
前振りを長めに取って、船ではなくヘリで上陸した髑髏島。爆弾を落としていたところ、いきなりコングに遭遇だああ! 旧作では飛行機に射殺されたコングですが、まったくびびらずヘリ部隊を粉砕、落ちてきた兵士をパックンチョ!
部隊壊滅の憂き目にあったサミュエル・L・ジャクソンは、コングへの敵討ちを誓うのであった。が、この人は終わったばかりのベトナム戦争に対して同じ感情を抱えているので、コングに対しては半ば八つ当たりなのよね。映画はそこを肯定的には描かず、島を脱出しようとする案内役の傭兵トム・ヒドルストンとカメラマンのブリー・ラーソン、そして太平洋戦争末期に島に取り残されて生き残ったジョン・C・ライリーが主人公的存在になる。
ハリウッドゴジラが不自然なくらいに人間を避けてたのと近いスタンスで、コングさんは基本的に人間にあまり興味がないのよね。現地住民やジョン・C・ライリーとのコンタクトもほぼなしで、序盤のヘリとの攻防もあくまで爆撃への怒りとして描かれる。ブリー・ラーソンとのちょっとした触れ合いこそあるが、彼女の服を破いてキャー!みたいなシーンはなく、今回のコングさんはスケべ心のないマッシブな存在である。永遠に童貞であることが宿命づけられているにも関わらずストイックな……。
フォルムもほぼ直立して、筋肉も逆三角形、意外に小尻かな……。ジャンプ力ある割には下半身が小さめに見えるかな。
監督はすごいオタクだな、という印象で、要は興味のない要素をバッサバッサと切り捨てて、好きなものを代わりにどんどんぶち込んでいる。あまり必然性のないソードアクションなどがその典型で、あれだけの出番だったMIYABIさんも愛刀をトムヒに譲らずおっさんになって登場して欲しかったところですね。まあジョン・C・ライリーと違って、「戦争に勝ったと思い込んでる元日本兵」なんかに登場されたら話が余計にややこしくなるか……。太平洋戦争に取り憑かれた男とベトナム戦争に取り憑かれた男の対決は、それはそれで面白そうだが、まあお話にするなら「早く帰国してビール飲みたいよ」なジョン・C・ライリーの方を対立軸にしちゃうわな。
相変わらずコネで出演しているのであろうジン・ティエンの台詞のなさ、活躍のなさ、メイクの綺麗さは異常なのだが、このあたりも作り手の割り切りの速さの傍証という感じで、トムヒさんがアクションとしてはともかく、お話の上では活躍してないように見えるあたりも、その一部か。まあいいよ、人間はほどほどで。それよりコングコング、他の怪獣も出していこうぜ、と宮崎駿にエヴァオマージュの方に熱心なあたりが清々しい。
顔が使徒っぽいスカル・クロウラー、大ボスが大きいだけというのは少々残念だったが、命名するところは東宝特撮のいつのまにか名前が勝手につけられてるパターンを茶化したようで面白かったね。
普通の3Dで見た後、IMAX3Dで見たが、やっぱり別物だったなあ。ただ普通に2Dで観ても充分面白かったんではないかな、という気もする。次はゴジラとの対決だそうですが、まだまだ巨大化しないとダメだな。
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ルシフ様の対決映画ベスト10
ワッシュさんの春のベスト10企画に参加します。
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今回はタイトルに対決しちゃう両者の名前が入っていないといかんそうで、なかなか難しい。どんな素晴らしいファイトシーンがあっても選べなかったりするわけですからね。
1.『ドラゴン×マッハ!』
現在の香港映画でも至高のファイトが展開される最新作を一位に! 公開当時、ドラゴン=ウー・ジン、マッハ=トニー・ジャーというあまりに安直なタイトルの付け方に辟易としましたが、おかげで選べるんだから何が幸いするかわかったもんじゃありません。まあメインはこの二人の対決じゃなくてマックス・チャンとの二対一のバトルなんですがね!
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2.『フレディVSジェイソン』
オリジナルにリスペクトを捧げつつなぜかカンフー要素まで詰め込んだ、VSものの金字塔。対決の華はステゴロ対決だが、フレディは生身でも強かった……。
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3.『ガメラ3 イリス覚醒』
玄武対朱雀、人間との絡み、京都駅で対峙する絵面など、2大怪獣の対決の構図にとことんこだわったところがいいですね。
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4.『スコット・ピルグリムVS邪悪な元カレ軍団』
格闘ゲームオマージュということで、対決対決の連べ打ちで構成。その中でキャラクターの成長を描く王道展開。
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5.『サイボーグ009VSデビルマン』
往年の東映対決路線へのオマージュ。近年の009映画化の中では一番面白かったから……。
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6.『ゴジラ対メカゴジラ』
7.『ゴジラVSメカゴジラ』
8.『ゴジラ×メカゴジラ』
こうして並べてみると、永遠に続く己が銀色の影との戦いが、一大叙事詩のように見えてこないでもない。他に二本もあるしな……。ハリウッドでもシン・ゴジラQでもいいから、メカゴジラまた出して欲しいな!
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9.『霊幻道士3 キョンシーの七不思議』
霊幻道士VSキョンシー! 『コイサンマン キョンシーアフリカへ行く』と5分ぐらい悩みましたが、やっぱり本家本元をチョイス。
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10.『ツイン・ドラゴン』
「ドラゴン」という呼称の一体誰なの感を便利に感じつつ、ジャッキーVSジャッキーなこれをラストに。まあ共闘の要素の方が強いですが気にしない!
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カーペンター監督作がジャケット変えて再発。
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”今日は素敵なバレンタイン!”『52Hz,I LOVE YOU』
『52Hz, I LOVE YOU』 予告編 Trailer
大阪アジアン映画祭2017、四本目!
花屋を経営する小心は花束を届けながら運命の出会いを待ち受け、パティシエの小安は叶わぬ恋を抱きながらスイーツを作り続けていた。バレンタインデーにそれぞれ配達に出かけた二人は、最悪の出会いをするのだが……?
『セデック・バレ』のウェイ・ダーションの最新作。あの大作に続き『KANO』も製作して、ちょっと疲れてしまった……ということで撮ったということらしい。まあ小品という意味合いで受け取って構わないと思うが、非常にシンプルな代物。メインの四人のキャストは全員役者ではなくミュージシャンだそうである。確かに、言われてみればそれぞれ雰囲気はあるものの演技力にはばらつきがある感じで、何かしらオーバーアクトね。
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バレンタイン当日、四人の男女の恋模様を描くという単純なプロットなのだが、いや……これ、30分ぐらいで済みそうな話なんだよな。でも、場面が変わるたびに延々と歌い踊り続けるのでつらい! いやまあ、ミュージカルってこういうものだよね……ということだが、あまり事前情報入れてなかったせいでミュージカルとそもそも知らなかったので、速攻で帰りたくなったよ。
で、単純な話であること自体はいいとしても、長期にわたる恋愛関係で起きたすれ違いが、楽曲と踊りのムード頼みでなんとなくうやむやになる、という、展開とさえ言い難い展開がクライマックスを締めるのにはいささか呆然となってしまった。これは明日また揉めるんじゃないの……?と心配になってしまう。
全登場人物が、恋愛したくてたまらない、結婚したくて焦っているという恋愛体質映画で、そこに異論が挟まれる余地もない。まあこういう価値観を共有できないと話にならんわな……。
楽曲はまあ良かったし、サブキャラで登場するLGBTのカップルは非常にスマートで、台湾のほんわかした雰囲気も含めていいところもあるのだが、なかなかつらいものがあったでござるよ。やっぱりウェイ・ダーションは気合い入れて神経すり減らして殺伐たる超大作を撮り続けてほしいな……。
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”俺に弾は当たらない”『マグニフィセント・セブン』
『荒野の七人』リメイク!
悪党ボーグの脅威にさらされるローズ・クリークの街。教会さえも燃やされた中、夫を殺されたエマは、街を守るために七人のアウトローたちを雇うのだが……。
『七人の侍』は見たけど、如何せん20年ぐらい前の話だから忘れたな……。ピーター・サースガート演じる悪党に目をつけられて大ピンチになっている村を、デンゼル以下七人のガンマン(弓を持ってる人もいるが……)が迎え撃つ、というお話。
最近、話題沸騰中?のヘイリー・ベネットが無法者によって夫を殺され、事態の発起人として村の代表者としてガンマンたちを集める。まずはリーダー格のデンゼル・ワシントンから……なんだが、同じアントワン・フークア監督の映画では二面性のある不穏な役をやってた彼が、どうも今回は単にカッコいいだけの役をやりたかったのか、時々ある底の浅いヒーローデンゼルそのもの。この時代に黒人がガンマンやってる、ということの危険さなど、キャラに意味付けも相応にあろうはずなのだが、そこをいつものデンゼル力というスターオーラだけで乗り切っているため、単に空虚にしか見えない。
で、またデンゼルには弾が一切当たらないんだよな。後半は死者も出るんだが、デンゼルは物理法則の歪んだ空間に生きてるように見え、かすりもしない。いや、『イコライザー』でさえ、それなりにピンチに陥る展開はあったと思うんだが……。
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また演出がいちいちもったいつけて見えるせいで、この後のクリス・プラットのカードのシーンなども、「キャラ付け」のためにやってるわざとらしい演技に見えてきてつらいのだ……。
この後もイーサン・ホーク、イ・ビョンホン、ヴィンセント・ドノフリオら、「個性豊かなキャスト」が「タイプキャストの定番芸」をダラダラ演り続け、予想されるキャラの役割を一つも超えてこない。
モブキャラと、七人プラスヘイリーちゃんの色分けがきっちりされすぎで、映画内でもなんとなく弾が当たるゾーンとそうでないゾーンがあるように見えてきて、どんどん退屈してくる。撮り方にもメインキャストへの思い入れは感じるわけだが、逆に大仰に演出過剰に見える。
どうもフークワは『サウスポー』にこれとハズレが続いているな。かつての『トレーニング・デイ』も友人が「ブラックムービーの真似しただけ」と散々こきおろしていたが、今作もそういうことなのかもしれないね。
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