”お前の動きは読めた”『ロスト・バケーション』
映画 『ロスト・バケーション』予告 ”本格的サメ映画、遂に誕生篇”
サメ映画!
医師見習いのナンシーは、休暇を利用して人里離れたビーチにやってくる。そこはガンに倒れた母の思い出の場所だった。得意のサーフィンを楽しみながら、ナンシーは人生に対し行き詰まりを感じていた。だが、その彼女を、海中から何かが襲う……!
ジャウム・コレット・セラ監督が、リーアム・ニーソンから久しぶりに離れてサメの映画! ワンシチュエーション・スリラーということだが、設定は面白そうなのにオチは無理くりのミステリ映画を撮るよりも、彼の演出力をずばり活かせそうである。
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母がかつて訪れたビーチにやってきたブレイク・ライブリー演ずるヒロイン。母の死によって自分の生にリアリティを持てなくなり、進んでいた医学の道の限界に絶望している。名前も知らないビーチからは妊娠した女を思わせる島が見え、どことなく彼女の胎内回帰願望のようなものをうかがわせる。当然、その先にあるのは生まれ変わり、いや生まれ直しとでも言うべき試練である。
食いちぎられた鯨の死体がぽっかり浮かぶ幕開けからなかなかフレッシュで、必死こいてその上に這い上がる嫌なシチュエーションが面白い。当然のように死体に体当たりを食わすサメ! くるくる回る死体の上で必死に走るヒロイン。
何もない海の上だが、鯨の死体→岩礁→ブイとぎりぎりの安全地帯を渡り歩きサメの攻撃をかわす。移動すること自体で一展開、移動した先でもう一展開と、次々にイベントが起きて心が休まる瞬間がない……いや、唯一の癒しが翼を脱臼して岩礁にいるカモメ。カモメは英語でsea gullだから、スティーブンと命名……いや、シャレかよ! seagalだから違うよ! どんな時でもジョークを忘れないアメリカ人気質であり、こんなピンチでもセガールがいれば安心なのになあ、という皮肉がちょっと込められているようでもあり、いつも撮ってる映画でリーアム・ニーソンがセガールみたいに強いと揶揄されていることへのアンサーのようでもあり(これは違うな……)。
実物のカモメで撮影されたそうで、なかなか良い味を出している。まあ役には立たんのだけれど、彼を助けることで医療従事者としての主人公の気力が戻ってくるあたりも面白いし、母親の生まれ変わりみたいな見方もできますね。
サメ以外にも尖った岩やら珊瑚やらも強敵で、全部含めて自然の猛威なのだが、そうして怖い反面、非常に美しく撮られてもいる。クラゲのシーンが美しかったですね。
サメは怖いけど、ぎりぎり怪物ではなく動物っぽいところも残し、そこはかとなく悲哀も感じる。ただ本能に従っているだけの生き物が、やがて感情らしきものを露わにして襲い来るあたり、なんとも不幸な出会いだったのだなあ。
話の都合上、ずーっとビキニのブレイク・ライブリーさんだが、初手から脚を血だらけにされ生々しい負傷を負っているので、お色気云々言うている場合ではない。丸一昼夜海の上で過ごして憔悴し、体力も衰えてくる。
ビーチに人は来るのだが、酔っ払いのおっさんか無警戒のサーファーで、次々と食いちぎられていき全然役に立たない。サーファーのライブカメラに最後のメッセージを残し、主人公は決死の脱出行に挑む……!
ワンシチュエーションだが状況の変化と主人公の心理の変化を細かに描いて退屈させず、またライブリーさんも思いのほか締まった演技力を見せてくれて、画面に釘付けにさせてくれる。あまりややこしい脚本じゃないのも良かったね。『ジョーズ』、『ディープ・ブルー』に続く面白いサメ映画と言ってもいいのではなかろうか。
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PEACE KINDLE 皆川亮二編
『スプリガン』の頃からずっと読んでいる漫画家さん。不思議なご縁があって、サインも4つぐらいもらっているぜ、フフフフフ……。
主要作品、『スプリガン』『ARMS』『D–LIVE』『ADAMAS』『PEACE MAKER』、最新作の『海王ダンテ』、すべて電子化されています。
- 作者: 皆川亮二,たかしげ宙
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- 作者: 皆川亮二,七月鏡一
- 出版社/メーカー: 小学館
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- 作者: 皆川亮二
- 出版社/メーカー: 小学館
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- 作者: 皆川亮二,岡エリ
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PEACE MAKER 17 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)
- 作者: 皆川亮二
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一冊限りの『KYO』も出てるので、もし買ってない人がいたら読んでみたらいいんじゃないかな。
映画の見方がわかる電子書籍 町山智浩編
『映画の見方がわかる本』、と言えば町山氏の代表作だが……電子化されていません! 早速、看板に偽りありの記事になってしまった。
kindleで出ているのは、主に文春のアメリカ文化について語ったシリーズ。こちらは揃っているし、文春は時々半額程度のセールをやっているので、割と簡単に集められる。
トランプがローリングストーンズでやってきた 言霊USA2016 USA語録 (文春e-book)
- 作者: 町山智浩
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
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マリファナも銃もバカもOKの国 言霊USA2015 USA語録 (文春e-book)
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- 出版社/メーカー: 文藝春秋
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- 作者: 町山智浩
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他には、柳下毅一郎氏との共著『映画欠席裁判』が出ています。
- 作者: 柳下毅一郎
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2013/09/06
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- 作者: 越智道雄,町山智浩
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2014/01/21
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kindle化されていない本
要はホームグラウンドたる洋泉社の本が全く出ていない、ということで。どうだろう、将来映画秘宝が電子版で出るようになったら、自分もそっちを買うようになるだろうか? 本誌はともかく、ムック版ならちょっと揃えてもいいかもしれない。
- 作者: 町山智浩
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2013/09/20
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映画の見方がわかる本―『2001年宇宙の旅』から『未知との遭遇』まで (映画秘宝COLLECTION)
- 作者: 町山智浩
- 出版社/メーカー: 洋泉社
- 発売日: 2002/08
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〈映画の見方〉がわかる本80年代アメリカ映画カルトムービー篇 ブレードランナーの未来世紀 (映画秘宝コレクション)
- 作者: 町山智浩
- 出版社/メーカー: 洋泉社
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”道は開かれている”『シング・ストリート』
ジョン・カーニー最新作!
1985年ダブリン。不況による父の経済的失墜のあおりを受け、次男のコナーは荒れた吹き溜まりであるシング・ストリート校へと転校を余儀なくされる。どうにか日々をやり過ごしていたコナーだが、ある日、学校前で出会ったモデルを名乗る少女を口説くため、バンドを結成することに……。
前作『はじまりのうた』を終えて、故郷ダブリンに戻り自伝的映画を撮ろうとしている監督。今作は無名キャストで揃えたことを聞かれ、キーラ・ナイトレイをボロクソに!
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そして、その後、叩かれまくって即平謝り! ダサい! ダサいよ!
言わんでもいい本音をうっかりぶちまけてしまった、というところで、現場ではよっぽどムカついてたんだろうな。『はじまりのうた』という映画自体が、まさにスターと商業主義への批判の視点があるので、そんな映画の現場で主演女優は真逆のスター気取り! どういうことだ!と余計腹立たしかったのかもしれないが、清く貧しく美しく、という映画の発想も少々幼稚だったので、監督自身がその幼稚さを発露してしまったとも言えるかもしれない。図らずも映画の中の思想対立が、キーラと監督を合わせ鏡にして実社会に噴き出たような、なんとも形容しがたい出来事でありました。
そんなこんなでハリウッドに懲り懲りした監督(でも平謝りしたんだから、またアメリカで撮りたいんだろうけど)、今回は原点回帰でダブリンにカムバック! 舞台は80年代、引きこもりの兄に薫陶を受け、恋と音楽に邁進する少年を描いた自伝的映画。デュラン・デュランのPVを見て、彼らはアメリカ進出してこちらにいないから、地元のTVじゃPVを流しているんだと語られる冒頭から、こりゃあ相当アメリカへの憧れは強いな、ということも伺える。アメリカをバカにしかしてないバーホーベンじゃあるまいし、やっぱり平謝りもやむなしか。
両親の離婚間近で、学費が安いからという理由で下町の高校に転校させられた主人公、普通の子のようで、結構マイペースでクソ度胸ある奴で、イジメにも校則にもまったくびびらず、自称モデルの女の子を口説くために早々にバンドを結成する。ギター、キーボード、ベースにドラム、マネージャー……同好の士はきっちりいるものだが、80年代のアイルランドの閉塞感がちょいちょい描かれていて、才能があっても海を渡ったロンドンには行けずにくすぶっている連中が多いことが語られる。
家出と独立に失敗した兄という存在を目の当たりにし、主人公は自分にもそのコースが待っていることを薄々感じている。そして両親の離婚、別居が近づく……もう居場所はなくなる。
モデル志望の女の子ラフィーナも同じで、でかい家に住んでる……と思ったら身寄りのない子の保護施設だよ! これまたいずれは出なければならない場所。
成功しようと思ったら障害だらけの人生、親兄弟など先行してくすぶっている負のモデルの存在には事欠かない。その中で心が折れて安全な選択をし、結局は同じようにくすぶった存在になっていくのか否か。
このプロットと、恋愛相手と恋愛そのものが乖離せず、二人の共通の問題、そして未来としてクローズアップされていく。
最初のPVのド下手だけど味がある感じがまたすごくいいのだが、その後から歌も演奏も加速度的に上手くなってくる。途中の『バック・トゥ・ザ・フューチャー』オマージュのシーンの完成度が素晴らしい……のだが、ここは主人公の空想の完成版PVで、実際のところはダンスも服装も決まってないし、家族や校長、ラフィーナさえもきていないちょっと寂しいことになっている。その他のシーンは一応「本当に起きていること」として描いているが、ラストの海のシーンなどのやや荒唐無稽かつ隠喩に満ちた感も含め、虚実ないまぜのファンタジックなテイストを少々残しているとみていいかな。
自伝と言うことで「信用できない語り手」込みで考えると、もちろんここまでいい話ではなかったに決まってるだろうが、監督はこの3年後、19歳ですでにミュージシャンとしてデビューしてるんだな。さらにお兄さんはすでに亡くなったそうで、悲しいな!
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』では、50年代に帰ってパンチ一発で世界は変わるのだが、今作でも『カラー・オブ・ハート』と同じく両親は仲直りしないし、ステージが終わっても何も変わってはいない。だからこそ、未来へ向かって旅立つのだ。
『ブルックリン』に続き、またも海を渡られてしまうアイルランドが、あまりよく描かれずなかなかに気の毒ではあるが、今はどうなっているんだろうな。
シンプルな話で全体に甘いところも多々あるが、楽曲の素晴らしさとセンスでカバー。それほど深く描きこまないながら、愛すべき脇役たちも良いですね。バンドメンバーが無駄にスローで歩くあたりも最高だし、それぞれの家族も良い味を出している。
相棒のエイモン君のポール・マッカートニー感もいいし、ヒロインの役者の設定よりもうちょい年取ってるところがまた背伸びした感があって逆にハマってますね。
もう一回見るかというと、youtubeに上がってるクリップとサントラでいいことにしちゃうが、非常に面白かったですね。
Sing Street - Drive It Like You Stole It (Official Video)
SING STREET - THE RIDDLE OF THE MODEL Music Video Clip
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”奴らが帰ってきた”『インデペンデンス・デイ:リサージェンス』
映画「インデペンデンス・デイ:リサージェンス」予告G(特別予告編)
あの宇宙人映画の続編!
宇宙人との死闘から20年。30億の人口を失いながらも、人類は新たなテクノロジーを得て地球防衛のためのシステムを構築していた。そして、残された宇宙船の残骸からSOSが発信され、再び新たな侵略者が襲来する。「女王」とは何者か?
続編を作るにあたって、
1.もう状況説明はいらないから、いきなり大スペクタクルを起こす
2.もう人物設定の説明はいらないから、キャラクターをより深く掘り下げる
3.前作のギャグを繰り返して旧ファンを楽しませる
というコンセプトを立てるのは、別段間違ったことではないし、常套手段であるとさえ言えるだろう。が、
1.20年後でSF設定をぶち込んでいる分、割と説明必要だった上に、やっぱりいきなり大スペクタクルしちゃうのでタメがなく感じられ盛り上がらない。
2.20年後で血縁者含め新キャラが多数登場しているので、旧キャラとどちらも満遍なく活躍させるために中途半端に。
3.同じギャグを「どうです? おもしろいでしょう?」と別のキャラがやると急に寒く感じるのはなぜだろう。
……とまあ、ことごとく裏目に出ているから難しい。
巨大表現と都市破壊描写に先鞭をつけた前作は、20年を経てもそのバカバカしさ込みで面白い映画なのだけれど、同じことをやる部分とやらない部分の取捨選択の結果、間違いなく続編ではあるけれど、前作の興奮は吹っ飛んでしまった。
まあまったく面白くないわけではなく、ビル・プルマンやジェフ・ゴールドブラムがウィル・スミスの遺影を掲げて宇宙人に立ち向かう他、前作キャラの活躍にはほっこりさせられるし、デザインが評判悪かった宇宙人自体が大量登場し、クイーンまで出てくる『エイリアン2』パロディ的な志の低さもいいんじゃないか。
さらに、宇宙船内のクイーンを登場させ、『エイリアン2』やん!と突っ込ませると同時に、そのサイズ感をもエイリアン・クイーンと同じくらいかと誤認させて実は大怪獣である、という辺りはなかなか良かった。
ストーリーは『ガンツ』の最終章に似てるな……。異星文明と、対立するもう一つの文明の存在があって、一方が新たな武器をもたらす。
人物描写になどにちょいちょい小技が効いている部分もあるんだが、大スペクタクルの方にいまいち結びつかず、クライマックスもどんどんこじんまりしていくあたりがなかなか残念でもある。CGの細かさなどからして、相当金もかかっているはずだが……。
今回も中国資本が入っているせいか、パイロット役でアンジェラベイビーさんが登場。しかし世界観がやっぱりアメリカ万歳映画の続編だから、エリア51というアメリカを象徴する場所の中に一人だけ混じってる異物感が半端なくいかにもゲストで、彼女特有の魅力がいまいち見られなかったところ。今後も中国市場への依存は進むのだろうが、いずれこんな取って付けたようなものではなく、両文化が融合した風景は見られるようになるのかな?
正直、素面で見てたら怒り出していたかもしれないが、仕事後にハイネケン飲みながらダラダラ見たら、このゆるい作りがテンションにマッチして、まあまあ気分良く見られた。大して面白くないが、嫌いではありません。
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アンドロギュヌスのkindle 図子慧編
こちらもかなり前から偏愛している作家である図子慧さん。初めて読んだのは角川ホラー文庫の『媚薬』だったかな。
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SF、ホラー、ミステリと多彩な方面に足を突っ込み、必ず美形が登場するわかりにくいようなわかりやすいような作風の、ちょっと変わった作家さんですね。
近年は大作『アンドロギュヌスの皮膚』を上梓するのと前後し、少女小説時代の作品を復刻中。
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- 作者: 図子慧
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kindle化されていない本
痛々しくも美しい狂気の傑作『桃色珊瑚』が出ないかなあ……。文庫版の出ている『晩夏』『ラザロ・ラザロ』『君が僕に告げなかったこと』なんかも欲しいですね。
- 作者: 図子慧
- 出版社/メーカー: 祥伝社
- 発売日: 2006/03
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”もっとも長大な事件”『死霊館 エンフィールド事件』
映画 『死霊館 エンフィールド事件』本予告【HD】2016年7月9日公開
ジェームズ・ワン監督作!
1977年、エンフィールド。シングルマザーの母と兄妹たちと暮らすジャネットの周辺で、謎の怪奇現象が頻発する。おかしな声、浮遊する家具や人体……。依頼を受けたウォーレン夫妻は、現地へ調査に向かう。だがその背後には恐るべき敵の存在が……。
スピンオフの『アナベル』は論外として、前作は地味ながら端正で面白かった印象。前回を指して夫婦が遭遇した「もっとも邪悪な事件」と称していたが、今作はそれより格落ちなのか、それとも別の評価軸があるのか……。
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元々は実際の事件がベースで、2年以上に渡ってポルターガイスト現象が頻発したとのこと。ということは「もっとも長い事件」かな……。まあ映画内ではかなり端折って、あまり期間の長さは感じませんでした。
事件はポルターガイストから幕を開け、地味な動きはそこそこに、豪快に寝室をぶち壊すなどエスカレートが早い。こういう映画ではなかなか当事者以外の前では怪奇現象が起きずイライラさせて引っ張るのが常道だが、検分に来た警察の前でも椅子がスススッと動き、さっさと事実認定! もう手に負えないので霊能者投入……ということで、我らがパトリック・ウィルソン&ヴェラ・ファーミガ夫妻がやってくる。
冒頭の事件で夫が死ぬ予知夢を見ていたヴェラ・ファーミガ、ちょっと事件から離れてのんびりしようぜと構えていた矢先だったので、あまり乗り気ではない。が、あまり本気にしていない夫は、いつもどおりやる気満々。妻がガチの超能力者なのは知っているのに、この警戒心の薄さ、自分の死だけは本気にしないというのはありそうな話ではあるが、若干アホの子にも見える。またヴェラ・ファーミガさんの方が貫禄あって、主役級としては何かが足りないパトリック・ウィルソンは、年下夫的に頼りない(実際はウィルソンの方が一個上)。でも、妻はそんな夫がかわいいのだ!
発端はポルターガイストだったのだけど、家に憑いているおじいちゃんの幽霊が登場し、さらにクリーチャーも出現。もはやワンアイディアでは観客の退屈を止められない現代エンタメに合わせ、手数を出しまくるジェームズ・ワン。デジタルでもきっちり70年代風のムードを出しつつ、恐怖表現の連打連打連打。ジャブが来るかローキックが来るかタックルが来るか読めないMMAのようなもので、物が浮くのか爺さんが出るのか、はてまた恐怖の尼僧が出てくるのか読めない。
そんな感じのスケールアップした盛り沢山さのせいで、前作にはほのかにあった文芸ものっぽさは吹っ飛んでいるのだが、恐怖に巻き込まれる家族の問題を夫婦が解決する、という構造は踏襲している。
恐怖表現はしっかりしているようで、実は残酷描写は欠片もないように抑えられており、当然R指定などつかず、誰でも見られるようになっている。おかげで、小中高校生に囲まれて見る羽目になってうるさかったが、ノリとしては縁日のお化け屋敷に近い。子供だけでも家族でも観られる、クオリティ高くて怖いけど実はまったく人畜無害な虚仮威し。
揺らぎかけた家族愛を夫婦愛が救う、誰も死なない、悪いのは悪魔で人間じゃない、キリスト教にも則った正しいファミリー向け映画でもある。
幽霊の気持ち悪い雰囲気づけなど嫌な後味を残すかと思われる部分もあるが、後半にきっちり回収されて忘れ去れる作りで、ジェームズ・ワンはもはや娯楽映画の巨匠然とした手つきだな……。前作はちと端正すぎて、『インシディアス』と足して二で割ったらいいんじゃないか、と思ったが、そういうバランスである。
上映時間も長めだが、見てる間はなかなか楽しめる快作ホラーでありました。もちろんお化け屋敷はお化け屋敷で、真の恐怖を云々できる映画ではまったくないのだが……。
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